※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

2050年までのカーボンニュートラル実現に、光明が見えた。鍵を握るのは、「アルミニウムの水平リサイクル」だ。アルミニウムはリサイクルしやすく、地金を1から製造するときに比べ約3%のエネルギーで再生できる上に、リサイクル前と同じ品質を保つことができる。

そんなアルミニウムのメリットに目を付けて、水平リサイクル「ラックtoラック」に取り組んでいるのが、摂津金属工業株式会社だ。SDGsが掲げる目標を社是とする同社が到達したい未来とは、一体どのようなものなのか。代表取締役社長の伊藤高之氏に話をうかがった。

ドイツ留学の経験から自社の社風に違和感を持ち、変革を試みる

ーー貴社の事業内容について教えてください。

伊藤高之:
自社一貫生産による「ハコづくり」を行う企業として、電子機器収納用のラックやケース、トランクなどの製造を行っています。2021年からサステナブルプロジェクトの一環として、自社アルミ製ラックの再生化の取り組みを始めました。

ーーなぜ入社後にドイツの会社に留学されたのですか。

伊藤高之:
現会長である父の勧めで、ビジネス留学しました。留学先はもともと取引先として付き合いのあった、弊社と同じ規模のファミリー会社のプラスチックケースメーカーです。素材は違えど同じハコづくりの会社だったので、「学ぶところが多いだろう」ということでした。田舎町だったため、アジア人は私1人しかおらず、ドイツ語でのコミュニケーションに苦労しましたが、今となってはいい経験だったと思っています。

ーー2014年に社長に就任されてからはどのようなことがありましたか。

伊藤高之:
社長に就任した当時は32歳で、60代くらいの幹部や役員たちとの間にジェネレーション・ギャップを感じていました。20代の時期を海外で過ごしていたため、自社の「当たり前」に対して違和感を感じることが多く、他の役員との間に溝ができてしまったのです。

その後、現場の声を聞くと同じ違和感を持つ人もいたので、思い切って世代交代に踏み切りました。それまでのプロパー主義をやめて、中途採用を活発にしたのです。いろいろな人材を採用したことで、外部の目を意識できるようになりました。10年かけてようやく刷新できたと感じています。

組織の永続化と持続可能な社会の実現に向けた道

ーー大切にしている考えを聞かせてください。

伊藤高之:
弊社は「100年企業を経て永続性を目指す」というビジョンを掲げています。現在74期目なので、26年後の2050年に創業100周年を迎えます。弊社が永続的な企業を目指す上で指針としているのが、SDGsです。SDGsの根幹にある「持続可能な社会の実現」という理念は、組織の永続化という弊社の目標と同じ方向性を持っていると考えています。

ーーSDGsへの取り組みの一つが、アルミ製ラックの水平リサイクル「ラックtoラック」ですか。

伊藤高之:
はい。アルミ製ラックのリサイクルは、エネルギー消費を抑え脱炭素社会の実現を目指す上で意義があることだと考えています。アルミ缶のリサイクル率が高いことはご存じかと思いますが、一方で私たちが取り扱うアルミ製品はこれまでほとんど水平リサイクルされませんでした。

弊社製品は品質のよいアルミニウムを使っているため、通常の金属回収業者で不純物が混ざったスクラップアルミと一緒にリサイクルされると、再生後の型材の品質が落ちてしまうからです。

弊社が販売したアルミ製ラックを私たち自身が回収すれば、適切な分離・分別が可能になります。アルミニウムの品質を落とすことなくリサイクルできるのです。これはSDGsの目標12の「つくる責任」を果たすことにもつながります。

100年企業に向けてさらなる飛躍を

ーー今後注力していきたいことや中長期的な目標について教えてください。

伊藤高之:
競合他社との差別化を図るためにも、サービス品質向上に注力していきたいと考えています。具体的には、他社製品の回収を行うことや、お客さまに合わせた一品一様の特注対応をすることを想定しています。「売って終わり」ではなく、ラック周りの付帯サービスをしっかりとお客さまに提供していきたいですね。

中長期的な目標としては、過去10年間に行ってきた投資を回収したいと考えています。弊社はこれまで、設備投資やロジスティクスの整備、生産拠点の強化を行ってきました。これからの10年は、それらを活かしていかに売上を伸ばすかを考えて実行していく時期になるでしょう。100年企業を目指すにあたって、その方向で頑張っていきたいと思っています。弊社のさらなる飛躍をご期待ください。

編集後記

摂津金属工業株式会社が目指すSDGsは、脱炭素や組織の永続化だけにとどまらない。ベトナム人男性2名、女性2名とミャンマー人女性1名の海外留学生を採用し、ダイバーシティ経営にも取り組んでいる。「工場で働くベトナム人スタッフと日本人スタッフとの架け橋として貢献してくれている」と語る伊藤社長。人・環境・組織・未来のすべてを考えて実行する同社の事業は、来たる2050年に向けて美しい花を咲かせることだろう。

伊藤高之/1981年、大阪府生まれ。2004年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、イギリスへ1年間留学。2005年に摂津金属工業株式会社に入社。その後ドイツへの2年間の企業留学や営業部長などを経て、2014年より代表取締役社長に就任。