※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

一生に一度の家づくりだからこそ、お客さまと職人の絆を大切にしたい。その思いを形にするため、着工式や建設中の現場見学会を実施し、発注者であるお客さまとつくり手である職人を直接つなぐ機会を創出している企業がある。それが2002年の創業以来、社員教育に力を入れながら着実な成長を遂げてきた株式会社森住建だ。「家業」から「企業」への進化を選び、岐阜を拠点に事業を展開する代表取締役の森浩幸氏に話をうかがった。

悔しさをバネに起業を決意した

ーー起業された経緯を教えてください。

森浩幸:
弊社を起業する前は、東京で別の仕事をしていました。30歳のときに地元である岐阜に戻ったのを機に、家業である大工をやろうと思い、父の仕事を手伝い始めました。軽い気持ちで始めた仕事でしたが、すぐに仕事が面白くなってきて、どんどんのめり込んでいきました。

当時は大工になるというと、中学を出てから修業を始めて、一人前になるまで最低10〜15年かかると言われていた時代です。私は30歳から始めたためスタートが遅く、「にわか大工」のようなことを言われて悔しい思いをしました。そこで、つくるのが会社であれば、「にわか経営者」とは誰も言わないだろうと思い、2002年、38歳のときに弊社を起業したのです。

ーー起業してから事業はすぐに軌道に乗りましたか?

森浩幸:
1年目は、下請けの仕事ばかりでしたね。自分たちでチラシをつくって、ひたすらポスティングを続けました。当時下請けで入っていた現場の周辺にポスティングしたり、休みの日には車で遠くへいって子どもたちに手伝ってもらったりしました。それが1年くらい続き、ようやく2年目から直接お仕事をいただけるようになりました。

お客さまと職人をつなぐ、家づくりへのこだわり

ーー貴社のこだわりや強みを教えてください。

森浩幸:
一番のこだわりは、お客さまと一緒に家をつくることですね。職人からお客さまの顔が見え、お客さまからも職人の顔が見える家づくりをしたいと考えています。実は、私が起業した理由の一つがそこにあります。私が大工をやっていたときは、職人とお客さまがつながる機会はほぼなく、それでは本当にいい家はつくれないと思っていたのです。

そのため弊社では、新築で家を建てる前に必ず「着工式」を行うようにしています。お客さまに加えて、大工さん、電気屋さん、設備屋さんなどだいたい40人くらいの職人さんが参加し、顔を合わせる機会をつくっているのです。さらに、建設中の現場や完成後の物件を巡るバス見学会も行い、お客さまと職人さんが直接話せる機会をつくっているところが、他社との差別化につながっていると思っています。

ーー起業されてから一番苦労したタイミングはいつでしたか?

森浩幸:
2010年ごろですね。売り上げが5億を超えて、10億まで伸ばそうとしていた時期ですが、スタッフがまったく定着しなかったのです。1年間で20人ほど入社したスタッフのほとんどが辞めてしまった年もありました。

当時を振り返ると、会社の仕組みづくりがまったくできていなかったのだと思います。当時は、ようやくマニュアルなどをつくり始めた時期でしたから。仕組みづくりを行いながら、売り上げも上げていかないといけない、でも人が辞めていくという悪循環に陥り、とても苦労しました。

ーーその時期をどうやって乗り越えられたのですか?

森浩幸:
まずは新卒採用を始めました。それまでは中途採用のみで、各自が経験に基づいて仕事を進めている状態だったのです。そうして新入社員を受け入れていく中で、次にさまざまなマニュアルの整備が急務だと気付きました。

既に着手していたマニュアル作成にさらに力を入れて、業務の標準化を進めました。「家業」から「企業」になっていくために、社員教育の仕組みづくりを徹底的に行った結果、徐々に組織としての基盤が固まり、会社を大きくしていけるようになりました。

お客さまにも社員にも喜ばれる会社でありたい

ーー貴社のオフィスを拝見しましたが、とても素敵ですね。

森浩幸:
お客さまが来社されたときに、安心してもらえる外観にしたいと考えました。お客さまにとって家は一生の買い物であり、長い時間を過ごす場となるので、「この会社にお願いしても大丈夫なのだろうか」という不安を与えないようにすることが大切です。

あとは、社員が「ここで働きたい」と思える会社にしたい、働く環境をしっかり整えてあげたいという思いも形にしました。打ち合わせやランチ用の部屋をつくり、トイレも綺麗なため、他の会社の方から羨ましがられることもあります。

ーー今後のご展望についてお聞かせいただけますか。

森浩幸:
まずは5年後に売り上げ50億を超えて、最終的には100億の企業にしていきたいと思っています。弊社の仕事を喜んでくださるお客さまを、どんどん増やしていきたいです。そのためにも、社員教育にもっと力を入れていかないといけません。

弊社には、「支店長になりたい」という目標を持ち、ひたむきに仕事に取り組む社員もいます。そうした熱意あふれる人材をどう育てていくかが重要です。1つの支店で3〜10億の売り上げがあるので、支店長といっても、小さな会社の社長と同じくらいの手腕が求められます。そこで成功できる人を育てていくために、研修や理念教育も含めて今後もしっかりとやっていきたいですね。

編集後記

「にわか大工」と揶揄されても諦めず、むしろそれを原動力に前へと進んできた森社長。創業時のポスティングや社員の定着に苦心した時期など、すべての経験を前向きに捉える姿勢が印象的だった。お客さまと職人の「顔が見える家づくり」という起業の原点を大切にする、その誠実な経営哲学こそが同社の成長の秘訣なのだろう。

森浩幸/1963年岐阜県生まれ、立命館大学卒。30歳から家業である4代目大工として父親について修行に入る。2002年、38歳で大工職人と2人で有限会社森住建を開設し、代表取締役社長に就任。自宅の駐車場を改装した8坪ほどの事務所から出発し、2007年に社屋と300坪の倉庫を建設。2017年に関店を開設。2019年に本社を岐阜市内に移転し現在に至る。