河村産業株式会社は、三重県四日市に本社を構えるものづくり企業だ。絶縁素材や電子材料などの加工のほか、独自の技術を駆使した自社製品の開発にも取り組んでいる。社員が働きやすい環境づくりにも配慮しており、2024年には次世代育成支援対策推進法に基づく「プラチナくるみんプラス」の取得認定を受けた。同社の強みはどのようなところにあるのだろうか。2017年に取締役社長に就任した近藤利文氏にお話をうかがった。
ものづくり改革と業務のデジタル化を継続的に推進
ーー社長に就任された経緯を教えてください。
近藤利文:
河村産業株式会社は、もともと私が前職で働いていた会社の取引先でした。そのようなご縁があり、当時社長を務めていた現在の会長から、「息子が社長になるまでの中継ぎをしてほしい」というお話をいただいたのです。ちょうど前職の会社で定年を迎える時期だったので、そのまま定年退職して弊社の取締役社長に就任しました。
ーー社長就任後、社内でどのような施策や取り組みを行いましたか?
近藤利文:
まずは組織的な改善と、PDCAを計画的に回さなければいけないと考えました。そこで社内改革の第一歩として、4月に今期の1年間の行動指針となる重点施策を私が策定し、部門ごとに計画を立ててその施策を実行する取り組みを行ったのです。半年ごとに施策の実行に関するレビューを行い、1年経った時点で翌年度の重点施策に反映させています。
ほかにも、「ものづくり改革のプロジェクト」と題して、課長以上の管理職に対して仕事のやり方の見直しを求めました。やり方を変えたことで不具合があれば元に戻したり、違うやり方を考えたりしています。月に2回、このプロジェクトのフォロー会を行い、それぞれの取り組みについて意見を出し合っています。当プロジェクトが始まって7年目になりますが、現在も改善の取り組みを継続しています。
私が入社した当時はまだ紙の書類が多かったため、ペーパーレス化に取り組む必要がありました。そこで前述の「ものづくり改革のプロジェクト」会議でペーパーレス化について言及したところ、「やりたい」という声が社内から上がったのです。
社外に依頼せず自社でペーパーレス化を進め、2024年度中に完成します。さまざまな情報をデジタル化したことでデータの活用が容易になり、電子共有化がしやすくなったことで業務効率化が実現しました。
多様な素材に対応した加工と独自技術が事業の強み
ーーものづくり企業としての貴社の強みは、どこにありますか?
近藤利文:
紙や金属箔、樹脂フィルムなど、さまざまな素材を加工できるところが、弊社の強みです。スリッターを始めとするさまざまな設備を完備しており、試作から大量生産までワンストップで行うことができます。これらの設備を駆使することによって、400社以上いるお客さまごとのニーズに合わせて、柔軟に対応することが可能です。
また、真空中で素材をプラズマ処理する独自の技術も弊社の強みです。シート状の素材を装置に入れ、真空状態にしてプラズマ処理を行うことで素材の表面改質を行う技法です。これにより接着性を改善します。
この技術を使用して、弊社では「Namli®」という自社製品を開発しました。「Namli®」は接着剤を使用しないため、耐熱性や耐油性、耐加水分解性に優れており、EV車等電動車のモータ用絶縁材料として使用されており、自動車電動化推進の一翼を担っております。
育児両立支援の取り組みが高く評価、「プラチナくるみんプラス」企業に認定
ーー貴社で働く魅力はどのようなところにありますか?
近藤利文:
従業員数260人という中規模の企業でありながら、アットホームな社風も備えているところが長所です。大企業のように組織的に動きつつも、和気あいあいとした温かい雰囲気が漂っています。
また、弊社はこれまで育児両立支援への取り組みが評価されて「プラチナくるみん」の認定を受けてきました。それに加えて、2024年度からは「プラチナくるみんプラス」の取得認定を受けることができたのです。「プラチナくるみんプラス」は、育児両立支援に加えて不妊治療の支援を行っている企業が申請できます。この認定を受けている企業は、2024年時点では三重県の中だと弊社のほかに2社だけです。
継続的な改善と技術力強化で事業の発展を目指す
ーー最後に、貴社の今後の展望を教えてください。
近藤利文:
これまで取り組んできたペーパーレス化・電子共有化を、今後もさらに推進していくつもりです。もちろん、ものづくりの効率化や新製品開発も継続して取り組んでいかなければいけないと考えています。電子共有化によってデータの有効活用が進み、間接的にものづくりの効率化につながっていけば理想的ですね。
また、当たり前のことですが、会社をいい状態で存続させていくためには事業を発展させ続けることが大切です。ものづくりの企業は、他社にはない技術を持っていてこそ価値が上がります。弊社が今後さらに発展し続けるためにも、先ほどの取り組みを始めとして、さまざまな面から技術力を強化していきたいと考えています。
編集後記
「入社したばかりの頃は、システムのことや社内のことが何もわからなかった」と語る近藤社長。社内改革を行うにあたっては、組織の和を乱さない形で実行しようと心を配ったそうだ。人との協調を考えて常に改善を続ける近藤社長の価値観が、働きやすい会社をつくっているのだろう。今後もこの協調と改善の姿勢でものづくりを発展させてほしい。
近藤利文/1956年三重県生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科機械工学修士。1981年株式会社東芝に入社。製造技術、生産管理、生産企画、経営企画などに携わる。2000年東芝産業機器製造株式会社の取締役、その後常務に就任。2017年定年退職し、河村産業株式会社の取締役社長に就任。ものづくりの改善、デジタル化・IT化・DXに注力。