※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

抄紙(しょうし)用具の高い製造技術により、製紙業の発展に寄与してきたイチカワ株式会社。抄紙工程の1つ「プレスパート(脱水工程)」で使う全用具を製造・販売している、国内唯一の会社として知られている。

新卒から同社に勤め、2023年に代表取締役社長に就任した矢崎孝信氏に、就任後の取り組みや会社の強み、今後の展望などをうかがった。

入社2年目でアメリカ駐在へ。長年にわたり海外営業部門での職務に携わり、社長就任後はDXや大規模な設備投資に取り組む

ーー今までの経歴を教えてください。

矢崎孝信:
アメリカの大学を卒業後イチカワに入社し、2年目から約10年間アメリカに駐在しました。駐在時代は代理店と激しい議論を繰り広げるなど、さまざまな経験を積んだことから、多少心臓は強くなりました(笑)。

帰国後は、欧州地区のマーケティングの前線に立たせてもらうなど、若いうちから多くの経験を積ませてもらいました。その後、海外子会社社長や海外営業部長、国内営業を含む営業管掌などを経て、2023年に代表取締役社長に就任しました。

ーー社長就任後はどのようなことに取り組みましたか。

矢崎孝信:
社内システムにERPを導入するなど、DXに取り組んでいます。また、主力製品であるベルトの増産対応を目的に、設備投資を決めたことも大きな決断のひとつです。

また、「SKS(スピード・行動・執念)」という考えを従業員たちに浸透させる取り組みも、進めています。従業員はみなヤル気があり、彼らがより一層能動的に動くことができれば、会社はより良くなると私は確信しています。

プレスパートで使う全用具を製造・販売できる国内で唯一の会社

ーー事業内容について教えてください。

矢崎孝信:
弊社の主力製品は、新聞紙、チラシ、本、段ボールなどの紙製品を製造する際に必要な「抄紙(しょうし)用フエルト・ベルトで、その他抄紙用途以外の工業用フエルト」を製造・販売しています。弊社の主力製品は、紙製品の原料であるパルプや古紙を水、熱、化学薬品で溶かした後、抄紙工程において品質面・環境面・コスト面で「最重要工程」と言われている脱水工程である「プレスパート」で使用されております。

紙を作るためには、大量の水を使用するため、後工程のドライヤーパート(乾燥工程)で大量のエネルギーを消費します。そのため、「プレスパートで水分を最大限に搾ること」が、エネルギー・環境問題を考えても非常に重要な意味を持つことになります。

プレスパートで1%水分を多く搾ることができると、後工程のドライヤーパートで「5%のエネルギー消費量削減」になります。抄紙機メーカー様、製紙会社様は抄紙工程におけるエネルギーコスト削減に向け、多大なる努力をされています。弊社も紙作りだけでなく、製紙業界のエネルギーコスト低減のお手伝いもさせていただいております。

昨今、日本ではデジタル化の影響で紙の使用量は減少傾向ですが、中国、東南アジア、インド、南米などでは増加しており、世界に目を向けると弊社の事業にはまだ多くの需要があります。

実際、私が入社したときは国内と海外の事業比率は8:2くらいでしたが、現在は4:6に逆転しています。弊社製品を通じて、日本はもちろんのこと、世界中で使用される紙の生産に貢献し、社会のお役に立ちたいと考えています。

ーー貴社の強みはどういった点にありますか。

矢崎孝信:
プレスパートで必要なフエルト、シュープレス用ベルト、トランスファー用ベルトの3つの製品をすべて製造・販売できることが強みです。3つの製品すべてを手がけている会社は世界に3社しかなく、弊社はそのうちの1社となります。

1949年の創業時から蓄積されてきた世界トップレベルの製造技術があり、海外現地法人4拠点に加え、世界に30社以上の販売代理店があり、その張り巡らされたネットワークで45カ国以上に弊社の抄紙要具を販売している点も強みとなります。

また、弊社は役員に海外人材を登用、海外販売子会社では現地人材を副社長に登用、女性活躍の推進など、ダイバーシティの取り組みにも力を入れています。

社員から「イチカワに入って良かった」と言われる会社を目指す

ーー貴社ではどのような人材を求めていますか。

矢崎孝信:
明るく積極的な方はもちろん、壁にぶつかったとき、頭を切り替えて前向きにチャレンジできる人が理想です。営業職は、国内外問わず出張が多いため、人と接することが好きな方に来ていただきたいですね。

弊社は海外売上比率が60%を超えており、グローバルに活躍できる環境が整っています。海外でのキャリアに関心のある方は、ぜひご応募ください。

また、アルムナイ採用制度もあり、他社で経験を積んで再び弊社で活躍していただくことも歓迎しています。

ーー今後の注力テーマを聞かせてください。

矢崎孝信:
フエルトやベルトの製造においては、効率的な生産体制の構築を目指しております。そのため、生産ラインにもDXを導入し、業務効率化を進めていきます。

また、現在、工業用製品の売上比率が約4%であるため、こちらの分野でも売上を伸ばしていきたいと考えています。

スマートフォンやパソコンに使われる配線基板の製造工程で弊社の製品が使われているため、この分野の技術力を高めることにも注力し、売上を伸ばしていきたいと考えています。

そして、為替の影響を受けても安定的に収益を出せる会社になり、従業員に「イチカワに入って良かった」と思われる会社を目指します。

ーー最後に、読者へメッセージをお願いします。

矢崎孝信:
弊社は大企業ではないからこそ、1人ひとりが大切な存在であり、仕事にやりがいを感じられる会社です。頑張った分だけ自分に返ってきますし、スキルと上昇志向があれば、昇進のチャンスを掴むことができます。

課題に直面したときに自分事として捉え、チャレンジすることが大切であり、明るくポジティブな方と一緒に働けることを期待しています。

編集後記

国内では唯一、海外を含めても3社しかないプレスパートの全用具を製造・販売するイチカワ株式会社。大手企業のみならず、多様な企業と取引があり、同社の技術は国内外さまざまな場所で必要とされている。

「海外に関してはまだまだ成長の余地があり、さらなる拡販が期待できる」と語った矢崎社長。同社の技術がさらに広がり、日本の紙製造技術の高さを世界中に伝えてくれることを期待したい。

矢崎孝信/1961年生まれ、米国バーモント州セントマイケルズカレッジ商学部総合ビジネス学科卒業。1985年にイチカワ株式会社に入社し、2005年イチカワ・ヨーロッパGmbH社長、2014年執行役員海外営業部長 兼 宜紙佳造紙脱水器材貿易(上海)有限公司総経理、2016年取締役営業管掌 兼 海外営業部長 兼 常務執行役員、2020年取締役海外担当管掌 兼 常務執行役員を経て、2023年代表取締役社長に就任。