※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

みずほリサーチ&テクノロジーズの調査によると、訪日外国人の数はコロナ禍前の水準を超え、1人当たりの消費支出も堅調に推移している。特に娯楽サービス費の伸びが顕著で、2019年と比べて倍増している状況だ。


こうしたインバウンド需要の高まりを背景に、商品販売にとどまらず、ものづくり体験を提供する企業が注目を集めている。その中でも、2024年で創業92年を迎える株式会社岩崎は、代表的存在だ。今回は、同社の経営理念や新たな挑戦について、代表取締役の岩崎毅氏にお話をうかがった。

アメリカ留学が、日本の食文化への再認識を促す契機に

ーー大学卒業後、すぐに家業に入社した背景について教えてください。

岩崎毅:
私は1978年に入社し、現在4代目の社長を務めています。大学在学中に経験したアメリカ留学が、私が家業に入る決意を固める大きな要因でした。留学先で自ら高級食材を調理していたものの、どこか満たされない思いがありました。そんなとき、サンフランシスコの和食料理店で四季折々の和食を味わい、その素晴らしさに心を動かされました。この体験から、和食の魅力、そしてそれを伝える手段である食品サンプルへの強い思いが芽生えたのです。

ーー貴社は、主にどのような点を意識して事業に取り組んできましたか?

岩崎毅:
弊社は食品サンプルの専門メーカーですが、その技術を他の分野にも広げていきたいと考えています。1989年に商標を「イワサキ・ビーアイ」に改称し、それを機に、ものづくりだけでなく、販売促進の支援や多目的事業への展開を図りました。具体的には、1989年からデザイナーを雇用し、飲食店の内外装のデザインサポートを開始しました。また、2001年には東京・合羽橋にショールームを新装オープンし、現在では、一般消費者向けに「元祖食品サンプル屋」というブランドで食品サンプルの技術から生まれた様々な商品の販売や体験型イベントも提供しています。

食品サンプルを超えて広がる技術の可能性

ーー改めて、貴社の事業内容についてお聞かせください。

岩崎毅:
弊社は1932年から、食品サンプルを活用した飲食店の販売促進に取り組んできました。食品サンプルの提供方法には販売と貸し出しがありますが、弊社は創業当初から貸し出し方式を採用しています。この方式は、顧客にとって費用負担が少なく、弊社にとっても安定した収入源となるため、双方にとってメリットがあるのです。さらに、顧客との継続的な関係を通じて、適切なタイミングで販促ツールを提供できるという利点も兼ね備えています。

最近では、食品サンプルの技術を食品以外の分野にも応用しています。たとえば、医療用の実験や農業関連のサンプル、さらには血液製剤などにも展開しており、これらの分野での活用が今後の成長を支える重要な要素と考えています。経時的変化を止めることができる技術を駆使し、これまでにない新たな価値を提供することを目指しています。

納得の経営、新しい可能性の発掘

ーー社員に常日頃から伝えていることや、求めていることは何ですか?

岩崎毅:
弊社の経営理念として「納得の経営、新しい可能性の発掘」があり、これは1989年から変わらないものです。毎年、社員全員に誕生日カードを渡しており、その中には必ずこの理念を記入しています。社員がやりがいを持ち、社会に貢献することが重要だと感じているからです。

私たちは、社員一人ひとりが自分の可能性を発掘し、納得のいく仕事を通じて成長していくことを大切にしています。これにより、社員が自身の仕事に誇りを持ち、会社全体が強くなると信じています。

創業100年に向けた取り組み

ーー創業100年に向けて、現在取り組んでいることを教えてください。

岩崎毅:
2025年に開催される大阪・関西万博で、「EARTH MART」というパビリオンに弊社もサプ
ライヤーパートナーとして参画します。そこでは、「料理の鉄人」などテレビ番組を手がけてきた放送作家の小山薫堂さんが、「食を通じて、いのちを考える。」というメッセージを伝えるべく、展示をプロデュースします。食をテーマに数々のテレビ番組を世に送り出してきた小山氏のビジョンを、弊社の食品サンプル技術で形にできることを大変楽しみにしています。

ーー最後に今後のビジョンについてお聞かせください。

岩崎毅:
グローバル展開を視野に入れていますが、現在、食品サンプルが広く流通しているのは日本と韓国に限られます。日本では季節ごとに食文化が変化し、それに伴って食品サンプルの需要も生まれますが、海外ではそのような文化が少ないため、需要も限定的です。しかし、この技術の可能性を広げるために、さまざまな分野への応用を模索しています。

特に、医療分野や農業分野では、食品サンプル技術を応用した新たな製品やサービスが求められており、これらの分野での展開が期待されています。また、グローバル展開を進める上で、日本の食文化と技術を世界に発信し続けることが重要だと考えています。

創業100年を迎えるにあたり、私たちはさらなる成長と新たな挑戦を続けていく決意です。これからも技術を磨き、新しい分野への展開を図りながら、時代のニーズに応え続ける企業でありたいと考えています。

編集後記

1932年に食品模型の販売からスタートした株式会社岩崎。23年前に4代目の社長に就任した岩崎毅氏は、食品サンプルの技術を食品以外の分野にも展開することに熱意を持って取り組んでいる。その精巧な技術は、単なる模型作りにとどまらず、医療や農業といった新たな分野にも活用の幅を広げているのだ。和食がユネスコ無形文化遺産に登録された今、日本の技術や文化を未来へと受け継いでいく同社の役割は、ますます重要となるだろう。岩崎社長の指導のもと、株式会社岩崎は今後も日本の文化と技術を世界に発信し続ける存在として、その価値を一層高めていくに違いない。

創業者岩崎瀧三、製作1号記念オムレツのレプリカを手に

岩崎毅/1978年に株式会社東京岩崎製作所(現株式会社岩崎)に入社。2001年に株式会社岩崎代表取締役に就任。