フィットネス事業の「カーブス」を始め、SS事業やエネルギー事業、介護訪問・児童福祉事業など多種多様な事業を展開する株式会社東山。2023年に創業75周年を迎えた同社の代表取締役社長であり、これまでに20以上の事業を展開してきた西村隆一郎氏に、事業の具体的な内容や立ち上げの背景などを聞いた。
原油高騰の危機を乗り越えるためフィットネス事業に参入
――社長に就任されるまでの経緯について、教えてください。
西村隆一郎:
大学卒業後、2002年にエクソンモービルという外資系の石油メジャー会社に就職しました。創業者の孫としていずれは株式会社東山に入社するつもりだったので、僕にとっては修業のような感覚でしたね。その後、3年でエクソンモービルを退社して、2005年に株式会社東山に入社しました。ところが、入社3年後にリーマン・ショックの影響で原油価格が高騰してしまい、会社としては非常に大きなピンチを迎えてしまったのです。
このピンチを乗り越えるために、「何か新しいことをしなければいけない」と考えました。同時期に高齢化による医療・介護制度の崩壊が問題視されていたため、健康系の事業は間違いなく需要が高まると予測しました。そこで、フィットネス事業の「カーブス」を展開することを思いついたのです。
「カーブス」を展開した当初は全国で赤字を出していましたが、若年層ではなく50代、60代の中高年層をターゲティングするやり方に手応えを感じていました。最初の10年間は新しい事業に専念させてほしいとお願いして、入社10年目の2015年に社長に就任した次第です。
エネルギー事業の原点、「炭」から環境問題を考える
――「カーブス」以外にも多数の事業を立ち上げた背景には、どのようなことがあったのでしょうか。
西村隆一郎:
やはりコロナショックの影響が大きいです。過去5年間を振り返ったときに、コロナショックの間に6事業を廃止して、大小含めて20事業を立ち上げました。「会社を生まれ変わらせる」という意識でしたね。弊社にとって、大きな変化の時期だったと思います。フィットネスや介護などの健康系事業が大きな痛手を受けた中で、「エネルギー事業の原点に立ち返るべきではないか」と考えて、“炭”事業を立ち上げることに決めました。
――炭事業について、詳しく聞かせてください。
西村隆一郎:
祖父が炭の配給を行っていたこともあり、炭は弊社の事業の原点でした。土の窯で炭を焼くのは職人技で、研ぎ澄まされた感覚が必要なのだそうです。そのうえ、1週間以上の長い時間もかかります。
そこで現在、弊社では、大きな機械式の鉄の窯をつくって、安全に炭を焼ける仕組みづくりに挑戦しています。さらに、炭事業から派生して薪(まき)の販売も行うようになりました。現在、炭を焼く窯から放出される熱で、薪の原料となる原木を乾燥させる工場ラインの建設を模索しているところです。
原木の仕入れに関しては、さまざまな問題に直面しています。原木を仕入れたくても山の持ち主がわからなかったり、山が荒れ果てて土砂災害の危険があったりするケースがあるのです。「原木の伐採を積極的にやらなくてはならない」という危機感を感じて、林業にも注力しています。原木を伐採しつつ、新たに植樹もする一方で、環境に配慮しつつ、炭や薪などのエネルギー資源の販売もする。そんなビジネスのサイクルを確立していきたいと考えています。
未来を担う子どもたちへの支援事業も展開。すべての事業に全力で挑む姿勢を貫く
――炭事業以外には、どのような事業を展開しているのですか。
西村隆一郎:
運動を通じて、子どもたちの発達障害を改善していくスパーク事業も展開しています。文部科学省の調べによると、2022年の時点で発達障害の子どもの数は小中学校で8.8%にも上り、年々増加傾向にあるそうです。(※1)このまま発達障害の子どもの数が増え続けることに懸念を抱き、子どもたちを救う事業としてスパークを立ち上げました。発達障害の子どもを持つ親御さんを支援する相談支援事務所も、弊社の本社内に設けています。
(※1)「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について」文部科学省より
エネルギー事業部では、ゴールド保安認定事業者(第一号)(※2)を取得しました。お客様に安心して使っていただけるよう、大きな投資をしています。弊社のすべての事業に共通することですが、付加価値を付けること、安心感を与えること、コストダウンをすることを常に考えています。事業はどこかで力を抜いてしまうと、一瞬でダメになってしまうと考えているため、常に全力で取り組む姿勢を貫いています。
(※2)認定LPガス販売事業者リスト
創業100周年まで社員と一緒に走り続けたい
――最後に、貴社の中長期的な目標や今後の展望を教えてください。
西村隆一郎:
会社全体の目標として、「100年続く企業をつくりたい」と考えています。実は、100年続く企業というのは、5,000分の1くらいしかないそうです。弊社は2023年で創業75周年ですから、あと25年です。社員にも、長く働いてもらえたらうれしいですね。そのためにも、フレックス制度の導入や女性社員の出産後の復帰支援など、働きやすい環境づくりにも取り組んでいきます。100周年を迎えるまでの25年間はずっと走り続けたいですね。
編集後記
小学1年生の頃から家業を手伝ってきたという西村社長。社長になった今も、休日には店頭に立ってお客様とふれあう機会を大切にしているという。人と環境に配慮する温かい気持ちが、多くの事業を生み出す原動力になっているのかもしれない。
西村隆一郎/1980年、京都府生まれ。神奈川大学卒業。2002年、石油メジャーのエクソンモービル・ジャパン合同会社に入社し、営業職として勤務する。2005年に株式会社東山に入社。2015年に代表取締役社長に就任。2008年より多数の新規事業の展開を開始。