カーペットは日常当たり前のように使われているもの。私たちは普段何気なくその上を歩いているが、国会議事堂の赤絨毯を納入することでも有名な住江織物株式会社は、カーペットや繊維製品を通じて大小さまざまな環境問題に取り組んでいる。
その規模は私たちの生活空間から、社会が抱える大きな問題の解決まで多岐にわたる。カーペット製造に込められた想いや、メーカーが環境に対して負うべき責任などについて、代表取締役社長の永田鉄平氏にうかがった。
自分の力を試せる環境を求め、住江織物に入社
ーー永田社長の経歴をお聞かせください。
永田鉄平:
私が社長に就任したのは2021年です。1980年に大卒で入社したので、入社から41年目での社長就任となります。社長を目指していたわけではありませんが、常にベストを尽くしてきた結果が評価されたのでしょう。
入社した理由は、自分の力を試したい、働いている実感がほしいと思ったからです。
入社当時の弊社は、国内初のタイルカーペットの生産を奈良工場でスタートするなど日本のカーペットシェアNO.1を誇っていました。これを知った私は、ここなら自分という「個」の力を試せると感じました。
弊社は今年2024年で創業141年となりますが、これまで日本初となる絨毯や鉄道のシート地、タイルカーペットなどたくさんの製品を日本の世に送り出してきました。いまの社訓であり「わたしたちが大切にする価値観」でもある“業界の先駆者としての誇りをもち、和協、誠実、不屈の精神をつらぬく”にも魅力を感じました。
入社後は小売店への営業や商業施設などに設置するタイルカーペットをはじめとした各種カーペットの設計・納品、また、製品にかかわるOEM営業を担当しました。このOEMには、じつに30年以上携わっていました。
仕事のプレッシャーは成長の母でもある
ーー社員時代に大変だったことはありますか?
永田鉄平:
仕事でつらいと思ったことはありません。ただ、大きな仕事になるほど責任や仕事量が増えるのは大変でした。弊社は個人の裁量権が大きいので、仕事のやりがいとプレッシャーが表裏一体になっているのです。
とはいえ、適度なプレッシャーは緊張感を生み、成長を後押ししてくれます。入社3、4年目から大きな現場を任されることもあり、その分大きく成長できました。思い返せば苦労と成長を繰り返してきた、充実した社員時代だったと思います。
幅広く活用される繊維加工技術を中心とする分野で活躍する
ーー貴社ならではの強みは何でしょうか。
永田鉄平:
カーペット以外にも機能資材の分野で技術とシェアを有している点です。機能資材とは資材に特別な機能を加えた「付加価値のある資材」と定義しています。
弊社の代表的な機能資材の技術に、ホルムアルデヒドやたばこ臭などを吸着する「トリプルフレッシュ®」があります。
これは軽量で強度のあるハニカム構造の消臭フィルターなどに活用することができます。
このハニカム構造の消臭フィルターは大手家電メーカーの空気清浄機や冷蔵庫などに使われており、ほかにもホテルの壁紙やカーペット、カーテンなどにも加工され、使われています。
最近では、手をかざすだけで自動開閉するゴミ箱「ZitA SQUARE(ジータスクエア)」にも弊社の消臭フィルターが活用されています。皆さんも知らず知らずのうちに目にしているかもしれません。
社会問題の解決策を提示したリサイクル製品「ECOS®(エコス)」
ーー貴社には使用済みのタイルカーペットをリサイクル材として活用する水平循環型リサイクルタイルカーペット「ECOS®(エコス)」という製品がありますが、どのような特徴があるのでしょうか?
永田鉄平:
従来、使用済みタイルカーペットは埋め立て処分するしかありませんでした。
また、開発当時、市場に流通していたリサイクルタイルカーペットの再生材比率は25~40%程度のものがほとんどでしたが、弊社が目指したのは、当時で最大77%と世間の常識を大きく超えるものでした。
そこで弊社は、産業廃棄物の再生に強みを持つリファインバース株式会社と協業し、タイルカーペットを同一製品間で循環させる「ECOS® Recycle System」を確立しました。リサイクルに最適な製造設備を新たに導入することで、従来品を大きく上回る再生材比率・CO2削減貢献率を達成しています。
資源を未来へつなげる水平循環型リサイクルタイルカーペット「ECOS®(エコス)」は、メーカーとしての「つくる責任」を果たす、環境への配慮と経済性を両立したオンリーワン商品なのです。
私たちメーカーには製品を「つくる責任」が伴います。
これからもお客様やお取引先様、協力会社と共に「新しいモノづくりに挑戦し続けていきたい」という想いを胸にサステナブルな社会づくりに貢献していく所存です。
独自商材の拡販と海外展開の拡充で事業の安定化を狙う
ーー今後注力したい事業テーマを教えてください。
永田鉄平:
既存取引先へは差別化された独自商材を拡販すると同時に、海外展開の拡充を考えています。弊社の中長期経営目標である、売上高1,000億円と営業利益率5%以上を達成しキープするためにもこの2点は欠かせません。
まず既存取引先に対する独自商材の拡販ですが、弊社の顧客は大手企業が多いことから、例えば自動車内装分野では、弊社の特長を活かした加飾技術による差別化で、まだまだ事業拡大できる余地があると考えています。ただ製品を売るだけでなく、顧客の成功を実現する手助けをすると考えれば、ビジネスチャンスも広がっていくでしょう。
また、海外展開では合成皮革のメキシコ工場における内製化と拡販、加飾技術による新たな価値提案に取り組んでいきます。現在海外に7カ国13拠点がありますが、まだヨーロッパには拠点がないので今後、検討を進めたいと考えています。
そして、これらを実現するための基礎づくりとして、社員の幸せと会社の成長の両立にも取り組んでいきます。これは今後3年で特に注力したいテーマです。
「個」の力を発揮できる環境で共に世界へ
ーー人材に求める条件はありますか?
永田鉄平:
現在の弊社の規模は、世界全体で約2,700人、国内で約1,500人です。まだまだ個人の裁量が大きく、「個」の力を発揮できる環境にありますので、私のように自分の力を試したい方はぜひお声がけください。
特に積極性のある方は歓迎です。海外展開への注力も考えているので、海外で活躍したい方にも向いているのではないでしょうか。
企業の持続的成長の源泉は人材であり、最も大切な資産と考えています。先行きが不透明で、将来の予測が困難な時代といわれるなか、従業員と企業が持続的に成長するために、弊社では人材の活性化・人材育成の強化の一環として、2022年5月期から2023年5月期にかけて、社長・役員へのヒアリング、所属長へのアンケートを行い、「住江織物が求める人物像」を「自律」「挑戦」「共創」へ見直しました。
今後従業員一人ひとりが能力を高め力を発揮するため、「自律」「挑戦」「共創」を中心とした教育制度や研修プログラムなどの見直しを行い、中長期経営目標達成とこれからの時代に適切に順応するための人材を育成していこうと考えています。
編集後記
普段意識せずに接しているカーペットにも、環境に貢献する機能があることに驚いた方は多いのではないだろうか。さまざまな場所に使われているだけに、そのポテンシャルは計り知れない。
住江織物の商品は、足元から環境改善に寄与する、まさに縁の下の力持ちだといえる。盛んに叫ばれるサステナブル社会を真に実現するのは、同社のように己の責任に真摯に向き合う会社ではないだろうか。
永田鉄平/1957年大阪府生まれ。1980年関西学院大学経済学部卒業後、住江織物株式会社へ入社。インテリア部門や特販部(現・機能資材事業部門)を経験した後、2012年に執行役員機能資材事業部門長に就任。経営企画室部長、CSR推進室部長、インテリア事業部門長などを経て、2021年に代表取締役社長に就任。