※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

建設現場を支える施工管理技術者や技能労働者の不足は深刻化しており、建設業従事者の29歳以下の割合は1割まで落ち込んでいる。

1958年に京都で創業し、公共工事と民間工事において土木や建築など、幅広く工事を請け負う株式会社朝日組。同社の代表取締役、中務了夫氏に、朝日組との出合い、安全対策への思い、人材不足解消のための取り組みについてうかがった。

土木の道を離れた時につながった、朝日組との縁

ーー学生時代から土木の仕事に興味があったのでしょうか?

中務了夫:
もともと勉強が嫌いで家も裕福ではなかったので、高校を卒業したらすぐに働こうと考えていました。高校進学の際、中学校の先生に確実に合格できると言われたことから土木科を選びましたが、特別、土木の仕事に興味があったわけではありません。

ーー社長就任までの経緯を教えてください。

中務了夫:
高校卒業後、新日本土木株式会社で2〜3年働きましたが、20歳前後の自分にとって土木の仕事は危険でしんどいという気持ちが強く、退職して田舎の岡山で1年ほど過ごしました。

そんな時、朝日組に勤めていた同級生から「手伝いに来てほしい」と言われたことをきっかけに、朝日組で働き始めました。1996年に創業者が他界し、当時専務を務めていた私が会社を継ぐことになりました。

業界の秩序を守りながら、顧客に付加価値を提供する

ーー貴社の事業内容について説明をお願いします。

中務了夫:
弊社は創業66年になり、当初はゼネコンの仕事を主に行っていましたが、50年ほど前から公共工事の直接受注に力を入れています。

現在の公共工事の入札では、業者ごとのランクに応じて受注できる工事金額が決まっており、業者はインターネット経由の「電子入札」に参加するという仕組みが多く取り入れられています。弊社は京都市の土木工事の等級でAクラスを取得していますが、同クラスに約30社がひしめく中で、毎回受注できるという保証はありません。弊社としては利益確保のためにも公共工事の受注を増やすことが理想でした。

民間の仕事については、それぞれの業者が特定のゼネコンと長年取引し、受注合戦をしないよう自分たちのテリトリーを守っています。いずれの業者も、まずは今の得意先を守ることが重要だと考えています。

ーー貴社の強みを教えてください。

中務了夫:
建設業界は重層下請構造が当たり前ですが、弊社には従業員が29名おり、現場でも直接雇用の従業員を一定数確保できます。そのため、現場での方針や考え方を統一することも可能です。また、弊社ではここ数年、無事故を継続しています。

日々安全に作業を行うことへの強い思い

ーーこれまでに、どのような困難がありましたか?

中務了夫:
私が社長になる前、現場で起きた事故により、社員が亡くなってしまったことがあります。また、社長に就任した1996年頃はバブルが弾けた後で、世の中が下り調子だったため、ビジネスにおいても苦労したことを覚えています。

ーー建設業界で働く上で大切にしている考えをお聞かせください。

中務了夫:
建設業の労働災害による死亡者数は年間約300名に上ります。以前よりは少なくなってきていますが、数字からも危険な労働環境だということがわかります。現場に行った時には「今日一日、怪我をしないよう、慌てず、安全に作業するように」と必ず伝えています。

また、私たちの業界は発注者や役所の職員、近隣住民など、さまざまな方との関わりがあります。そのため、日々問題も出てきますが、一つひとつ解決して乗り越えていくことが大切だと感じています。

人生には苦しいことが付き物ですが、私はいつも「時が解決してくれる」と考えており、前向きでいることを心がけています。

人材確保に向けた新たな取り組み

ーー貴社の課題と、改善のための取り組みを教えてください。

中務了夫:
現場の自動化や書類の電子化により、作業の効率化を図ってきました。弊社のような規模の会社では急に全てを変えるのは難しいので、最大の課題である人材不足を解消するために、採用の方法から変えていきます。

今まではハローワークに求人を出すだけでしたが、最近は採用担当者が関西の大学・高校を調べ、就職担当者の先生方と連絡を取り、直接面談及びリモートでの採用活動を実施しています。なかなか結果は出ませんが、地道に活動を続けていきます。

また、弊社では国家資格を持った方と現場を任せられる方、それぞれ2〜3名を募集しています。社内の若返りを図り、刷新していく必要があると感じています。

ーー若手人材に向けて伝えたいことはありますか。

中務了夫:
私は、人とのつながりを大切に、謙虚でいることも大切だと考えています。

また、私の若い頃は親や先生から「我慢することが自分の財産になる」と言われました。仕事をする上でも、ある程度我慢することが結果的に自分の力になると思うので、すぐに逃げずに我慢して頑張ってみてほしいですね。そうすることで、新たな可能性と、将来のためになる経験を得られると思います。

編集後記

建設現場で人が亡くなるというニュースを目にする機会は少なくない。どれだけ気を付けてもヒューマンエラーは起きてしまうと語る中務社長。現場の危険な労働環境や仲間を失う悲しみを知っているからこそ、一日一日を事故なく安全に過ごしてほしいという強い思いを抱いていることが、インタビューからもうかがえた。

業界全体の人手不足が深刻化する中、新たな取り組みで課題解決を図る株式会社朝日組に、今後も注目していきたい。

中務了夫/1950年岡山県岡山市生まれ、岡山県立工業高校土木科を卒業。新日本土木株式会社を経て、1973年株式会社朝日組に入社。1996年代表取締役に就任。