
食品工場で生産ラインを流れてきたカップに食品を充填し、フィルムを貼り付け、帯を巻くなど一連の工程を自社で手がける包装資材メーカーの三宝化成工業株式会社。パッケージデザインや包装機の製造も行っており、大手コーヒーチェーンやコンビニエンスストア向けに商品を提供している。
オリジナルプリントカップサービス「デジカップ」や、環境への取り組みなどについて、代表取締役の奥圭司氏にうかがった。
製版メーカーで培った経験を活かし家業の道へ
ーーまず奥社長のご経歴をお聞かせください。
奥圭司:
大学卒業後は、グラビア印刷(※)の写真製版会社に入社しました。いずれ印刷製品を販売する家業に戻るつもりだったので、製版の仕事は将来活かせると思い、経験を積むために働き始めました。
入社して、工場で製版に半年間携わった後、営業部門に配属されました。イベントなどで積極的に挨拶して回り、1件でも多く受注につなげられるよう必死でしたね。
(※)グラビア印刷:凹版印刷のひとつで、細かい濃淡が表現できるため写真や画像の再現度が高い印刷方法
ーー家業に戻ってから社長に就任するまでの経緯を教えていただけますか。
奥圭司:
当時社長だった父から「若い社員と一緒に会社の底上げをしてくれ」と頼まれたのですが、もう少し外で経験を積み、30歳くらいで家業に戻ることを希望していた私は、申し出を断り続けていました。
そんな中、ある日職場に戻ると父がそこにいて、社長から「家業に戻りなさい」と説得されました。結局、3年半ほどで家業に戻ることに。それから3年間広島で勤務した後、東京で支店長を経験し、その後専務を経て、代表に就任しました。
国内唯一のサービスと包装デザインからパッケージまで行えるのが強み

ーー改めて貴社の事業内容を教えてください。
奥圭司:
弊社は主に食品向けのパッケージを販売しています。コーヒーチェーンやコンビニエンスストア向け容器の製造も手がけているので、みなさんも弊社がパッケージングに関わった商品を一度は手にしたことがあると思います。
また、弊社が今、力を入れているのが、フルカラーで曲面のカップに印刷できるオリジナルプリントサービス「デジカップ」です。カップのプリントサービスを始めたきっかけは、後発企業として他社との差別化を図るためです。現在はプロ野球球団や、テーマパークなどのオリジナルカップの印刷を手がけています。
また、商品のパッケージやラベルを製造する包装機も取り扱っています。機械の製造からライン設計まで自社で請け負っているので、お客様の製造ニーズに合わせた包装機械の提供が可能です。
ーー貴社の強みを教えていただけますか。
奥圭司:
弊社の強みは主に3つです。1つ目が、トレー製造、軟包装のデザインから製品の納品、食品の充填包装機をすべて網羅している点です。それぞれの工程を別々のメーカーに依頼するのが一般的ですが、弊社はすべて自社で一貫して対応しています。
2つ目が、プラスチックカップのデジタル印刷技術です。国内では専用の機械がないため、ヨーロッパ製の輸入印刷機を使っています。多くの企業は採算面で導入を断念しているので、国内でプラスチックカップのデジタル印刷ができるのは、弊社だけです。
3つ目が、自社の工場で使用している機器の一部を自社で設計・製造できる点です。自社で試用して良かった機器は、同業の協力会社にも展開できます。お互いの工場で情報交換を行い、効率化を図れるメリットがあります。
脱プラスチックに向けた取り組みについて
ーー環境面の取り組みについてお聞かせください。
奥圭司:
プラスチックは加工がしやすく安価なため、多くの製品に使われています。しかし、海に大量のプラスチックごみが漂流する海洋プラスチック問題が大きな課題となっています。そのためプラスチック資源を循環させ、廃棄量を減らしていくことが重要です。
そこで弊社では、再生原料を使用した「LOOPLA(ループラ)」を展開しています。この製品は従来品と比べCO2の排出量を抑えることができ、環境保全に役立つ商品につけられるエコマーク認定を受けています。
プラスチックをリサイクルする際、プレコンシューマ材とポストコンシューマ材を使う方法があります。プレコンシューマ材を使う場合、製品をつくる過程で発生した端材や不良品を集め、再びプラスチック材料としてつくり替えます。弊社は大半でプレコンシューマ材を使用しております。
一方でポストコンシューマ材の場合、製品として使用された後、一旦市場から回収されリサイクルしたプラスチック材料を使うことになるのです。使用済みのプラスチックからつくられるポストコンシューマ材は、衛生面への配慮が必要です。そこで弊社では、バージン原料でコンシューマ材を挟み、直接触れないよう工夫しています。
これからもプラスチック製品を扱うメーカーとして、環境に配慮した製品づくりを進めていきたいですね。
ーー経営幹部育成についてはいかがですか。
奥圭司:
これまで役員は身内が就任してきましたが、新しい風を入れた方が良いと考え、各営業所の支店長を取締役に選任しました。現在は役員会議で今後の事業方針について提案を促し、経営者視点への転換を進めています。
また、一般社員には、支店長がいなくても組織が回るよう、全体を見る視点を持つことを教えています。取締役たちは今は営業も兼務していますが、徐々に全体を統括する役割へシフトしようと考えています。
身近にある製品に関われるやりがいある仕事
ーー貴社の注力テーマについてお聞かせください。
奥圭司:
デジカップの認知度を広めるため、InstagramなどのSNSも活用しながら、商品のPRに力を入れていきたいですね。また、環境に配慮した製品づくりの一環として、シュリンクフィルム材を使わない容器の開発を進めています。
具体的には密着性が高く、フィルムでカバーしなくても中身がこぼれないフタをつくろうと試行錯誤を重ねています。強い力を加えずに開けられることも考慮していますね。このように新しい容器の開発を進め、プラスチックの使用量削減とコストカットを目指しています。
ーー今後の展望を教えていただけますか。
奥圭司:
見ただけで「この容器は三宝化成工業だね」と言われるような目玉商品をつくりたいと思っています。他社にはない独自性のある製品を増やし、売上拡大を目指していきたいですね。なお、今後は食品業界以外にも展開していこうと考えています。
ーー最後に就職・転職活動中の方々にメッセージをお願いします。
奥圭司:
弊社はコンビニやスーパーマーケット、テーマパークなどで提供される商品づくりに携わっています。普段みなさんが目にしている商品の開発や製造に携わることができ、やりがいを感じる魅力ある仕事です。現在は、営業や機械のエンジニアを募集していますので、興味を持った方はぜひお越しください。
編集後記
「お客様からの要望にはできる限りお応えし、多くの企業様から頼られる存在になりたい」と語っていた奥社長。容器の製造やフィルムのデザイン、食品の充填・包装、包装機の製造までを担う同社は、まさにあらゆるニーズに対応できるのが大きな強みだ。環境に配慮した三宝化成工業株式会社の製品づくりは、人々の環境への意識を変えるきっかけとなることだろう。

奥圭司/1975年大阪府出身。1999年大谷大学卒業後、ナベプロセス株式会社に入社。グラビア印刷の知識と営業力を培い、三宝化成工業株式会社へ入社。取締役専務などを経て2022年、代表取締役に就任。