※本ページ内の情報は2024年8月時点のものです。

2023年から「電子処方箋」の運用が、全国で始まった。患者の同意があれば、複数の医療機関・薬局にまたがるお薬の情報を医師・歯科医師・薬剤師に共有することができ、今回処方・調剤する薬と飲み合わせの悪い薬を服用していないかなど確認できることで、薬剤情報にもとづいた医療を受けられるようになる。

2025年には、「電子カルテ情報共有サービス」の開始が予定されている。政府肝いりの「医療DX」は、コロナ禍で一段と加速し、医療機器や医療システムを扱う企業の競争は激化している。

株式会社タカゾノは、60年以上医療機器・医療システムを製造販売する会社だ。錠剤や粉薬を個別に包装する「調剤分包機」や「自動調剤台」において、国内シェアはトップクラスを誇る。医療DXの波に乗り、海外進出も進める同社の代表取締役社長、北口勤氏に未来への展望や求める人材像についてうかがった。

上昇志向、チャレンジ精神を持つことの重要性

ーータカゾノに入社した経緯を教えてください。

北口勤:
弊社に入社するまでは歯科技工士として公立の総合病院に勤務していました。仕事は安定していましたが、自分で経営に挑戦したいと考え、30代で歯科技工所を開業しました。

弊社の創業者の長女と結婚したご縁もあり、日常的にタカゾノの将来に対するビジョンに触れ、自分も一緒にその夢の実現に参加したいという思いが膨らみ、入社を志望しました。

ーー異業種からの転職で一から仕事を学び、どのように経営承継に至ったのでしょうか。

北口勤:
会社の規模は違えど個人事業主としての経験値はとても役に立ちました。また、成長期の会社であったため人手が足りず、入社を好意的に受け入れてくれました。特に直属の上司には大変お世話になりました。私を一人前にしたいという純粋な思いと指導に、今も感謝しています。

おかげで順調に仕事を覚え、その後は役員として経営に携わり社長に就任しました。会社の成長・持続のためにも、社員のためにも、覚悟を持って決断しなければならない「意思決定」に、社長の重責を実感しています。

また、気持ちよく働いてもらうことが成果を上げる重要なポイントだと考えていますので、社員とのコミュニケーションは丁寧さを意識して行うようにしています。自分では激励のつもりでも、異なる受け取り方をする場合があるため、社長としての発言や言葉の選択にはとても配慮しています。

風通しと見える化を重視した社内改革

ーー新たに打ち出した経営計画や成長戦略について聞かせてください。

北口勤:
社長に就任した2年後に創業60周年を迎えたこともあり、3つの改革を実行しました。1つ目が、収益構造の改善です。弊社は「分包機」をはじめ、独自の医療機器・システムの企画から設計、販売、修繕までトータルで提供していることが最大の強みです。

多くの医療機関・医療従事者に評価・信頼いただき、長く、深く絆を築いていることも弊社ならではですが、関係が密な分、オリジナル以外の取り次ぎ機器を依頼されることもあり、根幹のぶれが懸念されていました。そこで、ラインアップを自社製品とサービスに絞り込み、販売戦略を根本から練り直しました。

2つ目が、部署の再構築と業務内製化の強化です。まず、私の直轄部署として「企画マーケティング本部」を新設しました。お客様からの要望を集約し、より魅力的な製品・システムの開発に反映するためです。さらに、この新部署と連動させるべく、「ものづくり本部」として製造部門と開発部門を一体化しました。

たとえば、設計段階では問題が無くても、製造工程が複雑になったり、操作性やメンテナンス性に影響したりする場合があります。そこで、製造と開発が協働することでお互いにアイデアを出し合い、製品の品質向上や原価削減に結びつけています。

3つ目が、働きがいの創出です。ニッチなマーケットの中で、専門性の高い機器やサービスを扱う当社では、長期にわたる人材教育、研修を通して「プロフェッショナル」を育成することに並々ならぬ力を注いでいます。新入社員研修や若手社員向け研修、その後も階層別の研修を実施し、キャリアアップを手厚くサポートすることでモチベーション向上にもつながっています。

また、業務に関わる様々な資格取得を支援し、梱包に関する「包装管理士」の受講や医療システムのプログラミング研修などを実施し、社員一人ひとりのスキルアップを図り、資格取得者には報奨金・受験代などを支給しています。

海外に積極的に進出し、世界中の医療分野に貢献することを目指す

ーー今後の展望を教えてください。

北口勤:
医療現場は、医療従事者の負担増、医療機関の人材不足、少子高齢化など、さまざまな課題を抱えています。だからこそ、電子カルテや電子処方箋などデジタル化や自動ロボットなどの省人化を支える弊社の製品・システムが必須です。

「ものづくり」に関しては、大阪市立大学医学部(現在の大阪公立大学)との共同研究で開発した訓練用硬性内視鏡など、新たな領域の製品開発にも取り組んでいます。

海外進出も重点項目です。現在、タイをはじめ、人口増加や経済成長が著しく、医療ニーズも高まっている東南アジア各国・インドで現地の販売代理店を通じて販路拡大を目指しています。

最後に、法規制・医療DXなど医療業界をとりまく環境も大きく変革の時期を迎えていますが、こうした変化に向き合い時代の潮流に合わせた進化を続けてきたからこそ現在のタカゾノがあると自負しています。「チャレンジ」をキーワードに、新たな試みに積極的に挑戦し、仲間と一緒になって医療と社会のために力を尽くせる人を求めています。

編集後記

政府が医療DXを進めているとはいえ、地域や医療機関の間の差はまだ埋まっていない。先般の能登半島地震では、被災者の診療・処方情報が途絶えてしまった。誰もがいつでも平等かつ迅速に医療サービスを受けるには、タカゾノのソリューションが不可欠であることを実感した。北口社長が社員とともに汗を流し、日本のみならず世界に「安心」を届け続けていくだろう。

北口勤/総合病院で歯科技工士として活躍後、歯科技工所を開業。1998年、義父が創業した株式会社タカゾノに入社。2021年、代表取締役社長に就任。