※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

研究設備メーカーとして1978年に設立されたオリエンタル技研工業株式会社。「ひらめきの瞬間をつくる」をパーパスに、既存の枠組みにとらわれない、ひらめきや創造を生み出すラボラトリーを研究者たちに提供している。

代表取締役社長の林正剛氏に、これまでの経験やイノベーションのあり方、見据える未来についてうかがった。

広告制作から研究施設の設計の道へ

​​ーーラボラトリーをつくる仕事に興味をもったきっかけは何でしたか?

林正剛:
僕は高校生の時に、アートディレクターであるOlivieroToscani(ベネトン社の広告の写真家、オリビエーロ・トスカーニ)氏の広告に衝撃を受けたことをきっかけに、アメリカの美術大学で広告の勉強をしていました。卒業後は日本で広告企画制作会社に就職し、金融機関の広告制作を担当していました。

充実した日々を送っていたのですが、ある時、創業者である父にオリエンタル技研工業に入社するよう言われました。当時は、研究者で医者でもある兄が会社を継ぐと思っており、僕はデザインの仕事以外には興味がありませんでした。

ただし、仕事がきつくて空気も悪く、危険で汚い日本の研究所の現場に連れて行かれ、デザインが入り込む余地があると感じたのです。また、研究設備を変えるだけでは研究者が働く環境は改善されないと思いました。

ーー研究所のデザインについて、どのように勉強しましたか?

林正剛:
建築の勉強をし直そうと思った時に、アメリカのケネス・A・コーンバーグ氏に出会いました。ケネス・A・コーンバーグ氏は、ひらめきや発見をもたらすための研究所の設計を専門とする建築家で、彼の作品に触れて「まさに僕はこれがやりたい」と思いました。

彼はコーンバーグ・アソシエイツという建築設計事務所を経営していたので、僕は、「コーンバーグジャパンを僕が立ち上げるので全部教えてください」と言って彼の元で学びました。その後、僕は日本で約束通りコーンバーグ・ジャパンを立ち上げ、のちにプラナス株式会社を設立しました。

ーーオリエンタル技研工業の代表取締役に就任した時の状況を教えてください。

林正剛:
プラナスで建築や空間をつくることに夢中になっていた4年前(2020年)に、父が急に倒れて会社を任されることになりました。

当時のオリエンタル技研工業のミッションは「ラボラトリーエンジニアリングで業界ナンバーワンを目指す」ということでした。僕が入ったからには、「ひらめきの瞬間をつくる」ということをミッションにしようと決めました。

「ひらめき」を生み出すためのイノベーション

ーー林社長が取り組んだ社内改革について教えてください。

林正剛:
僕たちは新しい時代の変化に対して、一人ひとりがいろいろなことに挑戦していかなければならないと思っています。その行動を促すには、個人の特性もありますが環境を変えることが大事だと、プラナスでの仕事を通じて感じていました。

働く環境や社内制度、仕事中の服や職場で提供するコーヒーに至るまで、すべてをハッピーな方へ変えていくことで、社内のムードがポジティブに変わり、皆で考え挑戦する文化が生まれ、新しい製品やサービスが生まれています。その結果、生産性が上がり、経営を引き継いだときに比べ売上が倍近くに拡大しており、新型コロナウイルスの影響も受けずに今に至っています。

ーー働く環境をつくる上で大切にしている考え方を教えてください。

林正剛:
まずは、「幸せ」を感じられること。そのために仲間や上司、社会や未来などあらゆる「つながり」を大切にする環境づくりを心がけています。また、人が最も創造力が高まるのは5歳の時と言われています。5歳の時は、いろいろな遊具で遊びができて創造が膨らむ色鮮やかな空間にいたはずです。それが、だんだんと社会性を身につけるため、みんな同じ服を着て同じ方を向いて、無彩色の中で創造の余地がなくなります。

一方で、今は誰もが自ら発信できる「創造社会」ともいわれます。もっと妄想や創造が楽しくできるような社会をつくっていかなければならないのです。

僕たちがつくる研究設備製品も徐々にIoT化されてきており、ビッグデータをとり、そのデータをAIが処理しています。これからは創造的な活動も機械ができるようになると思っているのですが、その中で人間に最後に残された価値というのは、AIが絶対に思い浮かばないような妄想や哲学だと思います。私たちが設計したラボの中でその価値が発揮されるように、什器だけではなく、ラボの空気や研究の環境にまで気をつかっています。

ベンチャー企業がいきいきと研究できる環境を提供する

ーー今後、新たに挑戦したい事業は何ですか?

林正剛:
2024年4月に「X/S(イクシーズ)WORKSITE」というインキュベーションセンター(創業初期の起業家をサポートする施設)をつくば市にオープンしました。

「X/S(イクシーズ)」は「X」の複数形を意味し、「X」にはexperience(体験)、crossing(人の交わり)、excitement(興奮)などの意味が込められています。さらに、XISを反転することで「SIXTH SENCE:第六感を生み出す場所になるように」という思いを込めました。

良いアイデアを持ちながらもお金や人脈がないベンチャー企業のために、実験設備やインテリアをすべてそろえるだけでなく、これまで僕らが大切にしてきたクライアントネットワークを紹介したり、企業カルチャーづくりやホームページづくりまで、フルサポートしていきます。

何かが生まれる予感がする場所は、やはり楽しそうな場所だと思います。弊社は現在、「X/S(イクシーズ)WORKSITE」への入居を希望するベンチャー企業を募集しています。

ーー新事業で特に大切にしているコンセプトをお聞かせください。

林正剛:
コンセプトは「手ぶらでScience、ときどきBBQ」です。なぜBBQなのかというと、アメリカではBBQが人と人をつなぐ「鉄板イベント」だからです。僕は、BBQを通して入居企業の皆さんにたくさんの人とつながってほしいと考えています。

BBQの会場はつくばのブルワリーやワイナリーなど、地元のお店と共同で展開します。「地元の産業も盛り上げつつ、科学技術業界も盛り上げ、つくばをシリコンバレーのようにしよう」というのがこれから挑戦する事業の方向性です。

XSワークサイト

ーーどのような未来を目指していますか?

林正剛:
僕たちがやりたいことは、日本の科学技術分野をエンタメのように文化にすることです。科学技術がもっと身近になり、誰もが気軽にサイエンティストになれる社会が実現すれば、日本にはもっとひらめきが生まれて生産性も上がると思っています。そのような未来を目指して、今後もさまざまな事業を展開していきます。

編集後記

「行動変容を促すには、建築だけでなく、さまざまな角度からのアプローチが必要であり、その全てをプロデュースしたい」と語る林社長。今後どのような「ひらめき」が生まれるのか、挑戦を重ねるオリエンタル技研工業に注目だ。

林正剛/1972年生まれ。97年米美大グラフィックデザイン科卒業後、広告企画制作会社にて企業のCI/VI、広告制作に従事。のちにオリエンタル技研工業に入社後、建築の道を志し米建築家Ken Kornberg氏に師事し日本事務所設立。2002年プラナス株式会社設立、同社代表取締役。2020年オリエンタル技研工業株式会社代表取締役社長。グッドデザイン賞、日経ニューオフィス推進賞、富山県建築賞、すかまち景観デザイン賞、他受賞多数。