
石川県に本社を置く株式会社Transparence。医療機器の輸入販売と、鍼灸院運営という独自の事業モデルを展開している。同社はエビデンスとテクノロジーを軸に、約4000年の歴史を持つ東洋医学の価値を再構築することを目指している。世界中から「本物」の製品や技術を見極めて導入し、ドイツのダーマローラーやフランスのASPニードルをはじめ、新しい試みとして、AIやロボティクスを活用した温灸の自動化にも注力する。古い業界に革新をもたらし、「鍼とお灸を、もっと身近な文化にしたい」と語る代表取締役の岩田真人氏に、その挑戦と未来への展望を聞いた。
地域一番の成功体験が導いた東洋医学の道
ーー会社を設立された経緯についてお聞かせください。
岩田真人:
もともと起業することが目的で、事業内容は後から考えようと思っていました。さまざまな事業を構想する中で、医療保険を使った訪問鍼灸マッサージの事業を知る機会があったのです。当時はもっと派手な事業で成功したいという思いが強く、正直なところ、当初は鍼灸マッサージの事業にあまり力を入れていませんでした。
しかし、1年後には石川県の南加賀エリアで1位の規模になりました。これほど短期間で結果が出るなら、自分はこの道を進むべきだと感じたのです。そこから一点集中を決意し、東洋医学の世界へ本格的に足を踏み入れました。
ーー現在の事業に携わることとなった、原点の思いについてお聞かせください。
岩田真人:
私は小学生の頃から「幕府を開きたい」と公言するほど、変革への強い憧れがありました。当初はITのような派手な世界での革命を夢見ており、地味に見える鍼灸の事業には、さほど執着していなかったのが本音です。
しかし、無頓着だったこの事業が1年で地域1位になった時、大きな衝撃を受けました。同時に、先輩経営者から「古くて新しいものこそ永遠不滅だ」という教えをいただいたのです。4000年もの間、淘汰されずに残ってきた東洋医学は、それ自体が本物である証です。デジタル化が進んでいない古い世界に、最新の技術を掛け合わせて変革を起こす。それこそが、幼い頃から抱き続けた「変革への想い」をぶつけるべき、私の使命だと確信しました。
伝統と最新技術の融合で目指す業界の変革
ーー事業を進める上での転機となった出来事はありますか。
岩田真人:
2018年にNHKの特集で「アメリカ空軍が鍼を使っている」と放送されたことです。世界最先端の技術を結集した機関が、東洋医学を活用している事実は衝撃的でした。これこそ私が目指していた変革だと感じたのです。これを機に、エビデンスに基づいた海外の鍼を日本に導入しようと決意し、世界に目を向けるようになりました。
ーー変革するために、具体的にどのような手法を取り入れているのでしょうか。
岩田真人:
この業界は、どこへ行っても施術の方法が違います。誰もが自分を「神の手(ゴッドハンド)」だと信じている、職人の世界だからです。
しかし、多様すぎるがゆえに、一般の方には良し悪しが伝わりにくい側面もあります。そこに科学的な根拠や最新の技術を持ち込みたいと考えています。誰が見ても納得できる基準を作ることで、初めて「資本主義経済」という大きな土俵で勝負ができるようになります。それが、鍼灸が市民権を得るための近道だと私は考えております。
ーー製品を扱う上で大切にされていることをお聞かせください。
岩田真人:
何よりも「本物」であることにこだわっています。私は、鍼やお灸の力で世の中を良くしたいと本気で考えています。だからこそ、利益のために偽物を売ったり、人を騙したりするようなことはしたくない。正しいものだけを広めたいのです。たとえば、海外で高く評価されている製品があれば、安易に安価な模倣品に手を出すことはしません。そのルーツを徹底的に遡り、世界中の本家本元の企業を探し出し、直接交渉して日本に持ってきます。
業界の常識を塗り替えるには、世界に通用する「本物」を届けることが欠かせません。だからこそ、私たちは科学的根拠(エビデンス)が明確な製品に徹底してこだわります。
アナログな世界を根本から変える技術革新

ーー業界のあり方を変えるために、どのような取り組みに力を入れていますか。
岩田真人:
今、最も注力しているのはAIとロボティクスの活用です。これまで機械化が難しい業界だと言われてきましたが、お灸は特定の「ツボ」を狙う鍼と違い、ある程度の広さがある「ゾーン」を温める方法が本場中国では主流です。そのため、ロボットによる自動化と非常に相性が良い分野です。スマートリング(※)で利用者の状態を弁証し、データに基づきロボットが全自動でお灸を据えるシステムを日本に上陸させました。こうした最先端の技術を導入することで、アナログな業界を根本から変える挑戦を続けています。
(※)スマートリング:装着するだけで心拍数、睡眠、活動量などの健康データを計測できる指輪型ウェアラブルデバイス。
ーーロボットの導入で鍼灸師の役割はどう変わるのでしょうか。
岩田真人:
鍼灸師の仕事を奪うものではなく、むしろ業界発展のためのエビデンスの取得や認知度を得るためのツールです。私たちは志を同じくする鍼灸師の方々と手を取り合い、業界全体を盛り上げ、鍼とお灸の文化を共に創造していきたいと考えています。
ーー社員の皆様のために大切にされていることはありますか。
岩田真人:
パートナーである社員の充足感を何よりも大切にしています。まずは安心して働けるよう、業界水準を大きく上回る報酬体系を整えました。また、個人の「やりたい」という意志を尊重し、自由に挑戦できる社風をつくっています。
私たちの役割は、鍼灸師やマッサージ師といった専門家を支える裏方です。主役である施術者が、それぞれの才能という花を咲かせられるよう、会社はその成長を支える「良い土壌」でありたいと考えています。
カフェ感覚で立ち寄れる温灸ラウンジ構想
ーー鍼とお灸を身近にするための具体的な構想をお聞かせください。
岩田真人:
かつて専門的だったヨガやサウナは、今では多くの人にとって身近な存在です。今の鍼灸は、どこか「古い」というイメージを持たれがちですが、もっと気軽に、日常的に利用できる身近な存在へと変えていきたいと考えています。たとえば、ロボットを並べた「温灸ラウンジ」のような空間をつくり、カフェに行く感覚で気軽に立ち寄れる場所にしたいです。若い世代の間で「温灸女子」という言葉が生まれるような文化がつくれたら嬉しいです。
ーー理想の未来を実現する上で、現在感じている壁や課題はどこにありますか。
岩田真人:
大きな課題は、まだ私たちに圧倒的な発信力が足りないことです。まずは、会社としての認知度をさらに高めていく必要があります。また、歴史ある業界ゆえの難しさもあります。新しい技術に対し、「自分たちの仕事を奪うものではないか」と抵抗感を持たれることも少なくありません。
しかし、私たちの目的はあくまで現場のプロを支えることです。業界の皆様としっかり足並みをそろえ、誤解を解消しながら、一歩ずつ新しい鍼灸の形を広めていきたいと考えています。
ーー今後の事業展開で特に注力していきたいことは何ですか。
岩田真人:
引き続き、エビデンスのある製品やロボティクスなどの新しい技術を業界に投入していきます。そして、私たちが目指す未来に共感してくれる仲間を増やしていきたいです。鍼とお灸には、人々の悩みを解決し、日本の国力さえも高められる大きな可能性があると信じています。私たちの活動を通し、鍼灸を身近な存在に感じてくれる人が一人でも増えたら嬉しいです。
編集後記
4000年の歴史を誇る伝統に最先端の知見を注ぎ込む岩田氏が描く未来は、単なる効率化ではない。熟練の技術を客観的な数値へ変換し、誰もが質の高い恩恵を享受できる環境を整える。伝統を重んじるからこそ、現状維持に甘んじず、絶え間ない変化を求める姿勢が印象に残った。日常の風景に鍼灸が溶け込み、人々の健やかさを根底から支える。文化を再構築する壮大な挑戦は、日本全体の活力を高める一助となるに違いない。

岩田真人/1978年石川県生まれ。国立石川工業高等専門学校卒業。2007年に株式会社Transparenceを創業。鍼灸業界の変革を目指し、鍼灸に特化した革新的な医療機器の輸入販売や鍼灸院経営を手がけている。