※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

あらゆる分野において技術が進歩するためには、その規模によらず実験による効果や安全性の実証が欠かせない。しかし、目に見える結果や生産性を重視する資本主義の現代社会においては、実験設備への投資は時間や費用がかさむものとして判断されやすい。満足に実証実験を行えない研究者が多い実情があるのだ。

実験ができないと嘆く研究者を減らすために、日本の技術進歩を止めないために、何が必要なのか。その答えを導き出した株式会社Co-LABO MAKER、代表取締役CEOの古谷優貴氏に、同社の事業内容や展望を聞いた。

研究者の視点が生み出した革新的なビジネスモデル

ーー起業しようと考えたきっかけは何ですか?

古谷優貴:
大学在学中は物質の状態解析や検査機器のセンサー部品の開発などに携わり、大学院卒業後は企業で研究者として半導体の研究に従事していました。

もともと起業するつもりで研究をしていたわけでなかったので、ビジネスや経営の知識がまったくない状態でしたが、「これは人生をかけられるものではないか」と思える出会いがあり、一念発起して起業したのが株式会社Co-LABO MAKERです。

ーー具体的にどのようなサービスを提供していますか。

古谷優貴:
弊社では、実験のための設備を求める研究者と、設備やラボなどの実験リソースを提供できるサプライヤーをマッチングするサービスを提供しています。多くの研究者はやりたい研究があっても設備や資金に乏しく実現に時間がかかる一方で、世の中には日の目を浴びていない良質な研究リソースが多く存在しています。

弊社のサービスが研究者とリソースを結びつけることで、研究開発のスピードを飛躍的に向上させる「研究開発エコシステム」を実現することができます。このサービスを提供している同業他社が日本にはまだ存在しない状態で、多くの研究者やサプライヤーを顧客として抱えていることが弊社の強みだと考えています。

ーー研究者自らが設備を準備する場合と、貴社のマッチングサービスを利用する場合とではどんな違いがありますか。

古谷優貴:
研究者が自前で設備やそのための資金を調達する場合、たいていはリードタイムに12ヶ月程度必要になります。しかし、弊社にお任せいただければ、ご相談から契約完了までを1、2ヶ月に短縮できるのです。研究者は実験・実証が本業なので、その前準備に心身を削られることなく、さらに実証までの時間を大幅に短縮することができます。それは研究者にとって、とても魅力的なことだと私は考えています。

このサービスは、特に「リードタイムや諸手続きの工数を省いて攻めの研究を行いたい」と考えているスタートアップ企業やベンチャー企業に利用していただきたいと思っています。

ビジネスの奇跡!生まれたての企業を「あって当たり前」の存在に成長させる布石とは

ーー今後の貴社の成長の鍵として、特に注力しているテーマはありますか。

古谷優貴:
現在注力しているテーマは3つあります。まず1つ目が新規取引先の開拓です。弊社のサービスの性格上、提携できる研究リソースの選択肢が多いことでサービスの質が向上すると考えています。

そのため、既存の取引先へのマーケティングを通じて新たな取引先の開拓を行っています。さらに、弊社ホームページに問い合わせフォームを開設したことにより、研究者や大学・企業から直接マッチング依頼をいただけるようになりました。実はこのしくみは、もともと研究者であった私自身が、「こういった手段があったらいいのに」と感じたものを実現したのです。多くのお客様にご利用いただいて、とても嬉しく感じています。

2つ目は、営業力と営業組織体制の強化です。営業はマーケティングベースではありますが、規模の大きな組織が顧客となる場合は営業担当が確実にニーズを把握し、希望に沿ったサービスを供給をすることが大切です。そこから新たな顧客に出会うチャンスも多いので、パートナーのようにお客様のサポートができる担当者を育成していきたいと考えています。

そして、3つ目は既存サービスのブラッシュアップです。単に需要と供給を結びつけるだけではなく、研究者にとってもサプライヤーにとっても、弊社にお任せいただくことで、さまざまな手間や時間が省ける体制を整えることも重要だと捉えています。そのため、当サービスでは、さまざまな領域の専門知識をもつスタッフが、諸手続きをサポートします。

ーー今後は経営者としてどのように会社を発展させていきたいと考えていますか?

古谷優貴:
今後は営業エリア・顧客層・収益の全てにおいてワンランク上の成長を目指します。技術開発のための実験は関東・関西圏に集中していますが、東海や九州、東北などの工業地帯にも需要は間違いなくあるでしょう。産学官全ての層に丁寧にアプローチし、提携先を全国に広げていきたいと思っています。

弊社のサービスが生み出す化学反応には大きな手応えを感じており、このサービスをあって当たり前のものに昇華させていきたいと考えています。

正解のないものへの挑戦を全力で楽しむという企業姿勢、まさにそれは挑戦の旅

ーー新たなビジネスモデルを構築することは大変だと思いますが、どのような思いがモチベーションとなっているのでしょうか。

古谷優貴:
研究者と設備サプライヤーのマッチングという事業は前例がなく、現在はマーケットそのものを開拓・構築している状態です。

前例がない中で、さまざまなことを経験しながらの日々ではありますが、何よりも「このサービスは日本のイノベーションを支えている」という自負があります。より多くの研究者を適切な実験設備へとつなぎ、日本の研究開発のさらなる発展に貢献すべく、私たちは日々事業に取り組んでいます。

編集後記

古谷社長の展開する事業は、本来は不要であるはずの研究者のジレンマを解消し、実験に関わる人々、ひいては世の中全体を幸福にするものだということが強く伝わってきた。前人未到の市場を鮮やかに切り拓き、「研究開発エコシステム」の確立を目指す古谷社長の活躍に、今後も注目していきたい。

古谷優貴/2011年に東北大学大学院工学研究科修了。修士2年間で主著論文8本を執筆。昭和電工株式会社にて、パワー半導体の研究開発・事業の立上げに従事。研究開発の民主化を目指し、2017年に株式会社Co-LABO MAKERを起業。研究開発リソースのシェアリングサービスを展開。2020年、東北大学客員准教授に就任。研究のポテンシャルを最大化し、産業と大学がともに発展していく新たな研究開発エコシステムの形成に挑戦中。