
1954年の創業以来、革製の安全靴・作業靴を製造・販売してきた株式会社エンゼル。長年のノウハウから生まれる高品質な製品と、取引先・仕入先のネットワークで大手と差別化してきたメーカーだ。また、近年はデザイン性のある安全靴でも注目を集めている。代表取締役社長の田澤廣美氏に、メーカーとしての強みや社内の開発体制、今後の展望についてうかがった。
高機能な安全靴をメインに一足から製造・販売
ーー事業内容を教えてください。
田澤廣美:
安全靴をメインに、高性能な靴を製造・販売しています。安全靴は工事現場や工場内など、足元に危険がともなう現場で着用される作業靴です。弊社では、つま先に鋼製の丈夫な芯が入った製品を基本に、あらゆる作業を想定した幅広い安全靴を取り扱っています。
地下足袋のようなフィット感と屈曲性に優れた高所作業用靴や、薬品や油に耐性のある特殊樹脂を使用した靴、耐熱・防寒性に優れた靴のほか、近年はスマートさも兼ね備えた男女用の安全靴や、履き心地と耐久性に優れたスニーカーも好評です。
ーーメーカーとしての貴社の強みはどのような点でしょうか。
田澤廣美:
対応力と製品の耐久性が、リピーターのお客様に支持されています。作業用品の大型専門店に大量の製品を卸す一方で、少量多品種の生産にも対応できる点が大きな強みですね。
機械を使わず、職人の手で素材選びから完成まで手がけるため、一足からのオーダーメイドや軽微な不具合の修理も承っています。
安全靴は、JIS(日本産業規格)に準じて製造するため、「品質の高さ」も弊社の強みに直結していると言えるでしょう。3年に1回の厳格な審査に備えて、定期的な工場の品質検査、講習会への参加、関連資格の取得促進など、さまざまな取り組みをしています。
従来の作業靴の常識を覆す製品開発で新たな顧客をゲット

ーー社内の開発体制についてもお話しいただけますか。
田澤廣美:
お客様の要望やスタッフの意見を参考に、新製品を開発しています。小回りが利く生産体制だからこそ、サンプル作成のスピードも非常に早いのが強みです。
安全靴は黒のイメージが定着していますが、近年はカラーバリエーションの展開に注力しているほか、日常使いできるオシャレで機能的な靴もつくるようになりました。若手スタッフのアイデアを活かした結果、最近は作業場だけではなく、オートバイの愛好者やサバイバルゲームの参加者など、意外な領域に安全靴の愛用者が増えています。
ーー貴社で働く魅力もお聞かせください。
田澤廣美:
良い意味で社員同士の距離の近さと、風通しの良さがありますね。社内に特別な商品開発部は設けておらず、営業担当から工場スタッフまで、全員が「開発者」として活躍できる体制にしているのも特徴です。
みんなで意見を出し合うのは会議の時だけではありません。日頃のコミュニケーションの中で、気軽に意見を伝えられる関係性を築いています。お客様の声に寄り添って一足から靴をつくりお届けする、というつくり方に魅力を感じてる社員が多いと思います。
若手の育成×SNS運用で新しいチャレンジに挑む
ーー現在注力しているテーマや課題はありますか?
田澤廣美:
製造部門の人材獲得に力を入れています。今までは、異業種の製造業から中途採用することが多かったのですが、2026年以降は新卒者を募集する予定です。職人の平均年齢が高まっているので、若手世代をどんどん増やしていく必要があるでしょう。
入社後は1つの工程にじっくりと取り組み、マスターしたら次の工程へと進みます。ひとりで2〜3つの工程を確実に習得できるように指導する方針です。
一人前になるまで最低3年はかかるため、教育と生産体制の両立も見直していきたいと思います。人数をある程度そろえた上で、さらなる量産に対応できる体制を整えることが目標です。
ーー今後の展望をお聞かせください。
田澤廣美:
営業担当者の提案で、2024年からSNSの運用をスタートしました。公式Instagramでの発信をきっかけに、ゲーム会社様とのコラボレーションが実現したケースもあります。会社の知名度アップと、若者をターゲットとした取り組みとして、今後も継続していきたいところです。
新しいことにチャレンジしながら売上を伸ばしつつ、この会社を「小さいけれど絶対に沈まない船」にすることが私の使命です。大手メーカーを大型船にたとえるなら、弊社は小型の救命ボートです。社員たちが「乗っていて良かった」と思える会社でありたいと思います。
編集後記
機動力のある組織体制を活かしつつ、オーダーメイドも請け負っている株式会社エンゼル。企業の声に応えるオリジナル安全靴や、幅広い層に訴えるユニークなデザイン展開など、対応力と豊富な実績で多くの信頼を得てきた。「沈まない救命ボート」を目指す上で、今後は若いマンパワーを補強しながら、アイデアを互いに投げ合える社風と情報発信力で、どんな荒波も乗り越えていくに違いない。

田澤廣美/1966年生まれ、栃木県立馬頭高等学校を卒業。自動車部品の製造工場で5年の修業期間を経て、1989年に株式会社エンゼルへ入社。2020年、代表取締役社長に就任。