
自動車整備用リフトを中心に運搬・作業改善用リフト、介護用リフトなどを製造・販売する株式会社スギヤス。「ビシャモン」ブランドで知られる同社は、顧客目線の製品開発と社員を大切にする経営で、国内外で高い評価を得ている。スピードとレスポンスの早さを重視し、マンネリ化を防ぐ大胆な組織改革に取り組む代表取締役社長の杉浦安俊氏に話を聞いた。
父からの突然の依頼を受け、人生の舵を切った
ーー家業を継ぐ意思はあったのでしょうか?
杉浦安俊:
もともと継ぐことは考えておらず、弊社に入社する前はカードショップを営んでいました。私の趣味はスポーツ観戦なのですが、アメリカ留学中にスポーツ選手のカードを見かけたことが、起業のきっかけです。日本ではあまり見かけないタイプのカードで、「これは商売になるな」と直感したことを覚えています。
その後、1993年に日本に帰国すると、結婚して就職もしたのですが、環境が合わず、わずか10日ほどで退職してしまったのです。そこで、「カードショップをやろう」と思い立ち、浜松駅前に店舗を開きました。
当時はカードショップの認知度が低かったため、お客様を引き付けるために、毎日店のレイアウトを変更し、接客にも工夫を凝らしましたね。その頃の経験が今の顧客視点につながっています。
ーー貴社に入社したきっかけは何だったのですか?
杉浦安俊:
1997年の正月に、親戚が集まっている場で父から突然「会社を継がないか」と言われました。カードショップの事業が軌道にのり、2号店の出店を考えていた矢先の事でしたので、かなり驚きましたが、熱意に押され、弊社に入社することにしたのです。
入社後はほぼすべての部署を回り、営業から製造、技術までさまざまな仕事を体験したことで、社員の気持ちがよく分かるようになりました。その過程で感じた不満や問題点をノートに書き留め、「社長になったら、これを実行しよう」と考えたのです。これが後にカタログの改善やテレビCMの導入へとつながりましたね。
中長期計画より迅速な対応、変化に強い組織づくり

ーー社長就任後はどのような改革をしましたか?
杉浦安俊:
まずは、カタログのつくり方を大きく変えました。たとえば自動車整備工場のオーナーが知りたいのは、リフトの細かい仕様ではなく、導入コストやランニングコスト、メンテナンスのしやすさ、安全性といった情報です。従来は製品の特徴を羅列するだけでしたが、今はお客様がどういう使い方をしたいのかという視点で構成しています。
さらに、業界では珍しいテレビCMも始めました。これには販売促進だけでなく、ブランディングやリクルーティングの効果もあります。特に社員の子どもたちに弊社を知ってもらうことで、家族での話題が増えるなど、社員満足度の向上にもつながっています。
ーー社長としてどのようなことを大切にしていますか?
杉浦安俊:
私は「社員は家族」という考え方を大切にしており、社員1人ひとりの顔や名前、家族構成、現場での評判をすべて把握するように努めています。人を評価するためには、その人のことをよく知っておく必要があると思うのです。
また、家族があってこそ社員が働けると考えているので、社内の運動会などのイベントでは、社員の家族も含めて皆が楽しめるよう、お弁当や焼きそば、ホットドッグなどの出店も充実させるようにしました。お土産にはお米や子ども向けのお菓子の詰め合わせを用意するなど、皆の笑顔が増えるような取り組みをしています。
事業の面では、スピードとレスポンスの早さが重要だと思っています。私は事業において中長期の計画は立てていません。なぜなら変化の早い時代では、未来のことは予測できないと考えているからです。不確定な未来を考えるよりも、目の前で起こることに対していかに迅速に対応できるかを重視して組織づくりを行っています。
思い切った人事異動で目指す組織の成長
ーー現在行っている組織改革について教えてください。
杉浦安俊:
マンネリ化を防ぐために、組織を大きく変えました。営業部長を工場長に、工場長を技術部長に、技術部長を営業部長にするなど、それぞれが経験したことのないポジションで働いてもらっています。新しい課題も出てくると思いますが、それを乗り越えることが組織の成長につながると考えています。
また、製品開発においては、既存の技術を応用するだけでなく、新しい技術に積極的に挑戦してもらっています。技術者には「現状の設備でできないならば、必要な機械を買えばいい」と伝えています。従来のやり方にこだわらず常に勉強し、挑戦し続けていくことが重要だと思うのです。
ーー人材育成の方針をお聞かせください。
杉浦安俊:
弊社は、若い人材を積極的に採用しており、特に高校生や大学生には「社会人としてしっかり育てていく」という意識で接しています。また、若い人材にはどんどん責任ある仕事を任せ、開発会議も若手中心で行うなど、新しい発想を大切にしています。たとえ失敗したとしても、それは次につながる経験だと思うのです。こうした若い力とこれまでに培ってきた技術力をかけ合わせて、これからもお客様と社員の笑顔を増やし続ける会社であり続けたいと思っています。
編集後記
杉浦社長の経営手法は「人」を中心に据えたものだ。カードショップで培った顧客視点、社員や家族への真摯な愛情、そして常に進化を求める姿勢。インタビューの最後に杉浦社長が語った、「すべての人が笑顔でいることが大事」という言葉が印象に残った。自らマスコットキャラクターになるユニークな発想も、その人間味あふれる経営スタイルの象徴と言えるだろう。

杉浦安俊/1969年、愛知県生まれ。Los Angeles Harbor College卒業。アメリカ留学中にトレーディングカードビジネスの可能性を見出し、帰国後の1993年に浜松駅前でカードショップを開業。1997年に株式会社スギヤスへ入社。2011年、同社代表取締役社長に就任。