
1958年に設立されたアテネ株式会社。半導体製造等に用いるメタルマスクを中心に、電子部品やマスク治具の開発設計・製造を行っている企業だ。事業の根幹にあるのは、アナログレコードづくりで培った電鋳(でんちゅう)技術。代表取締役社長の平野文一氏に、事業の強みや活躍している人材、今後の展望をうかがった。
既存事業の強化と新事業の育成を目指し、社長に就任
ーーご経歴をお話しいただけますか。
平野文一:
高校を卒業後、ご縁があった弊社に入社しました。当時の主力事業はアナログレコードの製造ということで、最初に配属されたのは生産部門でした。
お取引先は、大人気歌手を抱える大手レコード会社であり、多忙でしたが、楽しく取り組めたと思います。「プレス」という工程を担う中で特に好きだったのは、技術担当者と共に生産性を改善していく作業です。非常に高いモチベーションで仕事に取り組んだ結果、業務部長から取締役、常務、専務、そして現職へとステップアップできたのだと思います。
2008年のリーマン・ショックで赤字に陥ったり、アナログレコードの時代が去って事業転換したり、会社の大きな節目を見てきた身としては、会社を継続していくことが私の最大の責任だと考えています。
提案型のメタルマスク・電鋳治具・メディア事業を展開

ーー現在の事業内容を教えてください。
平野文一:
基本はニッチトップ戦略を徹底しています。アナログレコードの製造で培った電鋳技術(電気鋳造技術/電気めっき法を利用した表面処理技術)を応用し、メタルマスク・電鋳治具・メディア(映像制作)の3つの事業を展開しています。
第1事業のメタルマスクとは、半導体パッケージ基板にミクロンレベルのはんだ加工を施す治具です。有機ELディスプレイなどに活用される「蒸着用」、「高精細電鋳スタンパー」や「インプリント用マイクロ電鋳金型」も弊社の特徴で、設計通りのさまざまな形状を再現できます。
第2事業の電鋳マスク治具の部門では、製品の一部をマスキングして塗装工程等で使用する「治具」を製造しています。主なお客様は、自動車部品関係のメーカー様です。
第3事業は、高いクオリティのコンテンツ企画・制作を行うメディア部門です。その中でも、学校の先生が使用するデジタル教科書の映像制作を得意としています。近年は、事業PRや採用活動に活かせる企業向けのコンテンツ制作も増えてきました。
ーー企業としての強みもうかがえますか。
平野文一:
お客様の開発・生産に必要な技術を判断し、企画段階から提案・実現する技術開発力です。私たちの開発は、お客様が提示する数年先のテクノロジーロードマップに基づいた提案を行うことから始まります。次世代のスペックの一歩先を行くことで、お客様の開発を支援しています。「電鋳技術の応用」に一貫して取り組み、オーダーメイドにも応え続けてきたからこそ、名だたる企業様と信頼関係を構築できたのだと思います。
コア技術と能動的な人材を育てて世の中に貢献
ーー教育方針や求める人物像についてもお話しいただけますか。
平野文一:
人材育成においては、社外のセミナーや教育訓練も活用しつつ、すべての従業員に平等な機会を提供する「機会教育」を最も重視しています。どの事業においても、座学だけでは身につかない要素が多いため、経験を積むための実地訓練を意識的に増やしています。従業員には、可能な限りお客様のところに行き、自分が携わっている事業を肌で感じてほしいと思います。
私たちがいっしょに働きたい人は、受け身ではなく、自分で考えて行動できる人です。新卒採用を積極的に行う一方で、異業種からの中途入社の方も多くいます。新たな挑戦に意欲的で、能動的な人が活躍していると言えるでしょう。
ーー今後の展望をお聞かせください。
平野文一:
創業時からのコア技術を伸ばして、事業規模を拡大していく方針です。基本的には、中期ビジョンとして掲げた3カ年計画を実行しつつ、新しいビジネスも築いていこうと思います。
すでに教育・研究機関と連携して、さまざまな開発に取り組んでいます。現在は弊社の名前が広く知られていないため、一般の消費者を含めた世の中に目に見える形で「貢献」できる分野にもチャレンジしていきたいと考えています。
社員ファーストの精神を大切に、この会社を守っていくことも私の使命です。事業は山あり谷ありで、不変はありえません。経営者は大きな決断を迫られるシーンが多いからこそ、自分を律する心を大事に「正しい決断」を心がけていきます。
ピンチに強い会社でありたいと考え、社内では「苦しい時こそ知恵を出し合い、困難を乗り切ろう」と伝えています。会社を支えてくれる社員が「勤めていて良かった」と思えて、家族や知人にも誇れるような組織と、常に必要とされる会社を目指していきたいですね。
編集後記
レコード全盛期を経て、新しいビジネスを創出していったアテネ株式会社。メタルマスクは、今や生活必需品となったスマートフォンをはじめ、電子機器づくりに欠かせない技術だ。大手企業の技術開発において、アテネはまさに縁の下の力持ちだと言える。さらに、リーダーが重んじるのは「会社を守る」という使命感とコア技術だ。揺るがぬ土台の上に構築された組織は、どんな時代の変化にも耐えうる強さを持っている。

平野文一/1956年生まれ。福島県立会津工業高等学校を卒業。1975年、アテネ株式会社(当時はアテネレコード工業)に入社。業務部長を経て、1997年に取締役に就任。第一事業部長を兼務しながら、2008年に常務取締役に就任。2020年、専務取締役に就任。2024年、代表取締役社長に就任。