三和電気株式会社(東京都品川区)は、1933年に白熱電球用フィラメント(発熱線)の製造を開始して以来、時代のニーズとともに照明用部品をはじめとする幅広い分野の産業用・医療用部品を開発製造してきた。
注目すべきは2022年、「外径が毛髪の3分の1の細さ」という世界最小0.027mmの市販のメタルコイルを開発し、ギネス世界記録に認定されたこと。高い技術力が世界に広く知れわたることになり、この快挙の裏側には将来を担う若手社員の功績もあった。
続く2024年には工作機械用部品メーカーの株式会社エスエス精機を吸収合併し、拡大路線をうかがわせる顕著な動きもある。今回は代表取締役社長の宮﨑裕二氏に会社を継ぐこととなった経緯、事業の強み、採用についての思い、今後のビジョンについてうかがった。
兄弟の3番目に生まれて会社を継ぎ、社長就任時に大きな試練を経験
ーー家業を継ぐことになった経緯を教えてください。
宮﨑裕二:
子どもの頃は父が会社を経営しているのはわかっていても、事業の中身までは知りませんでした。4人兄弟の3番目に生まれたので、会社を継ぐことなど頭にはなく、大学卒業後は「海外と関わるような仕事がしたい」と考え、食品関係の専門商社に就職しました。
ところが会社員として働いていたあるとき、家族ぐるみのお付き合いだった顧問税理士に呼ばれ、「そろそろ会社を継ぐ準備をしたほうがいい」と説得されたのです。
親には海外留学をさせてもらうなど、自由に育ててもらったことに対する感謝の気持ちもありました。「そこまで言われるのには、きっと深い意味があるのだろう」と感じとり、会社を継ぐ前提で入社したのが、27歳の頃のことです。
ーー社長就任の前後に、どのようなことを経験しましたか?
宮﨑裕二:
製造、開発、営業、経理、総務など、さまざまな業務経験を経て2012年に社長に就任しましたが、大変だったのもまさにその頃です。
将来的に白熱電球がLEDにとって代わるのは明らかでしたが、東日本大震災の影響による節電対策のため、この動きに拍車がかかりました。国や自治体が補助金で交換を助長した結果、お客様の撤退などが相次ぎ、利益を生み出していた事業の市場が急激に縮小していったのです。
今となってはいい勉強になったと冷静に話せますが、代表に就任した前後の4年間は営業赤字が続き、がむしゃらに経営改革・改善に取り組む毎日でしたが、経営者としての覚悟が定まり、自分自身にとっても成長につながる経験となりました。
ギネス世界一のテクノロジーで築く、「グローバルニッチトップ」
ーー改めて事業内容を教えてください。
宮﨑裕二:
事業内容は照明・医療・産業装置用コアパーツの開発・製造・販売です。具体的な用途は照明分野ではウインカーランプやテールランプ、ルームランプなどの車載ランプ用フィラメント、半導体製造装置の加熱ランプ用フィラメント、医療分野では、医療処置具のカテーテルやマーカーなどのコイルです。
産業分野では、半導体や電子機部品などの製造ラインで使われる除電器用ニードルやスマホや電子部品などの薄膜蒸着装置用フィラメントなども製造しています。
ーー貴社の強みはどんなところにありますか?
宮﨑裕二:
「いままでよりも部品・装置・機器の寿命を延ばしたい、機能アップを図りたい」というニーズを持つ企業から、お声がかかるケースが多くあります。そうした課題に対し、特殊素材や特殊加工技術を持つ当社ならではの解決策を提案し、ご採用いただくこともあります。
またタングステンやモリブデン、プラチナやイリジウムなど特殊な金属素材を使った製品を多種類扱っているので、ひとつひとつの市場は小さくても同じような技術を持つ部品メーカーが少なく、非常にニッチである点も強みです。
さらにはギネス世界記録に認定されたことで、国内だけでなく海外からの引き合いも増えてきています。特に今後は北米やヨーロッパ向けの案件に注力し、グローバルニッチトップを目指していきます。
力強い「100年企業」の形成に向けて、若手社員の採用を強化
ーー人事面の再構築を課題に挙げていますね。
宮﨑裕二:
私自身も幹部も50歳前後になっているので、次の世代の人事体制を準備していくのが当面のテーマです。現役メンバーがすぐに辞めるわけではないのですが、人材育成に時間がかかるからこそ、現在は新卒の採用にウェートを置いています。
製造業はどうしても3Kのイメージがあり、正攻法のみだと求人で不利な面があります。そこで、少しでも会社の実態を知ってもらうために活用しているのがインターンシップです。当初は集客に苦戦したのですが、各大学で就活準備のためのキャリア講義を行うなどして関係構築を図り、インターンシップへの参加につながったり、ここへきて効果を発揮してきました。
ーーインターンシップの具体的な内容は?
宮﨑裕二:
弊社だけでなく、複数の中小製造業が集まり、インターンシップとして各企業に3・4年生の学生を配属し、いろいろな経営課題を遂行してもらう試みです。
製造業の研修を2週間受けてもらい、最終日には経営の視点から各配属先企業への改善提案をコンテスト形式で行います。審査員は大学教授や銀行の支店長、新聞社の方などが務めているので、みんな真剣そのものです。
弊社のインターンシッププログラムでは、まずコイルづくりなどの製造実習を行います。その後は幹部や若手、シニアなど、いろいろな層に対するインタビューの機会を設け、それぞれがどのような課題を持って働いているかを知ってもらいます。
これらを踏まえて「こうすれば会社が良くなるのでは」といった提案をまとめ、2週目にはプレゼンを行ってもらうという流れです。
ーーそうした若手採用活動の成果をお聞かせください。
宮﨑裕二:
インターンシップはなかなか採用につながりませんが、学生にとっては働くことを身近に感じられる価値のある場は提供できていると思います。製造業のイメージをいい意味で変えるための広報戦略として、大きな役割を果たしているのも重要なポイントです。
弊社では、ギネス記録のプレスリリースも若手が中心になって取り組んだように、社歴の浅い社員でも活躍するチャンスは豊富です。
最近は若手社員が増え、やる気と責任感を持って取り組んでいることを、SNSなどを通じて自由に発信しています。それを見て「この会社なら成長できるだろう」と、大手の内定を断って当社を選んでくれた新卒採用者も実際に出ています。
ーー5年・10年後のビジョンを教えてください。
宮﨑裕二:
ゆくゆくはホールディングス体制を敷いて、規模を大きくしていきたいと考えています。中小製造業では、徐々に衰退して、廃業を余儀なくされる企業も増えていくでしょう。技術を継承するためにも、そうした先をM&Aで一緒になり、グループ間の連携強化ができるよう力をつけていきたいと思います。
そして社内でも若手が育ち、新事業を立ち上げて別会社をつくるような展開は非常におもしろいですし、そのためにも採用の強化を図っているところです。
まだまだ大手企業には、報酬や福利厚生はかなわないとしても、仕事の幅があっていろいろな経験ができるので、勉強しながら成長したい人にぜひ興味を持ってほしいですね。
編集後記
宮﨑社長は入社後の人材配置について、「それぞれの適性と社内状況を踏まえて慎重に決定し、キャリア面談は中堅幹部や役員などとの複数回に及びます」と語り、完全に幹部や役員と社員とのマンツーマンでマッチングを図っているとのことだった。
人事に対する並々ならぬ配慮と熱意が伝わってくるインタビューだった。若手社員にとっては、これから会社の中核に立って成長を担うチャンスが、十分にありそうだ。
宮﨑裕二/1976年、東京都生まれ。東海大学を卒業後に食品の専門商社に入社し、輸出と仕入れ部門で3年間勤務。その後、2003年、三和電気株式会社に入社。製造、開発、営業、総務、経理などの経験を経て、2012年に代表取締役社長に就任。