
20代で俳優として活躍した中村竜氏は人気全盛期に芸能界を引退し、30歳で株式会社H.L.N.A(エイチ・エル・エヌ・エー)を設立した異色の経歴を持つ。プロサーファー、写真家、そして経営者として多彩な顔を持ちながら、自然と社会をつなぐライフスタイルを提案する中村社長に、これまでの歩みと今後の展望についてうかがった。
多彩なキャリアの原点は生まれ育った鎌倉の自然
ーー芸能活動から会社を設立されるまでの経緯やきっかけを教えてください。
中村竜:
私は神奈川県鎌倉市の出身で、幼少期から豊かな自然に囲まれて育ちました。父が趣味でやっていた素潜りが、海と親しむ最初のきっかけでした。中学1年生のときに本格的にサーフィンを始め、それ以来サーフィンは私にとって、人生の中心となっています。
高校時代にスカウトをきっかけに芸能界に入り、CMやドラマなどで仕事をさせていただきました。大河ドラマや飲料メーカーのCM、月9ドラマなどに出演する機会に恵まれましたが、次第に「本当に自分の好きなことをやって生きたい」と思うようになりました。そこで一念発起して芸能界を引退し、30歳で会社を設立しました。
経営については全くのゼロからのスタートでしたが、やりたいことを軸として考えた結果として、ボードスポーツを中心にした事業へと自然に向かっていきました。
ーーボードスポーツの最大の魅力は何だと思いますか?
中村竜:
ボードスポーツは、基本的にサーフィンやスケートボード、スノーボードのことを指し、年齢性別問わず幅広い層から愛されているスポーツです。最近では、オリンピック開催の影響やコロナ禍でのアウトドア需要の高まりから、競技人口が増加しています。
ボードスポーツの大きな魅力は、人間がつくった環境で行う他のスポーツとは異なり、自然に自分を適応させる感覚が身につくことです。サーフィンを例に挙げると、波や風といった自然の力に合わせながら適切な動きをします、こうした自然を相手にスポーツを通じて得た感覚や経験は、ビジネスやライフスタイルにも活かせると実感しています。単なるスポーツの枠を超えた豊かな体験をもたらしてくれることこそ、ボードスポーツの醍醐味ですね。
スケートボードパークの運営からアパレル事業まで幅広く展開
ーー貴社はどのような事業を展開されていますか。
中村竜:
弊社では、ブランド事業、ボードスポーツ用品の販売を行うEC事業、スケートボードパークのプロデュース・運営をする事業の3つで構成されています。EC事業部では自社サイトとZOZOTOWNでオンライン販売を行い、ブランド事業部ではオリジナルブランド『MAGIC NUMBER(マジックナンバー)』と海外インポートブランドを展開中です。また、施設事業部ではスケートボードパークのプロデュースや運営を手掛けています。
ーーブランド事業について詳しく教えてください。
中村竜:
弊社のオリジナルブランドである『MAGIC NUMBER』は、ストリートやボードスポーツを楽しむ方向けのファッションブランドです。特徴は、デザインから生産まで、全て日本で行っているなど、私たちのこだわりを存分に盛り込んでいることで、おかげさまでセレクトショップで取り扱っていただくことも多くなっています。
一方、インポートブランドはオーストラリアやカリフォルニアからサーフカルチャーを感じられるフットウェアやアパレルなどのブランドの輸入をしています。それぞれ異なる販売チャネルを持つことで、より幅広い顧客層にアプローチしています。
閉鎖的な業界に風を吹き込むEC戦略

ーー貴社が今後取り組みたいことを教えてください。
中村竜:
ボードスポーツ業界は、かつては専門ショップに行かないとギア(道具)やウェアがそろえられないというイメージがあり、初心者にとってはハードルが高い世界でした。このことが競技人口やボードスポーツに親しむ方を増やすうえでの障壁となっていました。そこで弊社では、EC販売に力を入れることで、誰でも手軽にボードスポーツ用品を購入できる環境づくりを進めています。
オンライン販売を展開することで、地方在住の方や初心者でもボードスポーツを始めやすい環境が整うため、結果として業界全体の発展にもつながると考えています。
ーー事業成長のなかで大事にされていることは何ですか?
中村竜:
経営者として、会社を右肩上がりに成長させることは目標でもあり、使命です。しかし、「ただ数字が成長すれば良い」というわけではありません。あくまでも環境に負荷をかけない形での成長を重視しています。
「言われたことをやる」ことも当たり前ですが、会社を通じて「こういうことを実現したい」という志を持って行動することが、業界全体の発展につながると思います。その結果、環境にもブランドにも良い影響をもたらすでしょう。
ボードスポーツは自然と深く結びついているため、私たちの活動が環境への配慮を欠いていては本末転倒です。たとえば、製品の素材選びや輸送の仕組みなど、サステナブルなアプローチを徹底し、事業全体に一貫して根付かせています。
編集後記
自然を愛し、サーフカルチャーやボードスポーツを愛する中村社長にとって、事業は利益を上げることが最終目的ではなく、業界の発展や、持続可能な環境負荷の少ない社会への貢献にあるという強い思いが伝わってきたい。「自然とともに生きるライフスタイル」を貫いて発信し続けるH.L.N.Aのブランド力には、こうした揺るぎない思いが根底にあるのだと実感した。

中村竜/1976年、神奈川県鎌倉市で生まれ。俳優として活躍し20代後半に芸能界を引退後、幼少期から親しんできたサーフィンや海のあるライフスタイルを軸に2004年、30歳で株式会社H.L.N.Aを設立。「自然とともに生きるライフスタイル」の普及を目指し、業界の発展と環境保全に取り組む。