鋳物用中子(※1)のメーカーとして、主に自動車関連部品を手掛けているクロタ精工株式会社。自動車の最高峰である「レーシングカー」の精密部品を製造する技術を有し、半世紀にわたり鋳造業において国内トップレベルの規模と技術力を強みとしている。
業界の老舗中の老舗である同社の代表取締役社長、鈴木泰博氏は長く製造畑を歩んできたが実兄である2代目社長の急逝に伴い、思いがけず3代目を引き継ぐことになった。そこには老舗の良さを守りながら自分流に企業を改革していく挑戦の日々があったという。
自動車関連業界はEV車の台頭もあって市場の変化が激しい。そうした中、鋳造業の新たなビジネスチャンスを模索する鈴木社長の思いについてうかがった。
(※1)中子(なかご):鋳物製品の中空部分をつくるための鋳型のこと。
兄の急逝で2.5代目社長に!社長が意識する責任とバランス経営
ーークロタ精工の社長に就任するまでの流れを聞かせてください。
鈴木泰博:
弊社はクロダイト工業株式会社の中子部門を独立させる形で、父が1963年(昭和38年)に設立しました。その後、1993年に兄が後を継ぎました。私は製造部門に入社して、経験を積んでから営業部長になりました。
その頃から兄の体調が優れず、私は実質、社長代理として業務を行っていました。2009年に兄が急逝したため、当初そのつもりはまったくなかったのですが、結果的に私が社長に就任することになりました。世代で言えば2代目ですが、私は2.5代目とでもいうところでしょうか。
ーー社長になってから、運営上で気をつけてきたことは何ですか?
鈴木泰博:
弊社は、中子業界の中では60年以上続く大きくて古い会社です。その会社の歴史に恥じないように、モラルのある経営をしていかなければならないと感じています。
実際に社長になってみると、社長代理とはやはり大きく違い、最初の3年ほどは追いつくのに精いっぱいでしたね。責任も全部自分にかかる大変さを感じました。製造と営業、まったく違う考え方の2つの部署を経験して、バランスのとれた考え方を持ったことが、社長として経営に関わる上で役に立ったと思います。
品質と誠実さで切り拓く建設・鉄道分野への新たな展開
ーー現在の事業は、自動車部品関連が中心ですか?
鈴木泰博:
以前は自動車部品関連が8割を占めていたこともありました。しかし、現在は、自動車全体で鋳物部品の使用が減少しており、弊社の取り扱いも割合が減ってきています。
2024年現在も、足回りや油圧関係の部品には鋳物が使われていますが、EV化でますます鋳物部品の需要は減っていますね。代わりに建設や鉄道の分野で使用されるジョイント(継手、接合部のパーツ)などの需要が増えてきています。
ーー貴社の強みはどのような点ですか。
鈴木泰博:
弊社はISO9001、ISO14001(※2)の認証を取得し、「SDGs行動宣言」もいち早く行っています。品質、働き方、環境保護のいずれにおいてもモラルを守っていきたいと考えています。特に技術品質に関しては取引先からも信頼を得ており、「貴社なら複雑な金型でも使いこなせる」と任されることがよくあります。
少し価格が高くても、各社技術部から選んでもらえるといったことが続いています。つまり、ものを大切につくる姿勢が評価されているということですね。重要なのは、万が一エラーが発生したときに、自社のミスをきちんと認められる誠実さです。
もう1つは、金型の設計段階から関わることです。一般的な中子業者は先方が作成した金型やその図面を渡されて中子をつくるのですが、弊社では金型の設計段階から話をうかがい試作を行なうなどして、鋳物業者と中子業者のそれぞれの技術的知見を取り入れています。そうすることによって、技術的にもお互いに役に立ち、取引先との関係も長く良好に維持できるのです。
(※2)ISO9001は品質に関する認証、ISO14001は環境負荷軽減に関する認証
社員のためにも、好かれる人でいたい
ーー今後、会社が長く続くために行っていることを教えてください。
鈴木泰博:
弊社のものづくりは、まず機械で製作し、その後に人の手で整える作業を行います。品質をさらに向上させるために、機械の入れ替えと人材育成の両方をバランスよく行うことを心がけています。
特に人材育成に関しては、やり方を強制するのではなく、自分なりにコツを覚えてもらうようにしていますね。最近では、動画を活用して動きの違いを実感してもらうなど、新しい技術を用いた方法も模索しています。
ーー採用や社員の育成について気を付けていることは何ですか?
鈴木泰博:
弊社の製品は1~3キログラム程度のものが多く、工場の立地も良いため、近隣の子育てを終えた女性も多く働いています。新卒も年に数人採用し、定着率は良い方だと感じています。
採用面では、駐車場での社内バーベキューの様子を見た工科高校(※3)の生徒が求人に応募してくれたり、兄が入社した後で弟が入ってきたり、地域に根差した立地が効果的に働いていると感じます。
また、毎年5月ごろには、会社負担で希望者のみの慰安旅行も実施しています。ディズニーランドの時もあれば、沖縄、海外の時もありました。夕食は皆で一緒にとりますが、ほかの時間は各自自由に過ごします。新卒社員にとっては、入社後1か月ほど経ったところで先輩と親しく話せることが、定着への良い刺激になっているようです。
(※3)工科高校:愛知県では、「工業高等学校」の名称を2021年度から「工科高等学校」に改めています。
ーー社員から見て、どのような社長でいたいですか?
鈴木泰博:
良い人でいたいですね。社内にイライラしている人がいたり、社員が自信を失うような環境では、誰しも働きたくないと思います。私自身は木槌が飛んでくるような時代も経験していますが、あれでは会社は良くならないと感じます。
やはり、ニコニコしながら仕事ができる場を目指し、得意なことを活かして社員の能力を伸ばしていきたいと思っています。そのためにも、私自身が好かれるような人でいたいですね。
編集後記
「業界の中でも古く大きい会社を守っている」ことへの鈴木社長の責任感が、何度も出てくる「モラル」の言葉に現れていた。しかし、ただ守るだけではなく、モラルの変化にも対応し、新しい技術も取り入れて進んでいる。
新進気鋭ではないかもしれないが、川の流れのような穏やかな変化の連続が、顧客からの信頼を得て「モラルある経営」をし続ける秘訣なのだろう。品質にも社員にも誠実なクロタ精工株式会社は、ますます加速する社会にも自然体のまま適応し、長く続いていくに違いない。
鈴木泰博/1958年、愛知県生まれ。名城大学卒業後、クロタ精工株式会社に入社。2009年に代表取締役に就任。