※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

都市化が加速する現代社会で、従来の自動車とは一線を画す新たな移動手段が求められている。この課題に真っ向から挑むのは、小型モビリティの開発・販売を手がけるLean Mobility株式会社だ。

同社は、車とバイクの中間に位置する新しいカテゴリーの乗り物である「Lean3」の開発を進め、2025年の販売開始を目指す。環境負荷の低減とユーザーの利便性を両立させつつ、カスタマイズ性の高いデザインで個性も表現できる。

今回は、トヨタ自動車で20年以上にわたり小型モビリティの開発に携わった経験を持ち、2022年にLean Mobility株式会社を創業したFounder&CEOの谷中壯弘氏に、革新的なモビリティに込める思いをうかがった。

トヨタでの経験を活かし、小型モビリティ事業に特化した会社を創業

ーートヨタ自動車に入社された経緯と、そこでの経験についてお聞かせください。

谷中壯弘:
私は1993年に大学を卒業した後、トヨタ自動車に入社しました。入社の理由としては、メカニカルなものが好きだったことに加え、社会に役立つ製品をつくりたいという思いがあったからです。

トヨタでの経験は非常に貴重で、仕事の進め方や、責任を持って業務に携わることの大切さを学びました。特に印象に残っているのは、多くの人が関わる自動車開発のプロジェクトマネジメントです。さまざまな役割の人々が連携し、一つのベクトルで前に進むことの重要性を体感しました。この経験は、現在の事業運営にも大いに活きています。

ーー貴社を創業された経緯を教えてください。

谷中壯弘:
都市化が進む中での自動車の進化を考えるようになりました。現代の都市では、短距離や少人数での移動に適した乗り物が求められています。しかし、従来の自動車はそのニーズとはギャップがあります。そこで、私は約20年間、トヨタで小型モビリティやパーソナルモビリティの社会実装にとり組んできました。そこで、新しい形のモビリティを生み出し、普及させることが私の役割だと考えるようになりました。

そうして、2022年7月に独立し、Lean Mobilityを創業したのです。トヨタ時代から目的は変わっていませんが、大企業の中の一部門としてやるよりも、そのことだけに集中できる組織体制の方が実現させやすいと考えたのです。幸い、私のビジョンに賛同し支援してくれる仲間や出資者に恵まれ、この挑戦をスタートすることができました。

都市生活に最適化された新しいモビリティ

ーー貴社の事業内容を教えてください。

谷中壯弘:
弊社は、車とバイクの中間的なサイズ感を持つ新しいモビリティ、「Lean3(リーンスリー)」の開発・製造を行っています。「Lean3」は、バイクに近いサイズながら、車に近い快適性や安全性を兼ね備えた乗り物で、主に1〜2人で片道20〜30キロ程度の日常的な移動を想定して開発しました。環境に配慮しつつ、便利で楽しいモビリティを目指しています。

「Lean3」の魅力は二つあります。一つは、持続可能な街づくりに貢献できること。環境負荷やスペース効率の面で、社会にとって役立つモビリティを目指しています。そしてもう一つは、乗って楽しいことです。デザインやカラーバリエーションにも工夫を凝らし、個性や多様性を感じられる、ワクワクするプロダクトを目指しています。

――「Lean3」は他にどのような特徴を持っていますか?

谷中壯弘:
「Lean3」の特徴の一つは、車体の構造です。骨格はスチールでしっかりと頑丈につくっており、外側には樹脂製のパネルを採用しています。これはユーザーが交換可能で、気分や好みに応じて色を変えたり、数年使用後にリフレッシュしたりできます。この構造によって、中古車市場でも次のオーナーが自分好みの色に変更できるなど、長く愛用していただけるようになっています。

この特徴は、単なる移動手段以上の価値を提供し、ユーザーに愛着を持ってもらえるモビリティを目指す私たちの思想が反映されています。環境への配慮とユーザーの楽しみを両立させる、新しいモビリティの形。それが「Lean3」なのです。

プラットフォームビジネスを視野に、グローバル市場での普及を目指す

ーーグローバル展開についてどのようにお考えですか?

谷中壯弘:
「Lean3」については、まず台湾で販売開始し、その後日本、ヨーロッパへと展開していく予定です。初年度は数千台規模からスタートし、徐々に規模を拡大していく計画ですね。将来的には、軽自動車や小型車の一定割合を置き換えるような市場をつくりたいと考えており、その規模はグローバルで計算すると、数百万台の市場になる可能性を秘めています。

そのため、私たちの販売戦略は従来の自動車メーカーとは異なるアプローチをとります。具体的には、テスラのように製造した会社が直接お客様に販売する「直販方式」を採用する予定です。使用状況に応じたサービス提供やハードウェアの進化を含めて、ユーザーと直接コミュニケーションをとり、より使いやすいモビリティを目指しながら事業を展開していきたいですね。

ーー今後の展望をお聞かせください。

谷中壯弘:
私たちは、モビリティを販売するだけでなく、モビリティサービス全体を提供していきたいと考えています。たとえば、他のサービスと連携して、そのサービスを利用するとモビリティをレンタルできる権利がついてくるといったイメージですね。これを実現するためには他の事業者との連携が不可欠なので、私たちがどのように役立てるかを考え、提案ができるように準備していきたいと思います。

また、駐車場事業者との連携も重要です。小型モビリティに適した料金体系や、デッドスペースの活用など、私たちから提案できることも多いでしょう。将来的には、小型モビリティのサブスクリプションサービスなど、より柔軟な車の使い方を提案していきたいです。これらのサービスを通じて、生活により適した移動手段を提供し、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと思います。

編集後記

トヨタでの経験を活かしつつ、既存の枠にとらわれない谷中社長の挑戦に、小型モビリティが持つ可能性を感じた。環境への配慮と個人の楽しさを両立させる「Lean3」は、単なる移動手段を超えた、新しいライフスタイルの提案だ。都市化が進む現代、このような革新的なアプローチこそが、持続可能な社会の実現への近道なのかもしれない。小さなモビリティが私たちの暮らしを大きく変えていく。その未来が今から楽しみでならない。

谷中壯弘/1969年、愛知県出身。1993年東京大学工学部機械工学科卒業後、トヨタ自動車に入社。シャシー部品の先行開発・製品開発、新コンセプト車両企画開発を担当の後、小型モビリティの企画開発を主導。2022年7月に独立し、Lean Mobility株式会社を設立。