ITが普及し、スマートフォンなしでの生活が考えられなくなった現代。時代の変化に応じるため技術力が必要とされるIT業界において、「Systems Integration」「Infrastructure」「Customer Service」の3つの業務を効率的にリンクさせながら、今もなお岡山で成長し続ける株式会社トスコ。
企業理念は「人が真ん中」。人との絆を大切にし、ソフトウェアを通してお客様、株主、社員はもちろん、すべてのステークホルダーの生活を豊かにするという思いで経営を貫いている。今回は、代表取締役である橋本明三氏に就任した経緯や企業理念について聞いた。
予想だにしていなかった経営者への道
ーー代表取締役に就任した経緯を教えてください。
橋本明三:
2004年から2005年にかけて業績が悪くなり、経営者を変えようとする動きの中で選ばれたのが私でした。私としては経営者になる意識は全くなく、予兆もなく声がかかったので驚いたのを覚えています。
どこの企業でも経営者が変わるタイミングがありますが、私が会社を経営することになったのは、まさにタイミングによるもので、私の人生の大きな転換点になりました。
ーー業績が悪化している状況での就任の心境はいかがでしたか。
橋本明三:
業績が悪化している会社を継ぐ選択はとても勇気がいるものでした。
しかし、「やるしかない」と私に思わせてくれたのは社員たちでした。「社員たちを路頭に迷わせてはいけない」という責任感で、迷いなく返事をしたのを覚えています。
それまでは技術者として働いており、経営に関しての知識は全く持っていなかったので不安がありました。
IT企業においての経営は技術者集団をどうまとめるかが重要です。その点、私は技術者としての経験もあり社員の心理状態も理解できたので、IT企業の経営者向きだったのかもしれません。
企業は誰のためにあるのか
ーー会社を立て直す際に意識したことを教えてください。
橋本明三:
当時は、さまざまな企業から業務提携の話がありました。条件が甘い、美味しい話には基本的に裏があるだろうと心得て交渉に臨みました。その中で、提携の条件が1番厳しかったのが、トッパン・フォームズ株式会社(現:TOPPANエッジ株式会社)でした。弊社にとってありがたい条件での業務提携の話をしてくださる企業もたくさんありましたが、あえて1番厳しい条件を提示してきたTOPPANエッジ株式会社を信頼して、業務提携を行いました。
提携先を決める際に重要視したのは、「どうすれば社員のためになるか」ということです。日頃から選択に迷ったときには、それを一番に考えるようにしています。企業は社員のためにあるものだと考えているので、どんなときでも社員を優先することを心がけています。
IT企業というのは機械が仕事をするのではなく、人が動いて仕事をするので、人が働きやすい環境をつくることを意識しています。
ーー振り返った時に、経営が未経験でも会社を立て直すことができたのはなぜだと考えますか。
橋本明三:
弊社に技術力があったことと、当時の経営を見ながら「私ならこうするのに」「こうした方がいいのに」という考えを持っており、その考えを実行できたからだと思います。
常に新しいテクノロジーが出てくるIT業界では、新しい技術を開発しながら、同時に昔の技術も継承しなければなりません。その点、社内に高い技術力があったことは大きな要因でした。
人材不足の中でも優秀な人材を確保できる理由
ーー業界では採用に課題を抱える企業が多い中、貴社の採用が好調である要因は何でしょうか。
橋本明三:
確かに今現在、IT業界は人材不足だと言われています。だからこそ、景気の良し悪しに左右されることなく採用し続けることが大事だと思っています。苦しい時期こそ、状況に関係なく一様に採用し続けるべきだと。加えて、IT業界ではさまざまな視点を持って提案をする必要があるので、弊社は工学系の学生だけではなく、文系の学生も採用することを心がけています。そのため、他のIT企業よりも受け口が広いことで、人材を確保することができています。
ーーIT企業の場合、多くの企業が東京に本社を置いています。貴社があえて岡山に本社を置き続けるのには何か理由がありますか。
橋本明三:
1つ目の理由は、弊社が岡山発祥であることです。岡山発祥であるからには岡山から出ないと決めています。IT業界の仕事は90%が東京にありますが、その東京へ支社を置くことで仕事を岡山へ流すことができます。そのルートが昔から確立しているので、本社をそのまま岡山に置いています。
2つ目の理由は、弊社の知名度が岡山で高いことです。本社を東京へ移したとしても、東京での知名度はほとんどないので優秀な人材は集まらないでしょう。知名度がある岡山にあえて本社を置いてこそ、採用を有利に進めることができています。
ー採用と人材教育に力を入れる理由を教えてください。
橋本明三:
この先も少子高齢化は続くので、不況であっても毎年の採用と人材教育のための準備はしています。IT業界はさまざまな考えを持った人を集めないと対応できないことが多いので、この業界で仕事を続けていくには、人を集めて育てる必要があります。そのため、採用と人材教育には手間をかけています。
働くことで得られるものとは
ー20代・30代の方へメッセージをお願いします。
橋本明三:
ものづくりが好きで、つくったものが思ったように動いたときの感動を味わえる人が、IT業界に向いていると思います。人に指示されたことだけをただこなしていくというのでは面白くないでしょう。
自分でつくったものを思ったように動かすまでの過程は大変ですが、苦労が報われたときの開放感と達成感を弊社でぜひ味わってもらいたい。
また今後は、外国人の採用も積極的に行いたいと思っています。少子高齢化が進む日本において日本人だけの採用では不安な面があるので、外国の方と一緒に働く環境を整えるつもりです。
外国の方にそれぞれの出身国の仕事を任せ、社内が多国籍な環境になることで、さまざまな視点の提案が生まれ、ともに働くことが楽しくなると思っています。
編集後記
日々新しいテクノロジーが開発され、変化し続けるIT業界。厳しい業界においても社員を大切に思う気持ちは忘れない、橋本社長。
「人が真ん中」という企業理念の通り、常日頃から社員のことを優先するその思いは社員へと伝わり、やがてクライアントや社会全体へ伝わるはずだ。
外国人採用にも力を入れることで、新たなダイバーシティが仕事をさらに豊かにしていくだろう。
橋本明三(はしもと・あきかず)/1960年岡山県生まれ。1982年、株式会社トスコに入社し、ソフトウェア開発技術者として製造業向け制御システム開発に従事。コア事業部長、取締役を経て、2009年に同社代表取締役社長に就任。社員が安心して働ける会社づくりに注力している。