※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

中小企業における業務効率化が求められる中、ERP(Enterprise Resource Planning)システムは企業の成長に欠かせないツールとなってきた。特に、オムニチャネル対応のクラウド型ERPシステムは、時代の流れに対応し、経営資源の一元管理を可能にする重要なソリューションである。

その中で、株式会社キャムは業界の変化を先取りし、中小企業向けに最適化されたシステムを提供し続けてきた。代表取締役CEOの下川良彦氏は、創業からの挑戦と成長を経験し、社員との信頼関係を大切にしながら同社を牽引している。これまでの経歴や今後の展望についてうかがった。

会社員時代に得た多くの経験を自信に起業へ

ーー代表取締役就任までのご経歴を教えてください。

下川良彦:
医薬品の卸業者に16年以上在籍し、退職前の4年半ほどは、IPO事務局の責任者として勤務していました。この頃はまだ、情報システムの普及が進んでおらず、各社が試行錯誤している状況を目の当たりにしたことで、統合的なシステム管理に可能性を感じるようになったのです。

また、Windows95の登場が、中小企業にとってシステム化が容易になる契機だと直感したのが創業につながっています。

もともと20代から起業を意識し、在職中はさまざまな部門でスキルを磨いてきました。システム部門や総務、財務、経営企画、物流、営業本部など、チャンスがあれば異動を志願し経験を積み、起業に向けた準備を進めてきたのです。

中でも、前述したIPOの業務では監査法人や証券会社と関わる機会が多く、さまざまな知見を得られたことから、良い経験をしたと思います。これらの経験と時代の変化を見極め、まだ会社員だった1993年に有限会社キャムを創業しました。本格的に事業に注力するようになったのは、退職後の1996年のことです。

ーー創業後に苦労したことはありますか。

下川良彦:
最も苦労したのは、クラウド化への大きな転換期における決断と、それに伴う一時的な売上減少です。本格的に弊社の事業に取り組むようになってから最初の数年は順調で、会計システムなどのソフトウェアを開発し、中堅企業向けにカスタマイズして販売を拡大していきました。少人数ながら、営業活動を通じて東京をはじめ全国で受注を獲得し、安定した収益を確保していたのです。

しかし、2007年に大きな決断を迫られる危機が訪れます。海外でクラウドが急速に浸透していた影響が日本におよび、オンプレミスが主流だった当時の国内市場環境が大きく変わる局面を迎えたのです。変化に対応するため、10名ほどの小規模な会社でありながら、弊社はオンプレミスの新規受注を停止し、クラウドサービス(SaaS)に開発リソースを集中しました。

結果として売上高が一時的に7割減少するなど苦境に陥りましたが、2008年11月に新しいクラウドサービスをリリースすることができました。この決断が後の成長の基盤となり、困難を乗り越える力になったと思います。

中小企業の成長を支援するオムニチャネルERPの提供

ーー貴社のサービス内容を教えてください。

下川良彦:
弊社は、中小企業向けにオムニチャネルに対応したクラウド型の本格ERPソリューションを提供しています。月額7万円(2025年1月時点)から利用可能で、ECサイト、実店舗、BtoB取引を持つ企業向けに、受注や顧客、売上、在庫などを一元管理できる機能を備えています。

特に充実しているのは、企業の生産性向上を支援する在庫管理や販売管理機能です。製造業向けに生産管理や輸出入対応機能もあるほか、多通貨・多言語にも対応しています。ユーザー数に応じたサブスクリプション制を採用した、追加費用なしで簡単に導入できるサービスで、導入しやすいように初期費用は7万円(2025年1月時点)からと極力抑えています。

ーー貴社の強みはどのようなところですか。

下川良彦:
弊社の強みは、創業以来すべての開発を内製化し、外注を一切使用していない点です。これにより、市場価値を見出しながら独自の製品を開発し、高度化を進めています。また、クラウドサービスとの柔軟な連携が可能で、APIを活用した多岐にわたる外部サービスとの連携実績も豊富です。

このように、ERPを基軸に周辺のクラウドサービスを組み合わせることで、企業の多様なニーズに応じた柔軟なシステムを提供しています。また、コスト面でも競争力があり、導入費用を抑えつつ、高品質な運用を実現できると自負しております。

営業活動の加速とスピード感の重要性

ーー貴社の経営理念や職場環境、社員の働き方についてお聞かせください。

下川良彦:
弊社の経営理念は「幸せ第一主義」であり、創業以来、社員がワークライフバランスを保ちながら働ける環境を大切にしています。残業や休日出勤は原則として許可せず、社員が働きやすい時間管理を徹底しています。また、社員が自由に意見を出し合い、改善案を協力して考える文化が根付いており、全社でオープンなコミュニケーションを推奨してきました。

現在、社員の平均年齢は約38歳で、33名の社員が在籍していますが、出社・在宅といった勤務スタイルは職種や業務内容に応じて柔軟に対応し、約6割が在宅勤務を実施中です。この柔軟な勤務形態により、勤務地に関わらず、幅広い人材が活躍できる環境が整っています。

ーー今後はどのようなテーマに注力しようとお考えですか。

下川良彦:
まずは営業面での成長戦略を加速させることが重要だと考えています。現状、まだスピード感が不足していると感じており、特に営業面での取り組みが遅れていることが課題です。デジタル化が進んでいる現代においても、信頼関係を築くためには、直接的なコミュニケーションや相手のニーズをきめ細かに掴むアプローチが欠かせません。

そのため、アナログ的な営業手法を大切にしていきたいと考えています。人との接点を重視しつつ、マーケティングと営業の連携を強化し、デジタルツールを活用した効率化を進めることで、より迅速に企業の成長を実現していきたいです。

ーー最後に、今後の展望を教えてください。

下川良彦:
営業体制をさらに強化し、取引先数を増加させることが目標です。5年後には1,000社を達成し、2029年にはIPOを目指して成長を加速させます。そのためにも資金調達を進め、新たな手法にも積極的に投資し、会社の規模を拡大していく計画です。今後の成長に向けて、必要な資金を確保しながら効率的な運営と営業強化を両立させていきます。

編集後記

下川社長は会社員時代の経験を生かし、変化の多い業界での柔軟な対応と挑戦を進めてきた。創業時の苦労や転機を経て、現在のサービスへとつながる道のりは、社長の考え方や行動がしっかりと反映されたものといえるだろう。また、社員が働きやすい環境づくりを大切にしながら、着実に未来に向けて進んでいく姿も印象的だ。「営業のスピード感」を重視する姿勢は、今後のさらなる成長に向けた大きな鍵となるだろう。

下川良彦/1958年福岡県生まれ。大阪のソフトウェア開発会社に1年間勤務後、地場大手医薬品卸に転職し、約16年半勤務。「株式公開事務局」所属時に経営・管理の重要性を実感し、1993年にキャムを創業。社員が身体・精神を酷使することなく、かつ経済的待遇にも満足のいく「幸せ第一主義」を経営の柱とする。