タイヨージョイント株式会社は、水道・土木工事用の総合継手専門メーカーとして、70年以上にわたり業界をリードしてきた。建築設備、浄水場、トンネル工事など、幅広い分野で使用される高品質な「継手」を提供し、社会インフラを支えている。
また、社員の働きやすい環境づくりに注力し、顧客との絆を大切にしながら事業を展開している。新たな挑戦としてマヌカハニーのEC販売も開始し、さらなる成長を目指す同社の代表取締役社長、松井洋次郎氏に話をうかがった。
料理の鉄人から継手の達人へ
ーータイヨージョイントに入社されるまでの経歴をお聞かせください。
松井洋次郎:
高校2年生のころに観たテレビ番組に影響されて、東京のエコール辻国立に進学しました。しかし、父からの助言もあり、卒業後にニュージーランドへ語学留学することになりました。当時、弊社は炭鉱事業でニュージーランドと取引があったのです。
結果的に6年ほどニュージーランドに滞在し、クライストチャーチポリテクニック工科大学の経営学科を卒業しました。その間、学費や生活費が足りなくなり、一時帰国して新聞配達のアルバイトをしたこともありました。苦労しましたが、今思えば貴重な経験でしたね。
ーー貴社に入社されてからのキャリアについてお聞かせください。
松井洋次郎:
2004年に入社し、まずは工場で1年半ほど製品の勉強をしました。その後、大阪の営業所で2年ほど営業を経験しましたが、父の体調不良もあって本社に戻ることに。本社では品質管理や工場のシステム導入などを担当しながら、社長室として経営にも携わるようになりました。2016年に山口大学院で技術経営修士を取得し、2019年に代表取締役に就任しました。
振り返ると、工場、営業、そして経営管理と、会社の全般的な業務を経験できたことが、現在の経営に活かされていると感じています。特に、お客さまと直接接する営業の経験は、現在の顧客重視の経営方針につながっています。
継手のように、人と人をつなぐ経営方針
ーー貴社の事業内容について教えてください。
松井洋次郎:
弊社は建築設備・水道・土木工事用の継手を製造・販売しています。継手とは、配管システムにおいて管同士をつなぐ重要な部品で、主に建築設備、水道、土木分野で使用される製品です。大型商業施設や高層マンションの配管設備、浄水場、トンネル工事、新幹線やリニアの建設現場などにも使われています。
弊社はアッセンブリメーカーとして、自社で設計した製品を協力会社で製造し、自社工場で加工・組立を行っています。ニッチな業界ですが、ライフラインで使用される製品なので、需要が安定しているのです。
ーー顧客との関係づくりではどんなことに注力されていますか?
松井洋次郎:
特に意識しているのは、社員が顧客と良好なコミュニケーションをとれるよう、社内環境を整えることです。その一環として、年に2回、各部門に10万円の交流費を支給しています。この予算を使って部署内で交流を深めることで、チームワークが向上し、結果として、顧客への対応力も向上しています。
また、取引先の多くの方がゴルフを趣味にされていることから、社内でもゴルフ人口を増やす取り組みを始めました。その結果、現在では社員の3分の1以上がゴルフをプレーできるようになったのです。現地でサポートする際のコミュニケーションがとりやすくなり、スムーズに対応できるようになりました。
社員が生き生きと働ける環境づくりと新たな挑戦
ーー社長就任後、どのような改革を行ってきましたか?
松井洋次郎:
社長就任後、働きやすい環境づくりに力を入れてきました。具体的には、完全週休2日制の導入、給与・退職金制度の見直しなどですね。特に力を入れているのが「エムズキッチン」という取り組みです。これは社内の厨房を活用して、私が料理をつくり、社員に提供するというものです。コロナ禍で外出が難しくなった時期に始めましたが、食を通じて社員同士のコミュニケーションを深める良い機会になっています。
この取り組みは「食でつなぐジョイント」をモットーとしたもので、年代や職種の違う社員が、美味しい食事をともにすることで、自然とコミュニケーションが生まれ、組織の一体感が醸成されると考えています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
松井洋次郎:
現在、新規事業として、ニュージーランドからマヌカハニーを輸入し、ECサイトで販売する計画を進めています。この事業の主な目的は、弊社の認知度向上です。継手は一般の方には見えにくい製品ですが、マヌカハニーを通じて弊社の存在を広く知ってもらうことで、社員の家族や関係者にも喜んでもらえればと考えています。
最終的な目標は、社員が定年退職を迎えるときに「この会社で良かった」と思ってもらえる会社づくりです。人生の大半を過ごす職場ですから、社員が自分らしく、生き生きと働ける環境をつくり続けていきたいですね。
編集後記
松井社長の語る「つなぐ」という言葉は、製品だけでなく人と人との関係性にも及び、社内外での信頼関係構築に寄与している。特に印象的だったのは、松井氏自らが腕を振るう「エムズキッチン」の取り組みだ。食を通じたコミュニケーションは、新たな働き方の可能性を示唆する。製造業でありながら、マヌカハニーのEC事業に挑戦する姿勢にも、中小企業ならではの機動力と柔軟性を感じた。
松井洋次郎/1978年山口県生まれ。高校卒業後、東京のエコール・キュリネール国立辻フランス料理カレッジに入学・卒業する。その後、ニュージーランドに留学。クライストチャーチポリテクニック経営学科卒業。2004年に同社に入社。2016年に山口大学院技術経営修士(MOT)を取得後、2019年に同社代表取締役に就任。