※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

私たちが快適な生活を送る上で欠かせない電化製品、電子機器には、さまざまな電子部品が多数用いられている。直接目にする機会は少ないものの、電力や電気信号をつなぐ、重要な役割を担う電子部品がコネクタである。

今回は、半世紀以上にわたり、コネクタの専業メーカーとして、エレクトロニクス産業の発展に寄与してきたケル株式会社にスポットを当てた。

2022年6月に代表取締役社長に就任した春日明氏に、学生時代の様子から入社して社長に就任するまでの道のり、社長としてのビジョン、そして今後の事業展開などについて聞いた。

厳しい就職活動を乗り越え海外プロジェクトに携わる

ーー春日社長の学生時代から入社までのお話をお聞かせ下さい。

春日明:
私が生まれたのは、いわゆる第二次ベビーブームの世代で、幼少期から家にゲーム機やマンガ、ガンプラがあった昭和の古き良きカルチャーで育った世代です。

小学生の頃はプラモデル作り、アニメ、パソコンが好きで、MSXとFM-NEW7を保有し、パソコンでのプログラミングなどもやっていました。大学生の頃には車のエンジンをメンテナンスしてみたりと、とにかくメカが好きでした。

大学卒業時、世間は就職氷河期に突入していたので就職活動は非常に厳しいものでした。そんな中、弊社の設計開発業務の求人を見つけて応募しました。もともと、自分が作った製品が世の中に出るような職業に携わりたいと思っていましたので、そういう意味では、ご縁があったのだと思います。

ーー入社後はどのような業務をしていましたか?

春日明:
1995年に入社し、設計開発を担当しました。最初は部分的なパーツの開発だけでしたが、入社して3年ほど経った頃からは、製品全体の開発を任されるようになりました。当時は、残業や休日出勤なども多かったのですが、仕事が楽しかったので全然苦ではありませんでした。

そして、2001年には、SDカード用コネクタの開発を任されました。開発プロジェクトの場所は日本ではなく台湾で、私にとっては初めての海外プロジェクトでした。台湾には当時、製品の製造拠点自体がまだなかったので、製造設備の立ち上げや、製品の量産までも含めて全てを現地で行いました。

ーー海外でのプロジェクトにはご苦労がありましたか。

春日明:
日本語が通じなかったので、慣れない英会話や筆談をして進めていく苦労がありましたが、ピンチはチャンスだと前向きに思えました。

このプロジェクトに携わったことで、他にもグローバルな設計図面の描き方、英語での文書の記述方法、英会話、交渉力、コミュニケーション能力やスピード感が鍛えられました。そうやって一連の流れを勉強させてもらえた気がします。

社長就任後の経営ビジョンとは

ーー社長に就任されてからのビジョンについてお聞かせください。

春日明:
弊社の目指すところは、経営ビジョンとして掲げている「コネクタメーカーとして世界に貢献できる企業になる」です。

また、「何もしない、変えないことが最大のリスク」と考えており、それを社内にも浸透させています。何もやらなければ何も生まれませんが、たとえ失敗しても、それはそれで糧になり、次に生かすことができると考えています。

ーー今後の事業展開の方向性についてどのようにお考えですか。

春日明:
大きく分けて3つあります。

1つ目は「新規取引先の開拓」です。海外顧客との取引拡大に注力していきます。特に、欧州、米国との取引はまだまだ増やせると考えていますので、まずは展示会などを通じてお客様との接点を増やし、ケルブランドを認知してもらえるように活動していきたいと考えています。

2つ目は「新製品と新技術の開発」として、車載機器、通信機器向けに注力します。特にEV(電気自動車)関連は、自動運転のレベルが上がるほど、電子部品の使用個数が増え、弊社の出番も増えてくるので、この部分に特化した製品開発にも注力していきます。

3つ目は「工場のスマートファクトリー化」です。人手不足、労働力不足に伴う業務の自動化という課題があります。

先日「国際ロボット展」に行ってきましたが、人間と協働するロボットの技術的進歩には衝撃を受けました。弊社の製品は、最終工程で目視検査を実施していますが、それを効率化するために、AIを使った外観AI検査機を開発中です。他にも、シミュレーションソフトを導入して開発効率を上げるなど、デジタル投資を行い、業務の効率や正確性の向上を図っています。

人的資本の重要性

ーー影響を受けた本などはありますか?

春日明:
昔から、星新一氏の本は何十冊も読み漁りました。ロボットや人工知能がテーマの作品が多くあり、アイデアや発想が素晴らしいと思います。星新一氏の作品は新しい発想が欲しい時のネタの宝庫なんですよ。

また、ミステリー小説も好きです。伏線を敷いて後で回収したり、謎解きの部分は理論立てて解明するところ、読者にあっと思わせるようなどんでん返しなど。それは技術者が作成するレポートやプレゼン資料と通じるところがあります。お客様へのプレゼンテーションも、そのようなストーリーを立てて実践してきました。

ーー貴社の採用と社員の育成についてうかがえますか?

春日明:
新しいことにチャレンジできる人材を求めています。アイデアを出すだけにとどまらず、それを形に出来る人は本当に貴重な存在です。失敗しないコツは何もしないこと、なんていう言葉もありますが、変化を恐れず行動できる人を育成していきたいですね。

このようなインタビューの場で、社員に期待することは?と聞かれることがありますが、まずは、社員の価値を最大限に引き出す仕掛けや、モチベーションを上げる仕組みを会社側で用意することが必要だと考えています。

たとえば、最近は社内の表彰制度の充実を図り、頑張っている社員を称賛する場所や機会を増やしていきたいと思っています。

編集後記

学生時代から機械いじりが大好きだった春日明氏は、入社後、海外プロジェクトの経験など、エンジニアとして有益な経験を着実に積み重ね、社長への道を歩んできた。

技術に精通し、明るくオープンな人柄の社長が、今後も国内外問わず多くの顧客と社員を惹きつけ、会社をさらに発展させることを期待したい。

春日明(かすが・あきら)/1971年、東京都生まれ。1995年、工学院大学工学部電気工学科を卒業後、ケル株式会社へ入社。技術本部長、常務取締役などを経て、2022年、代表取締役社長に就任。