ナガセヴィータ株式会社は、微生物の酵素を使った素材づくりを行うバイオメーカーだ。代表製品は植物由来の糖質「トレハロース」(製品名:『トレハ®』)で、冷凍食品や惣菜、お菓子などさまざまな食品に使われている。
林原商店として創業し、140年の歴史を持つバイオメーカーのナガセヴィータ(旧株式会社林原)は、NAGASEグループの傘下に入り、さらなる躍進を見せてきた。代表取締役社長の安場直樹氏に、同社の歩みや経営観、社内改革への取り組みについて話を聞いた。
外資系企業の社員から学生時代に憧れた会社の社長へ
ーー社長就任までの経験の中で、印象的だったことを教えてください。
安場直樹:
私はフランスとイギリス、アメリカの3つの外資系企業で事業戦略・営業のキャリアを積みました。外資系企業に勤めて感じたのは、日本の商品の質は世界的に見ても素晴らしい一方で、日本の企業は売るという点において不得意だということです。
そしてもう1つが、海外市場といえば、アジアだと中国人やシンガポール人が多く、日本の若者は世界の若者に負けているということです。
この事実に危機感を覚え、50歳になる頃には「私の最後のサラリーマン人生は、素晴らしい才能を持った日本の若者たちを育成したい」と強く思うようになりました。
ーー貴社の社長に就任した経緯を聞かせてください。
安場直樹:
長瀬産業株式会社で取締役をしていた方ともともと知り合いで、その方から誘われる形で2012年に長瀬産業へ入社しました。
当初は長瀬産業が2012年に買収した林原(現ナガセヴィータ)でバイオメーカーの仕事をする予定でしたが、長瀬産業が生活関連分野の事業を立ち上げるという話があり、2014年に同社にてライフ&ヘルスケア製品の事業部長を任されることになりました。それから2015年に非常勤として林原の取締役を兼任し、2018年に林原の代表取締役社長に就任しました。
私は農学部出身で、実は学生時代、林原の研究者になりたいと思っていました。就職活動ではその目標は叶いませんでしたが、30年という長い時を経て学生時代に働きたかった会社の社長になることができました。改めて林原という会社の歴史の長さを感じています。
新たな時代を切り開く決意も込めて社名を変更
ーー2024年に社名を変更したのは、どういった理由からですか。
安場直樹:
林原は創業家の名前を社名に使っていたので、NAGASEグループの一員となった際に変えたほうが良いだろうと思っていました。そういった中で、2024年に社名をナガセヴィータに変更した理由は、2023年に林原が創業140年を迎え、社名を変えるのに良いタイミングだったからです。
また、2023年4月に関連事業の酵素事業を統合してバイオという1つの枠組みにしたこと、2023年に林原が長瀬産業の関連会社になって丸10年が経ったことなども、社名を変えるのにちょうど良いタイミングだと感じた理由です。
新しい時代を切り開いていこうという思いはもちろんありますが、「弊社は140年の長い歴史を持った会社だ」という意識も忘れず大切にしていきたいと思っています。
ーーナガセヴィータ社長就任後の社内改革について聞かせてください。
安場直樹:
私が働いていたフランスの会社には100年以上の歴史があり、アメリカの会社は創業130年を迎えます。こういった息の長い会社で働く中で、歴史の中からいろいろと学ぶ重要性を実感するようになりました。
ナガセヴィータも140年の歴史を持つ会社であることから、この「歴史から学ぶ」という指針を強化するために、会社のキーワードをサステナビリティにしました。現在、会社の未来への道標としてSDGsへ積極的に取り組んでいます。
そのほか、より長く続く会社にするべく社員のモチベーションを上げること、企業として環境問題に取り組むことなどを重要課題としています。
社員たちが自慢できるような会社を目指して
ーー組織づくりについて意識していることを教えてください。
安場直樹:
弊社には約800名の社員がおり、彼ら全員と2年かけて対面で対話をしました。この対話でのルールは、「社員が一言、何でも良いから取締役へ向けて喋る」というものです。実際に話すことで、社員たちがいろいろな考え方を持っていることが分かりました。
中には「社長と直接話せる機会があるなんて思わなかった」と感激し涙を流す社員もおり、そういった姿を見て私も力が湧いてきましたね。私自身、アメリカの会社で働いていたときに社長が気さくに話しかけてくれて、そのときの感動は今でも忘れられません。
ーー最後に、今後の展望をお願いします。
安場直樹:
社員たちが生き生きと働き、国内だけでなく海外でも笑顔で活躍できるようにしたいですね。今、最も目指すところは、社員たちが自分の家族や友達、恋人に「自分はナガセヴィータで働いているんだ」と誇れるような会社にすることです。
編集後記
長い歴史を持つ日本企業の社長を務める安場社長だが、その経営観には外資系企業での経験がエッセンスとして取り入れられていると感じた。
長い歴史の中で培ったものと、新しい時代を切り開くことへの情熱。どちらも兼ね備えた同社は、これからも成長を続けながら社会に貢献してくれることだろう。
安場直樹/1960年、大阪府生まれ。神戸大学卒業。住友商事ケミカル株式会社入社。外資系企業3社で事業戦略・営業キャリアを積み、2012年に長瀬産業株式会社に入社。2014年にライフ&ヘルスケア製品事業部長、2015年に同社執行役員、NAGASEグループの株式会社林原取締役(非常勤)を兼任。2018年に林原の代表取締役社長に就任。コロナ禍を経験しSDGs、サステナビリティ経営の必要性を実感。創業140年を経て、2024年4月、林原からナガセヴィータ株式会社に社名を変更。