※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

株式会社イーディーピーは、大阪府豊中市に本社を持ち、人工ダイヤモンド宝石の原料となる「種結晶」の製造・販売を行っている会社だ。主力は人工宝石向けだが、その他にもダイヤモンド半導体の基板や工具用素材などに向けても展開している。

今回は代表取締役社長の藤森直治氏に、起業のきっかけや苦労したエピソード、事業内容、注力テーマなどについてうかがった。

ダイヤモンド研究所で開発した技術を活かして起業の道へ

ーー住友電気工業へ入社した理由を教えてください。

藤森直治:
東京大学大学院では材料系の学科で学んでいたので、それが活かせる製品を多く製造している住友電気工業に興味を持ちました。基礎的なことも含めた研究をしながら、新しいものをつくることにも挑戦できるのが魅力的でした。

ーー起業のきっかけは何だったのでしょうか?

藤森直治:
その後、2003年に産業技術総合研究所(現・国立研究開発法人産業技術総合研究所)に入所し、ダイヤモンド研究センターで研究をしていました。そこで開発した技術が実用性の高いものであったことがきっかけとなり、会社を立ち上げようと思いました。

ーー起業時に苦労したことはありましたか?

藤森直治:
2008年頃から起業に向けてのビジネスプランを立てて準備していたのですが、その時、リーマン・ショックが起こりました。複数の会社から資金を出してもらえる予定だったのですが、すべて難しいという話になってしまい、改めて準備期間を設けることになりました。最初は少額の資本金でスタートすることとし、2009年に株式会社イーディーピーを設立することができました。

ーー起業当初から上場することを目標にしていましたか?

藤森直治:
上場することは成長過程のひとつとして目指していました。創業13年目に無事に上場することができ、目標をクリアできたという気持ちです。

ダイヤモンドならではの特質を活かした高精度な製品の開発・販売

ーー貴社の事業内容を教えてください。

藤森直治:
弊社はあらゆる素材の中で最高の熱伝導率を持ち、半導体材料としても期待されている「単結晶ダイヤモンド」を使った製品開発をしています。たとえば、人工宝石を生産するための種結晶、X線の透過窓材や製品の冷却に使うヒートシンクなどの素材として使用しています。

ーー今後、注力していきたいことについてお聞かせください。

藤森直治:
直近では、量子コンピュータの材料としてダイヤモンドを利用することの研究が進められています。現在使われている量子コンピュータは液体ヘリウムで(マイナス269度まで)冷やす必要がありますが、ダイヤモンドを使うことで、常温で動かすことが実現できる可能性があります。

また、ダイヤモンドはパワーデバイスと呼ばれる、大きな電力を制御するデバイスに適用されることで、他の半導体材料より小型になり、省エネルギーを実現できる可能性があります。このための研究が世界中で進んでいますが、実用化するためには大型の素材(ウエハ)が必要で、その実用化に取り組んでいます。

日本にはまだない「人工ダイヤモンド宝石」にも取り組む

ーー新しく取り組んでいることがあれば教えてください。

藤森直治:
人工ダイヤモンド宝石である「LGD(ラボラトリー・グロウン・ダイヤモンド)」の市場が年々伸びています。主としてガスからダイヤモンドを成長させる方法で作られています。

日本は、ガスからダイヤモンドをつくる技術を開発した国であるにもかかわらず、このLGDの製造に取り組んでいる会社がありません。これまではLGD用の種結晶が主力商品でしたが、LGDの開発を進め、製造や販売にも取り組むため、2024年に子会社を設立しました。

ーー貴社が求める人材はどのような方でしょうか。

藤森直治:
考える力のある方です。弊社のような従業員100名以下の規模の会社では、与えられた仕事をこなすことも大事ですが、それ以上に何をしなければいけないかを自分で考えて行動することが大事です。

そのために勉強をしなければならない場面も出てきますが、それを前向きに捉えて仕事に取り組める人だと、弊社の環境はマッチしていると思います。

編集後記

ダイヤモンドの汎用性に優れた特性と広い応用範囲について多く語ってくれた藤森社長。宝石としてだけでなく、優れた特性は、様々な工業製品や半導体デバイスにまで応用を広げることで、その需要はますます高まっていくと思われる。

ダイヤモンド素材の供給としてだけでなく、人工宝石(LGD)にも活動の範囲を広げつつある株式会社イーディーピーの発展は日本の製造業再興の1ページとなるだろう。

藤森直治/1949年、愛知県生まれ。1973年に名古屋大学工学部金属工学科を卒業。1975年に東京大学大学院工学系研究科修士課程を修了後、同年に住友電気工業株式会社に入社。2003年に独立行政法人産業技術総合研究所(現・国立研究開発法人)に入所し、ダイヤモンドの研究に従事。2009年に株式会社イーディーピーを設立し、取締役に就任。2010年に代表取締役に就任。2012年に産業技術総合研究所の名誉リサーチャーの称号を受領。現在に至る。