持続可能な社会の実現に向けて、再生可能エネルギーの普及が世界中で進みつつある。産業用デスクトップパソコンで使用するATX電源で国内メーカートップシェアを誇り、再生可能エネルギー事業も手掛ける株式会社ニプロン。
1981年に設立し、産業用電源の製造・販売で発展を遂げ、阪神地域の優れたモノづくり企業に認められ「阪神モノづくりリーディングカンパニー」の認証を受けている。2010年代には太陽光発電の制御設備の製造を開始し、グリーンエネルギーにも力を入れている。
2022年6月にニプロンの代表取締役社長に就任した二見達也氏に、現在注力する「3つのインパクト経営」や若手育成について、話をうかがった。
非鉄分野からエネルギー事業に携わり「非価格経営」にたどり着く
ーー最初に住友金属鉱山に入社した経緯についてお聞かせください。
二見達也:
非鉄分野を選んだ理由は、非鉄の種類が多く、何が生まれるかわからない、未知なことが面白いと感じたからです。非鉄分野で、「資源をいかに活用できるか」という新しいビジネスを考える仕事を任され、有意義な経験をすることができました。
資源が少ない日本では資源の循環が重要です。その中には「原子力」も含まれています。原子力に関しては産官連携が欠かせないので、企業人の立場からゼロエミッションエネルギーで社会貢献することを念頭に付加価値をあげて、「この事業からどう利益を得られるか」について考えさせてもらう機会になりました。
また、地震の際に建物の被害を劇的に減らす免震構造に使われるダンパー素材も実は非鉄金属で、本当に幅広く活用できる分野を学ぶことができたと思っています。
ーーその後どのような経緯でニプロンの社外取締役になったのですか?
二見達也:
非鉄分野は電気使用量が多く、当時私はエネルギー統括として使用量削減を任され、いろいろな電力会社との交渉を続ける中でニプロンに出会いました。これまで培った省エネや再エネに関する知識があったので、ニプロンの再生可能エネルギー強化の提案に興味を持ち、採用することにしました。その後、当時の社長(現:会長)から「その知識を使って会社にアドバイスしてほしい」と依頼があり、社外取締役に就任することになりました。
ーー貴社の掲げる「非価格経営」について詳しく教えてください。
二見達也:
価格以外でお客様に付加価値を提供することです。価格競争をすると利益が減少し、社員の給与も上げられません。しかし、安かろう悪かろうですぐに壊れる商品より、価値に見合った金額で長い間動く良いものの方が結果的にお得だったりしますよね。
火力発電を主体とした従来の発電はこれから価格が高騰するだろうと言われています。弊社の再生可能エネルギー事業は後々のコストの上昇差分はもちろん、経営判断の際に電力コストの見通しが立つという付加価値があり、長い目で見れば十分なメリットがあります。こういった価値をきちんと説明できることが重要だと、社員に説いています。
自社を成長させる「3つのインパクト経営」
ーー貴社の「3つのインパクト経営」とは、どのようなものでしょうか?
二見達也:
「環境に配慮した会社経営」「製品の社会貢献度」「社員が成長できる環境」という3つのインパクトを実践しています。
1つ目の環境に配慮した会社経営とは、実際に環境負荷を低減して目に見える形にすることです。大手企業は、環境負荷が小さいものを優先して仕入れるグリーン購入にこだわっています。そのため、製品を供給するサプライヤーはいかに環境に配慮した経営をしているかが問われます。それに応えて弊社では、80〜90%の電力を太陽光発電で賄う工場(※)を2023年に竣工しました。
(※)ニプロン工場説明
2つ目の製品の社会貢献度とは、弊社の製品がどのくらい社会に貢献しているか、ということです。社会貢献するには、製品のクオリティーが大切です。品質を追求した結果、10年前と比べ、製品数は2倍以上に増えた一方で、修理のために戻ってくる製品の数は4分の1に減少しました。
3つ目は社員が自身の成長を実感し、長く働ける環境をつくることです。社員の成長が会社の成長につながるので、トップダウンではなく社員からいろいろな意見が出てくるようにすることを重視しています。また、会社の経営資源の1つでもある「文化」が非常に大事だと考えています。
雇用インパクトの難しいところは「感情」が入ってくるところですね。「面白い仕事をしよう」というスタンスで入って来る社員もいますが、面白いと感じるかどうかは私の一存で決まるのではありません。社員一人ひとりに本当に面白いと思ってもらうことが重要だと感じています。
ーー社長の考える「仕事の面白さ」について教えてください。
二見達也:
たとえ小さなことでも、「昨日知らなかったことを知ることができた」ということ、それが成長だと思います。会社に来たら何か新しいことを見つけ、それについて考えて、できるようになれば仕事は面白くなります。ただ会社に来て働くだけでは仕事の面白みはありません。目で見て、耳で聞いて、口を開いて、「なぜ?」と感じ、調べ、知る。その積み重ねが、仕事の面白さにつながると思っています。
また働くとは、そばにいる人を楽にすることだと考えます。たとえば、営業ならお客様の仕事が楽になる提案をすることです。そういった働く面白さを社員自らが感じてほしい。今までのニプロンはトップダウンが多かった。しかし、これからは自ら考えて行動できる人材を増やしたい。そう考えています。
AIが次のプロメテウス
ーーAIについての見解とメリットについて聞かせてください。
二見達也:
ギリシャ神話のプロメテウスは人間に火を与えて、生活を豊かにしましたが、一方でそれが武器を生むことになりました。また、原子力も同様に、エネルギーを産んで生活を豊かにする一方、人を脅かす爆弾にもなりました。現在、急成長しているAIは「新たな豊かさ」と同時に脅威をもたらすような、「第三のプロメテウス」になる可能性があるのではないかと思っています。
しかしながら、労働生産性を上げるためにはこのAIを活用することが必要と考えています。弊社には、製品情報や修理履歴など大量のデータが蓄積されています。弊社が持つ情報をAIにとり込みビックデータとして活用すれば、機器の故障原因や対策を調べる時間が短縮できます。取引しているお客様の声に応えることができれば、信頼につながります。AIの活用によって、非価格経営が実現できると考えます。
若手に期待することは、責任を果たすこと
ーー若手へのメッセージをいただけますでしょうか?
二見達也:
消費者でありニーズの発信者であるZ世代が世界人口の約46%を占める現在、彼らは非常に重要なポジションにいると考えています。そして、若手には、やりたいことをやるために責任を果たしてほしいと思っています。
英語では、責任をResponsibilityといいます。Responsibilityは、ResponseとAbilityが一緒になった言葉。責任とは、対応する力を持つということです。「これをやりなさいといわれたときにちゃんと応える力を持つ」ことが責任です。勉強をして、小さくてもいいから積み重ね続けていけば、いい人生が送れるはずです。
編集後記
住友金属鉱山時代でさまざまな経験をし、ニプロンでは次世代を見据えた改革を続ける二見社長。社員が自ら考える姿勢を大切にし、若手へのエールも語った。これからも成長を続けるニプロンに注目だ。
二見達也/兵庫県生まれ。1976年神戸大学工学部卒業後、住友金属鉱山株式会社に入社し、1999年エネルギー環境事業部の原子力エネルギー部長に就任。2001年に住友金属鉱山シポレックス株式会社の免震事業部長に就任。2002年に関連会社のスミコン・セルテック株式会社、取締役に就任。2015年に住友金属鉱山株式会社の技術本部エネルギー統括担当部長に就任。原発の使用済み燃料再処理技術、地震対策の建築用免震システム、汚染土壌の洗浄技術などを開発しビジネス化を実現。電力ビジネスに精通し、株式会社ニプロンの社外取締役を経て、2022年に同社代表取締役COOに就任。愛媛大学の客員教授でもあり、若手の育成に注力している。