※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

キュプラや美濃和紙などの生分解性素材を使用したニット素材向けの糸製造販売や開発を手がける、株式会社滝善。同社の代表取締役社長である滝善藏氏は、創業者の孫として2006年に社長に就任してから、売上の低迷やコロナショックなど数々の困難に直面した。同社の事業や今後の展望について、滝社長に話をうかがった。

バラエティ豊かなニット素材の製造販売を手がける

ーー社長のご経歴をお聞かせください。

滝善藏:
株式会社滝善はもともと私の祖父が創業した会社で、私が社長に就任したのは2006年のことです。滝善入社前は、大学を卒業後に当時の株式会社ライカに就職して、横浜地区や東京方面の営業を担当していました。売掛金の回収率でトップになることを自ら目標として掲げ努力した経験が、今の仕事にも活かされていると思います。その後、3年で株式会社ライカを退職し、滝善に入社しました。

ーー貴社で扱っているニットにはどのような特徴がありますか。

滝善藏:
春夏物のニット素材や婦人物のセーター向けの糸を中心に、商品を展開しています。最近ではSDGsを想定し、生分解性素材を使用した商品の製造販売を進めています。また、35年以上前から美濃和紙を使用したニット製品づくりにも取り組んできました。類似の素材を使用した他社製品との差別化を図り、顧客を獲得することに注力しています。

ーー健康意識に配慮した商品も開発していますね。

滝善藏:
2023年に、「COZY CUPRO(コージーキュプラ)」という新素材を開発しました。COZY CUPROは、遠赤外線機能素材「光電子®(こうでんし)」を吸湿性・放湿性に優れたキュプラと組み合わせることで、高い保湿機能を生み出す素材です。光電子®は着用する人の体温を吸収して再放出するので、蒸れたり熱くなり過ぎたりするということがありません。暖冬に対応した、非常に優れたニット素材です。

経営者として大きな決断を下し数々の困難を乗り越えた道のり

ーー会社を経営する上でどのような出来事が印象に残っていますか。

滝善藏:
業界全体の売上が厳しい傾向にあった2019年頃に、中途採用で7人を採用する決断を迫られたことです。その時期、吸収合併に伴い希望退職を募った同業他社から社員と商圏、在庫の一切を弊社が引き受けたのです。私が1人ずつ面談して今後を見据えて採用を決めました。弊社の売上が下降からようやく回復する途上にあった時期だったので、社長として非常に大きな決断となりました。

ーー会社として、大きな危機や困難を乗り越えた経験を教えてください。

滝善藏:
2020年3月のコロナショックは、弊社にも大きな影響がありました。コロナショックから1年くらいは社員も実力を発揮できず、弊社の売上も落ち込みました。その後、2022年下半期と2023年上半期では回復したのですが、暖冬の影響で2023年下半期の売上が期待するほど伸びませんでした。近年の気候変動の影響は、非常に大きいです。これから展開する秋冬物の素材に期待をかけたいですね。

残念ながら、今は物がバンバン売れるという時代ではありません。そのため、新商品の開発に注力する一方で、売れる商品と売れない商品を選別して在庫を絞る必要があります。基礎的なことですが、倉庫費などの出費を減らし利益を上げることを経営者としてきちんとやっていきたいと考えています。

ブレない信条を持つことが大事

ーー貴社の今後の展望について、お聞かせください。

滝善藏:
200社を目標に、法人向け商品の販路を拡大したいと考えています。やはり使いやすい素材やオールシーズン使える素材は売れ行きが良いので、そういった前提を踏まえた商品開発に注力したいです。

また、社内制度の見直しも徹底するつもりです。コンプライアンスの問題は、大手企業か中小企業であるかを問わず、等しく同じルールが課せられます。人事登用制度を整備して、働きやすい職場環境づくりに取り組んでいきたいと思います。30代から40代の人材が、会社に新しい風を吹き込んでくれることを期待しています。

ーー最後に読者へのメッセージをお願いします。

滝善藏:
私の信条は、「嘘をつかない」ことと「卑しいことはしない」ことです。自分で決めた信条が、根本的な考え方を形成しています。このような考え方の軸を、ビジネスパーソンの皆さんに持っていただきたいと思います。年が若く経験が浅くとも、考え方の軸がブレていなければ、十分に活躍できると思います。

編集後記

「売上に厳しいことと卑しいことは違う」と語る滝社長。コロナショックや気候変動などの逆風が吹く中でも粘り強く経営に取り組む姿勢には、学ぶところが多い。真摯な取り組みを続ける株式会社滝善なら、VUCA時代と言われる混迷の中でも挑戦を続けていくだろう。

滝善藏/1959年愛知県生まれ。立命館大学経済学部卒業。当時の株式会社ライカに入社し、3年間の修業期間を経て、1985年に株式会社滝善に入社。2006年に同社代表取締役社長に就任。一宮商工会議所の常議員としても活動している。