メガネは視力補正のために用いられるが、ファッションアイテムとしても活用される身近な存在だ。埼玉県さいたま市に本社を構え創業60周年を迎えるアイジャパン株式会社は、半世紀以上にわたりメガネの小売に取り組んでいる。メガネ小売業を主業としながらも、さらに未来へと眼差しを向ける澤田社長にインタビューをした。
学者の道から経営者に転身
ーー澤田社長のこれまでの経歴を教えてください。
澤田泰行:
アイジャパンは私の父が創業した会社です。私は会社を継ぐよう父から言われたことも、その意思もありませんでしたが、父が病で体調を崩したことをきっかけに1996年に入社しました。入社前は自分の就きたい仕事が定まらず、大学院に通いながら短大や専門学校で非常勤講師などをしていました。姉妹はいましたが一人息子だった私は、経営に携わるかどうかはともかく、創業家として会計と法律の知識は役に立つのではないかと考え、2つの大学院でそれぞれ修士号を取りました。
ーー大学院で身につけた会計や法律の知識は経営にも活きたのでしょうか?
澤田泰行:
私が社長を引き継いだときは、会社が非常に厳しい時期でした。そのため会計と法律の知識は、会社の現状を把握しリスクを見極め、会社を再建するのにとても役に立ちました。
ーー入社後はどのような業務を担当されたのでしょうか。
澤田泰行:
入社2年目から、当時新規事業として立ち上げたばかりの通信代理店事業(現アイコミュニケーション株式会社)を事業部長として担当しました。携帯電話市場が一気に拡大していく成長期を迎えた頃でした。
次々と新機種や新サービスが登場し、店内はお客様で溢れ、代理店はその変化のスピードについていくことで精一杯でした。その過程で、NTTドコモの社長をはじめとする多くの経営陣の方から、実務を通して多くのことを学ぶ機会に恵まれました。約30年間で数兆〜十数兆円の市場ができていく激流の中に身を置けたことは、変化への対応力が最も問われる経営者にとって、得難い財産となりました。
技術+人柄を備えたスタッフとDXのハーモニーが生み出すオリジナルな体験価値の提供
ーー貴社の事業内容について教えてください。
澤田泰行:
弊社は、従来からの主力事業であるメガネ小売事業と、新規で成長著しい法人向けデジタルサービス事業を展開しています。メガネ小売事業では、品質や技術を重視する専門店スタイルの「アイメガネ」とファッション性を重視する「STYLE CLOSET」及びECサイト「アイコンタクト」を運営しています。
一方、デジタルサービス事業では、①AI搭載の鏡がメガネの似合い度を判定する特許技術を利用した、メガネ小売店向けサービスをサブスクリプションで提供するDXソリューション事業、②スマートグラス用視力補正インサートレンズの製品化支援と販売を行うスマートグラス事業、③屋外大型スクリーンでの広告販売を行うメディア事業を展開しています。
ーー貴社の強みは何でしょうか。
澤田泰行:
弊社は、お客様にはコンサルティングとホスピタリティを提供することが重要だと考えています。
コンサルティングとは、お客様が抱える課題を解決することです。たとえばメガネ小売業では、よく視えるようになりたいという課題解決に向けて、販売スタッフの技術力を高めることに注力しています。結果として、眼鏡作製技能士という国家検定資格では、40%を越える業界トップクラスの保有率を誇っています。そうした人の技術の上に、似合うメガネをかけたいという課題解決には、AI搭載の鏡がメガネの似合い度を判定するようなDXを活用しています。
また、ホスピタリティとは、お客様に心地よさを感じていただくことです。お客様が気持ちよくお買い物や商談ができるためには、お客様と接するスタッフの人柄が重要です。幸いなことに、弊社のスタッフに対しては、お客様やお取引先様からお褒めの言葉をいただくことも多く、先代から引き継いだ素晴らしい経営資源や強みだと評価しています。
加えて、弊社には先代の頃より、事業の中で弊社ならではといえるオリジナリティを持つ取り組みを好み、新しいことに挑戦する社風があります。こうした社風は、特許の取得や新業態・新サービスの開発という形となって表れています。
スマートグラスがもたらすメガネ3.0時代の人間拡張という事業機会
ーー「メガネ3.0」というユニークな発言の意図は何でしょうか?
澤田泰行:
メガネ3.0というワードは私の造語です(笑)。社内で説明する際に、メガネ1.0は「視る」ための視力補正具、メガネ2.0は「魅せる」ファッションアイテム、メガネ3.0は「映す」ディスプレイと言ったのがきっかけです。5Gや6Gのネットワークで作動するスマートグラスはスマートフォンがメガネタイプに“変身”したようなもので、スマートフォンの液晶に映る文字や映像がレンズ越しに映されるようになりますし、音を伝えたり聞いたりすることもできます。
スマートグラスの登場は、両手をスマートフォンの操作から解放し、行動をしながらレンズ越しに情報を見ることを当たり前にします。そうなると、視力補正が必要な方には、情報を映す機能のレンズとは別に、視力補正用のインサートレンズが必要になります。
さらに進化した2030年代のスマートグラスは、6Gネットワークの中で人間の五感、すなわち視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の限界を押し広げ、人間本来の五感では知覚しようがないものをバーチャル技術で知覚させたり、障害で失われた五感を取り戻させたりできるにようになります。このように五感が拡張された状態を指して、人間拡張と表現されますが、その普及は私たちの日常を一変させてしまうはずです。視聴覚を扱うメガネ・補聴器の小売事業の知識・技術と、モバイル端末を扱う通信代理店事業の知識・技術をワンストップで提供できる弊社は、人間拡張時代のフロントランナーとして、社会に貢献することを中長期のミッションとしています。
弊社メガネ小売事業のワンラインコンセプトを「視える聴こえる『その先へ』」としているのは、お客様が経験されてきたメガネ・補聴器の購入・使用体験を少しでも改善するのが私たちの使命だという思いが込められています。
ーーこれから入社する方にはどのようなことを求めていますか?
澤田泰行:
弊社には、「才能を見つけ、活かし、育てる」社風と環境があります。一人ひとり異なる才能を尊重するのは、得意な才能を活かして働きがいをもって仕事をしてほしいからです。これまでは、接客販売の適性が高い方を中心に採用していましたが、今は法人営業を希望する方やシステムやアプリの開発を希望する方等、幅広い職務適性を持った方を採用しています。
また、勤務地限定、職務限定、勤務時間限定といった多様な働き方や、管理職、専門職、ワークライフバランス重視の一般職などの多様なキャリアコースの選択を用意していますので、ご自身の才能を活かし、働きがいの持てる環境で思う存分発揮したいという方に、仲間になってほしいですね。
編集後記
澤田社長が発する言葉一つひとつに自ずと興味を引かれ、質問が途切れることはなかった。メガネの起源は数百年前に遡るらしいが、今もなお進化を続けている。次世代のメガネはどんな景色を私たちに見せてくれるのだろう。メガネに託したアイジャパンの夢の行方にこれからも注目したい。
澤田泰行/1964年東京都生まれ。横浜市立大学大学院経営学研究科修了。横浜国立大学大学院国際経済法学研究科修了。1996年アイジャパン株式会社に入社。2007年父の創業者澤田信三から経営を引き継ぎ、代表取締役に就任。2021年埼玉県経営品質協議会、副代表幹事就任。2022年埼玉県経営品質賞「知事賞」受賞(アイコミュニケーション株式会社)。2023年、一般社団法人日本メガネ協会常務理事就任。