Ekuipp株式会社が運営するオンラインマーケットプレイス「Ekuipp(エクイップ)」は、中古の工作機械や計測器、精密機器を事業者間で直接売買できるサービスだ。工場で使われずに眠っている機械や廃棄される機械を再利用するこのサービスは、中古市場の活性化や環境保全に貢献している。2018年に同社を創業した松本悠利氏に、創業のきっかけや事業を進める上で大切にしていること、今後の展望についてインタビューを行った。
「もったいない」をきっかけに産業機械のリユース事業をスタート
ーーなぜリユース事業に取り組もうと思われたのですか?また、どのような課題に直面しましたか?
松本悠利:
新卒で外資系の石油探査会社にエンジニアとして勤務していた際、新しく購入された精密機器が次々に捨てられていくのを目の当たりにし、「もったいない」と強く感じました。ちょうどその頃、業界の不況により退職を余儀なくされたのですが、自分に何ができるかを模索した結果、まだ使える機械が廃棄されてしまう現状に課題を見いだしました。それをきっかけに、産業機械のリユース事業を立ち上げることを決意したのです。
とはいえ、事業を始めた当初は多くの苦労がありました。アイデアに基づき動き出し、出資は受けたものの、産業構造に対する理解が不十分で、方向性を見失うこともありました。また、資金不足で事業が立ち行かなくなるのではという不安に駆られる日々も経験しています。
しかし、経営者仲間とのネットワークを広げ、金融機関を通じてパートナーを増やすなどの地道な努力を続けた結果、現在ではWebサイトを通じて、多くの企業から問い合わせをいただけるようになりました。
ーー事業を進める上で、特に大切にされていることは何ですか?
松本悠利:
何よりも、お客様に「頼んでよかった」と思っていただけることです。たとえば、機械を捨てることに対して「鉄くずになってしまうのが悲しい」といった声をお聞きすることがあります。その気持ちに寄り添い、使える機械を新たな価値として再び社会に循環させるサービスを提供することに意義を感じています。
また、リユース事業を通じて環境保全に貢献できることにも価値を見いだしています。利益を追求するだけでなく、社会にとって意義のある事業であり続けることが、私たちの信念です。
日本全国の使われなくなった機械を国内外の必要な人へ届ける
ーー事業内容をお聞かせください。
松本悠利:
主に金属加工業で使う工作機械の中古品を全国から集めて、必要なお客様へつなげるサービスを展開しています。比較的新しい機械は日本国内で販売し、古い機械は東南アジアを中心とした発展途上国へ輸出しています。弊社の強みは、全国対応で、古い機械や壊れている機械でも買い取りできること、さらにいえば高価買い取りができる点です。
これを実現できる理由は、広範なネットワークにより、買い取った製品を高値で売り切ることができるからです。また、壊れた機械でも修理をすれば使えるようになるので、どんな状態の機械でも買い取ることができます。
弊社のビジネスモデルは、問い合わせを受けた時点で買い手を見つける仕組みです。購入した機械は直接買い手に運ばれるので、弊社に在庫として残ることはなく、在庫リスクのないシステムを確立しています。
ーーどのような方に貴社のサービスを知ってほしいですか?
松本悠利:
全国の金属加工業関連の方々に弊社のサービスを知ってほしいです。特に、機械の入れ替えを検討中の企業や、工場をたたもうとしている会社、建築物などを取り壊す解体業者との親和性が高いと感じています。解体作業の際に機械を処分するタイミングで弊社が間に入り、すぐに買い取ることができます。また、地域の企業とつながりを持つ地方銀行や信用金庫にも認知活動を行っているところです。
「産業機械のリユースといえばEkuipp」といわれる存在へ
ーーどのような人材を求めていますか?
松本悠利:
今後さらに事業が拡大した際には営業社員を雇いたいと考えています。証券会社や保険会社で営業経験のある方が理想的です。これらの業界では、案件獲得のために老若男女さまざまなお客様と直接会ってコミュニケーションをとることに慣れている方が多いため、弊社でもその営業スキルが活かせると思います。製造業では年配の方や話し好きな方が多いので、会話を通じて信頼関係を築くことができる方に来てほしいですね。
ーー今後の展望をお聞かせください。
松本悠利:
機械の処分に困ったときに一番に相談していただける存在を目指しています。現在は工作機械がメインですが、今後は商品ラインナップを増やし、産業機械全般を扱うサービスへ成長させたいです。また現在、海外への販売は国内のバイヤー経由で行っていますが、今後は海外からも直接アクセスして手軽に機械を買えるような仕組みをつくろうと考えています。
製造業のリユース市場はまだまだ未熟だと感じているので、これからさらに発展させていくことが目標です。「リユース市場が発展すると新品が売れない」と思われがちですが、自動車業界を見て分かるように、中古と新品の両方があることで新品の回転率も上がると考えています。リユース市場の活性化により、環境保全にも貢献していきたいですね。
編集後記
「もったいない」という単純ながらも力強い思いを起点に、新しい価値を創出した松本社長の挑戦は、製造業界における革新そのものである。環境保全と経済性を両立させるビジネスモデルを実現し、国内外の需要を的確につかみながら市場を切り開く姿勢に、深い感銘を受けた。
製造業のリユース市場は未熟な分、無限の可能性を秘めている。松本社長の確固たる信念と柔軟な発想力が、この市場を次のステージへ押し上げる牽引役となるだろう。「産業機械のリユースといえばEkuipp」といわれる日が訪れるのはそう遠くないはずだ。その先には、環境への貢献と新たな産業構造の確立という未来が待っているに違いない。
松本悠利/1982年埼玉県生まれ。東京大学大学院広域科学専攻物理部卒業。約10年にわたり、地層解析機器メーカーのシュルンベルジェ(Schlumberger)にてセンサー開発や地層解析に従事。またデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて、国内外のM&A案件に関わる企業評価アドバイザリーサービスにも従事。2018年、Ekuipp株式会社(旧Anyble株式会社)を創業。