経済成長が停滞傾向にある日本で19期連続の増収増益を続けているのが、FIDIA株式会社だ。
同社はヘルスケアや人材紹介、広告運用、不動産など、多岐にわたるサービスを提供している。
グループ連結売上は146億円を達成し、Financial Timesアジア急成長企業ランキングではアジアで103位、国内14位、西日本で1位を獲得している今注目の企業だ。
「ワクワク」をつくるために進化を続ける、元お笑い芸人である創業者、森武司氏の思いを聞いた。
芸人時代の挫折を乗り越え、トップセールスの家電販売員から起業家の道へ
ーーかつてお笑い芸人として活動されていたとお聞きしましたが、そこから起業されるまでにはどのような経緯があったのでしょうか。
森武司:
吉本興業のNSC(吉本総合芸能学院)卒業後に受けたオーディションで決勝戦まで進むことができました。しかし、対戦した赤チームの野生爆弾さんは圧倒的に強く、会場が割れんばかりの笑いを取ったのです。
面白かった方に赤色か青色の札を上げて投票をするのですが、私達チームの青色はなく、会場全体が真っ赤に染まったほどです。その光景がトラウマになり、オーディション以来4年間、私は家に引きこもってしまいました。
そんなときに芸人仲間が私宛てに書いた30通ほどの手紙を、当時の相方が私に届けてくれて、これをきっかけに自分の中でスイッチが入り奮起することができました。新聞の折り込みチラシを見て、早速、家電量販店の採用面接を受けに行き、販売員として働き始めました。
すると、3ヶ月目に全国の販売員の中で売り上げ1位を獲得したのです。芸人時代に鍛えたトークスキルが、大いに役立ちました。ただ、7ヶ月目に店舗の売り上げも全国一になったことで、自分の中でやりきったと感じ、翌月には販売員の仕事を退職します。
そんなときにピンクの表紙のビジネス書という物珍しさに目を止め、経営コンサルタントで作家でもある神田昌典さんの『あなたの会社が90日で儲かる!』という本を何気なく手にとったところ、釘付けになってしまいました。
それから神田さんが出された本をすべて読み漁った結果、本の内容を踏襲してビジネスを起こせば絶対成功するだろうという根拠のない自信から、起業を思い立ったのです。
ーー起業された当初はどのようなビジネスをされていたのですか。
森武司:
はじめは、「街コン」を開催して男女の出会いを支援するイベント会社を立ち上げました。それまで街コンといえば、貸し会議室で紙皿に乗った冷えたパスタを囲むようなイメージでしたが、新会社では、おしゃれな店でコース料理を出すパーティー形式にしました。参加費は7000円に設定して男性200人、女性200人を集める企画です。
この事業は、当時SNSのMIXIで30万人という日本最大の巨大コミュニティにまで成長し、月に500万円ほどの利益が出るようになりました。
その次に、安く仕入れた家電を販売するネット販売事業を開始し、1年目で年商10億円を突破しました。しかし、ヤマダ電機(現ヤマダデンキ)が運営するヤマダモールの売り上げが伸びていたので、本家と同じビジネスをしていたら長くは続かないと危機感を抱きます。
そこでオリジナル商品を開発しようと思い、売り上げ1位から100位までの会社を調べた結果、ほとんどが化粧品やサプリの販売をしているとわかりました。
ネット通販では消耗品がよく売れるのだと確信し、シャンプーに目を付けます。開発にあたって、パートナーにどんなシャンプーが欲しいかヒアリングしたところ、オーガニックのシャンプーだと言われました。
その意見を参考に合成香料・着色料は不使用、ヒアルロン酸やコラーゲンなどの美容成分も配合した「ALLNA ORGANICシャンプー」を発売したところ、爆発的にヒットしたのです。
会社を成長させるカギは優秀な人材を集めること
ーー今では年商146億円ということですが、これまで急成長できた理由は何なのでしょうか。
森武司:
EC事業を立ち上げた当初は売り上げが3億円ぐらいだったのですが、執行役員の西がテコ入れをしてから3年間で32億円を達成したのですよ。この経験を経て、優秀な人を仲間にすることは会社を成長させるうえで重要なのだと気付きました。
それからは優秀な人材のスカウトに心血を注ぎましたね。
ーー優秀な方であればさまざまな企業からお声がかかっていると思うのですが、森CEOのスカウトが成功する理由はどこにあると思われますか。
森武司:
通常、ヘッドハンティングをする際はまず報酬を提示することが多いと思うのですが、それだと入社した時点で目標が達成されてしまいますよね。私がスカウトするときはまず「あなたに入ってもらったらこれをやってほしい」と役割を明確にします。
そうして弊社の仕事に興味を持ってもらったうえで「この目標を達成してもらえれば今の給料の倍は出せます」などと、包み隠さず開示するのが私の極意です。
今いる役員は全員1年以上かけて口説きました。長い人だと2〜3年かかったのですが、あまりのしつこさに根負けして最終的に承諾してくれたのだと思います。
ーー実際に優秀な方が仲間に加わったことで会社の成長につながったエピソードはございますか。
森武司:
京都銀行に勤めていたCFOの中嶋が仲間に加わり、事業の修正案や予算削減案を提示してくれたおかげで、財務状況が大きく改善されました。
また、韓国初のオンライン証券会社の設立などに携わった取締役の高橋は、入社した翌年に20億円の融資を取り付けてくれて、これがさらなる事業拡大に大きく貢献しました。やはりその道のスペシャリストに任せるのが、会社の成長において最も効果的であると実感しています。
今後の目標・読者に向けたメッセージ
ーー今後の目標についてお教えいただけますか。
森武司:
このまま年商が2次関数的に上がっていけば、7年後には1000億円を達成できると考えています。年商1兆円や10兆円も目指せるのではないでしょうか。
目標を低く設定してしまうとその範囲の中で収まってしまうため、会社のトップになる人間は大きな目標を立て、実現に向けて努力することが重要で、そこにこそ存在の価値があると考えています。
ーー最後にこの記事を読まれている10代・20代の方々にメッセージをお願いします。
森武司:
弊社ではチャレンジ&グリットを行動指針として、チャレンジしたいと手を挙げるだけでなく、最後までやり切ることの大切さを日頃から社員に伝えています。達成するまでの過程はつらいのですが、そこを乗り越えてはじめて自分の身になると思っています。
そもそもチャレンジしない人は0点ですが、チャレンジした時点で10点、それをやり切って100点です。ただし、7割でやめたらチャレンジしたときと変わらず10点のまま。
ひとつのことを最後までやり遂げれば周りの評価も変わっていきますし「最後まで責任を持ってやってくれるだろう」と信頼され、仕事をもらうチャンスも広がっていくと思いますよ。
編集後記
芸人時代に大きな挫折を味わい、4年間外に出られなくなってしまったと当時のつらい思いを語ってくれた森社長。そんな絶望のさなか、仲間たちからの励ましの手紙に背中を押され、社会復帰を果たした。その後は自ら事業を立ち上げ、今ではグループ連結売上146億円の企業にまで成長している。顧客の期待を超える事業を創出し続けるFIDIA株式会社は、今後もさらなる進化を遂げることだろう。
森武司(もり・たけし)/1977年、大阪生まれ。高校卒業後NSC(吉本総合芸能学院)に入学。吉本興業NSC18期卒。芸人時代に同期最速でオーディションを勝ち上がり、決勝では野性爆弾と対戦するも30対0の大敗北。それを機に4年間活動したお笑い芸人を引退。ヤマダ電機(現ヤマダデンキ)の販売員を経て、2005年、幼稚園から小中高と幼なじみで25年来の友人とわくわくエッサ有限会社(現FIDIA株式会社)を設立。グループ連結売上146億円、創業以来19期連続で増収増益を達成。