
生産を担う現場に必要不可欠といえる工場用扇風機には、耐久性や稼働性において高い品質が求められる。様々な工場に対応できる工場扇を手がける株式会社スイデンは、工場に快適な作業環境を提供するため、妥協のない製品づくりを続け、長年にわたる利用者からの信用と信頼を誇りに、さらなる成長を続けるパイオニア企業だ。
今回は、代表取締役社長である川合雄治氏に、社長に就任するまでの経緯と、会社の現状および将来を見据えた思いについて話をうかがった。
サラリーマン時代の10年を経て、再び父の会社へ
ーー家業を継いだ経緯はどのようなものでしたか。
川合雄治:
父が創業した会社を私が継ぐという前提で、学生のころから会社の手伝いをしていましたが、その過程において自分で就職活動を行い、弊社と関連のない企業に就職することとなりました。十数年にわたるサラリーマンとしての経験は、非常に貴重なものでした。
紆余曲折あり会社に戻ることになり、会社に戻ってからは、空白期間を埋めるべく、努力を惜しみませんでした。業務を一刻も早く習得するために数多くの会議に参加し、営業で全国を回りました。父が築き上げた会社を継承し、さらに発展させるために、できる限りの努力をしました。
ーースイデンに入社後は、どのような業務に携わりましたか。
川合雄治:
学生時代に工場の手伝いをしていたため、現場の雰囲気はある程度把握していましたが、より深く理解するためには、会社の要ともいえる経理業務を学ぶ必要があると考えました。そこで、経営総務部門に入り、資金繰りや銀行対応、手形から読み取れる他社の状態など、実際にお金を扱う緊張感とともに、経営の細部に至るまでを学びました。
営業を始めたのは入社してから2、3年後のことです。当時、愛知地区には支店がなかったため、市場を開拓するために頻繁に名古屋へ出張し、朝から晩まで歩き回って地道なルートセールスを行いました。
変わらぬ信念と新たな役割で会社を成長に導く
ーー社長に就任されてから22年が経ちますが、特に苦労したことを教えてください。
川合雄治:
社長に就任する前は専務でしたが、社長就任後は専務と社長の役職の違いに悩むことがありました。役員会議でも、専務と社長では一つひとつの発言の重みが異なります。皆の話を丁寧に聞いたうえで社長としての立場から意見を述べるという新たな責任に、最初はなかなか慣れることができませんでした。
お客様との接し方も変わりました。自分自身は変わっていないつもりでも、相手は「社長」として接してくるため、それまで気軽に訪問していたお客様にも、事前にきちんと連絡を入れてから出向くようになりました。
その役職の変化に戸惑っていた時、懇意にしている他社の社長に相談したところ、「社長になっても自分は変わらない。今までの方針も変わらない。やるべきことをやればいい」と言われ、大いに助けられました。それ以来、私は「スイデン」という会社を良くするためには何が必要かを一途に考え続けています。
「安売りはしたくない」の製造哲学で信頼を築く

ーー貴社の事業内容とものづくりにおけるこだわりについて、特に力を入れている点や強みを教えていただけますか。
川合雄治:
弊社は主に工場用扇風機の製造を手がけています。戦後、父が大阪に工場を設立し、工場用扇風機の首振り機能に関する特許を取得しました。「工場扇(こうじょうせん)」という名称は父が生み出したものであり、この機器を主力商品として「スイデン」という会社がスタートしました。現在は、工場の環境機器の総合メーカーとして、掃除機や換気扇など、モーターと羽根に関わる機器を中心に取り扱っています。
弊社のものづくりの核には「安売りはしたくない」という父の強い信念があり、品質には特にこだわっています。機器の羽根の形やバランスの細部に至るまで一切妥協せず、頑丈さを徹底的に追求しています。稼働テストのため、24時間365日、工場で扇風機を回し続けて検査を行うこともあります。
弊社の製品は、適正なコストと価格でお客様にお届けするため、扇風機の値段としては決して安価ではありません。しかし、その耐久性においては長年の信頼と実績を誇っており、お客様には何十年もご使用いただいています。
ーー社員の教育や社内コミュニケーションについてはどのように取り組んでいますか。
川合雄治:
「企業は人なり」という言葉がありますが、弊社では特に人づくりに注力しています。頭の良し悪しではなく、人として信頼できるかどうかを重視しており、そのために社員の研修制度をしっかり整えています。
さらに、社内の風通しを良くするために、コミュニケーションの改善にも取り組んでおり、報告書に頼るだけでなく、社員同士の対話を増やし、顔と名前が一致する環境をつくることで、「報連相」がより円滑に行える職場を目指しています。
77年の歴史を次世代へ!新たな取組で見る未来への展望
ーー今後の事業展開について、特に力を入れていることは何ですか。
川合雄治:
現在、弊社では新規事業部を立ち上げています。これまで取り引きがなかった業界に向けて、新製品を提案するための部門です。既存の機械工具業界では多くのお客様にご愛顧いただいていますが、まだまだ学ぶべきことや開拓すべき分野が残されています。
新たな分野への進出は決して簡単ではありませんが、失敗なしに成功はありません。実際に挑戦を通じて、多くの企業の取り組みや業界の動向を学ぶことができました。
ーー今後のビジョンや展望についてもお聞かせください。
川合雄治:
弊社は2024年に創業77周年を迎え、新たなステージに向けた取り組みを進めています。私の後継者となる3代目の育成にも力を入れています。社長職は、会社をさらに良い方向へ導ける人材でなければならないと思っています。
現社員のモチベーションを高めるとともに、これから入社する方々のためにも、人材面や施設面の環境を整え、会社の基盤をより強固なものにしていく努力を怠らず、社会にも貢献していきたいと考えています。
編集後記
品質を追求し、お客様の信用と信頼に応えるため、ものづくりに真摯に向き合い続けてきた川合社長。ものづくりに加え、人づくりにも力を注ぎ、77周年を迎えた会社の現在に対峙しながら、未来を見据えている。より良いものを創り続けたいという川合社長の言葉には、揺るぎない信念が感じられた。株式会社スイデンのさらなる挑戦はこれからも続く。

川合雄治/1954年生まれ。近畿大学卒業。1994年に創業者である父の後継者として株式会社スイデンへ入社。2002年に代表取締役社長に就任。