※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

株式会社マテリアルゲートは「単分子誘電体」という情報記録材料を開発する、広島大学発のベンチャー企業だ。単分子誘電体はAIやビッグデータの普及にともなう記録密度の限界を乗り越え、消費電力を抑える素材として期待されている。

代表取締役の中野佑紀氏に、同社を立ち上げた経緯や単分子誘電体によって実現できること、素材の開発において重視していることを聞いた。

記録密度の高い「単分子誘電体」の研究発表が起業のきっかけに

ーー貴社を立ち上げるまでの経緯を教えてください。

中野佑紀:
私はもともと理学部で化学を専攻しており、研究テーマは半導体やデバイスに使用する機能性材料でした。

最初に起業の話が持ち上がったのは2018年頃です。そのとき私は素材メーカーに勤務していましたが、私の指導教官でもあった広島大学の西原禎文教授が、弊社のコア技術である「単分子誘電体」に関する研究成果を発表したことをきっかけに、声がかかったのです。

その時点では具体的な事業計画がなく、すぐには実現しませんでした。しかし2020年に西原教授が大学発新産業創出プログラム(START)に採択されたことをきっかけに、起業の話が再燃したのです。そこで、西原教授と共同で本格的に会社を立ち上げて、単分子誘電体の実用化を目指すことになりました。

ーー「単分子誘電体」とはどのような技術なのでしょうか?

中野佑紀:
単分子誘電体は、電気を溜めてプラスとマイナスの状態を記録し、メモリ材料として使用できる素材です。この材料は現在主流の強磁性体メモリと比較して記録密度が1000倍以上と非常に高く、消費電力も少ないという特徴があります。

情報社会といわれる現代、大容量ストレージの需要が高まり続けている中で、従来のメモリではいずれ記録密度の限界を迎えてしまうことや、AI・ビッグデータの普及によりデータセンターが莫大な電力を消費することが社会問題として指摘されてきました。特にAIに関連する消費電力は今後も増加すると見られており、電力を賄う方法が課題となっています。

このような背景から、記録媒体をさらに小型化して大量の情報を記録し、消費電力も大幅に抑えられる弊社の単分子誘電体は、情報社会における課題を解決する手段として多くの方から注目いただいています。

「まだ世に出ていない技術」を開発する事業

ーー貴社の代表として大事にしていることを教えてください。

中野佑紀:
私は社内で最終判断を下す立場ですので、なるべく早く反応してスピーディに判断することを心がけています。また、私の判断がいつでも正しいとは思っておらず、現場の研究者の直感を尊重しています。

ーー現在、従業員数は何人でしょうか?

中野佑紀:
私やCOO、派遣の方も含めて12人です。2025年4月にはあと2名入社する予定で、その後は会社の収益を踏まえて増員時期を検討する予定です。最近はCOOの加入により管理部門も拡充でき、会社業務がスムーズに回り始めています。

弊社は「まだ世に出ていない技術」を自分たちで開発する事業を行っていますので、研究者にとっては非常に大きな経験となるでしょう。研究者の方はしっかりと開発に取り組みつつ、ある程度の経営者目線も持って共創してくれています。もしこの先、弊社を離れることになったとしても、この経験が強みになれば嬉しく思います。

ユーザー目線を忘れず、技術をさらに磨いていく

ーー研究・開発において重視していることを教えてください。

中野佑紀:
実際に商品を使用する消費者のニーズに合わせた開発をすることです。

弊社のような素材メーカーは、サプライチェーンの中ではかなり上流に位置します。実際にアプリケーションや端末が消費者の手元に届くまでには、デバイスを製造するメーカーや販売店など多くのステップが間に入るため、消費者との距離を遠く感じてしまいがちです。

ユーザーと直接接する機会がなくても、消費者の目線を忘れずに開発していかなければなりません。USBメモリやHDD以外にも、IoT機器など日常的に使用するさまざまな商品にメモリが使用されています。そのような機器を製造するメーカーと協業し、弊社の素材を使用した機器を一般消費者に使っていただきたいと思います。

現在のところ、実用化の時期は2030年を目指しています。この目標を実現するべく、材料製造の技術やデバイスへの実装技術をさらに磨いてまいります。

ーー貴社の今後の目標や展望を教えてください。

中野佑紀:
事業の根幹は曲げず、新しい材料をどんどん世に送り出して素材産業を盛り上げる会社でありたいと思っています。このミッションに共感してくれる方や、研究者として0から1をつくり出す仕事をしてみたい方は、ぜひ私たちに力を貸してください。

編集後記

近年AIは急速に普及し、今や一般のニュースでも連日耳にするほどだ。生成AIにはさまざまなメリットがある反面、利用者が増えればデータセンターのコンピューターの稼働量も増加し、電力を大量に消費する。二酸化炭素削減に貢献するためにも、消費電力の低減は不可欠の課題だ。情報社会の課題解決に一石を投じる同社の活躍には、ますます注目が集まるだろう。

中野佑紀/2013年に広島大学院卒業後、国内化学メーカーにて約8年半勤務。国内および韓国・台湾メーカー向けの半導体・電子デバイス用途における機能性材料の研究開発と事業開発に従事。2020年、株式会社マテリアルゲートを共同設立。代表取締役に就任。広島大学修士(理学2013)、関西学院大学経営管理修士(専門職2021)。