三共電機株式会社は、制御盤製造を中心に多様な業種・業態に対応する技術力を持つ企業だ。同社の制御盤の用途は工作機械からトンネル掘削機、船舶用クレーンまで多岐にわたる。
社内では約90%の業務を自動化し、効率化を追求する一方で、沖縄での社員旅行や年齢に関係ない昇給制度など、人間本位の経営も貫いているのが印象的だ。今回は、同社の事業内容や人材育成の取り組みについて、代表取締役の三橋進氏にうかがった。
大手メーカーでの経験を活かし、町工場をデジタル化
ーーこれまでのご経歴を教えてください。
三橋進:
私は高校時代から、将来は家業を継ぐことになるだろうと漠然と思いながらも、まずは広い世界で経験を積みたいと考えていました。特に英語を使う仕事に就きたいという強い希望があったので、大学院修了後は海外で働ける環境を求めて、大手工作機械メーカーに入社したのです。
そのメーカーにはソフトウェアエンジニアとして入社し、出張で海外に行くことがありました。1週間でスウェーデン、フランス、イタリアの3カ国を回るような弾丸出張もありましたね。さまざまな国に行ったことで、各国での製品の使われ方や、文化の違いを肌で感じられたのは非常に刺激的な経験でした。
ーー家業に戻られてからは、どのようなことに取り組まれたのでしょうか?
三橋進:
2014年の入社当時はまだ17人ほどの規模でしたが、デジタル化の必要性を強く感じたことを覚えています。いわゆる「THE 町工場」といった状況で、勤務時間はノートに手書きで記録していたり、残業や有給なども手書きでまとめていたりしていたのです。正直なところ大企業との差に驚きましたね。
そこで、まずは勤怠のデジタル化から着手し、クラウドの勤怠管理システムを導入して、社員の労働時間を正確に把握できるようにしました。その後も、製造プロセスや業務フローのデジタル化を進め、2019年ごろには業務の90%程度が自動化されるまでになりました。前職のソフトウェアエンジニアとしての経験が、会社の効率化にとても役立っていると感じています。
技術のハブとして、業界横断的な価値を提供
ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。
三橋進:
三共電機の主な事業は、工場の自動化や機械を動かすための制御盤の設計・製作です。工作機械、自動車部品加工、スマートフォンケースの加工など、多岐にわたる分野で使用される機械の制御盤を手がけています。
最近では、トンネルを掘るシールドマシンの制御盤も手がけるようになりました。これは直径が15メートルほどにもなる大型の機械に使用されるもので、地下鉄や高速道路のトンネル掘削に使用されます。こうした仕事は、技術者にとって自分の仕事が地図に残るという点で非常にやりがいがあります。
私たちの強みは、多様な業種・業態に対応できる技術力です。弊社は特定の分野に特化せず、さまざまな業種の仕事を手がけてきました。これは、リーマン・ショックの経験から特定の業種に依存しすぎないようにするためでしたが、仕事の多様性としてお客さまから「景気変動に左右されにくい安定した取引先」として評価、信頼していただき、異なる業種で培った技術を横展開できる「技術のハブ」としての役割を担っています。
ーー人材育成においては、どのような部分に注力されていますか?
三橋進:
この業界では学校では学べない専門的な知識が多いため、OJTを中心に1年間かけてじっくりと技術を学んでもらう体制を整えています。昇給試験も年齢に関係なく、条件を満たせば受けられるようにしており、社員のランクに応じて昇給のチャンスを設けています。たとえば、TOEICのスコアに応じて昇給試験の受験資格を与えられるなどですね。このように、頑張る人をしっかり評価できる仕組みを整えています。
デジタル技術で挑む、人手不足解消への道
ーー社員のモチベーション向上のためには、どのような取り組みをされていますか?
三橋進:
昇給制度の他に、社員旅行にも力を入れています。2024年の4月には、5年ぶりに約30名の社員と沖縄旅行を実施しました。高級リゾートホテルに宿泊し、コース料理を楽しむなど、普段経験できないような体験をしてもらったのです。この旅行では、テーブルマナーを学ぶ機会も設けました。これは、社員が社外でも恥ずかしくない振る舞いができるようにという配慮からです。
また、普段話す機会の少ない部署の人たちと交流できるよう、グループ分けにも工夫しました。旅行後は社内の雰囲気が格段に良くなり、仕事がやりやすくなったという声も多く聞かれたので、とても嬉しかったですね。今後も2年に1回程度、このような社員旅行を続けていく予定です。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
三橋進:
今後の目標は、人手不足や技術者不足という業界の課題に対して、デジタル技術を活用して解決策を見出すことですね。具体的には、デジタルツインという技術を用いて、制御盤の製造プロセスの自動化を進めています。これまで制御盤の製造は人の手に頼る部分が大きかったのですが、デジタル技術によって、設計から製造までの過程を大幅に効率化できると考えています。将来的には、私たちが寝ている間に自動で制御盤が製造されるような仕組みも可能となるでしょう。
そのため、新工場の設計を進めています。来年の夏に完成予定のこの新工場では、最新のデジタル技術を駆使した製造ラインを構築する予定です。人材不足が深刻化する中、デジタル技術を活用することで、高品質な製品を効率的に生産し、社員の働きやすさも向上させる。そんな未来のものづくりの形を、弊社から発信していきたいと思います。
編集後記
三橋社長の語る取り組みの数々は、町工場のイメージを大きく覆すものだった。伝統的な技術を大切にしながら、最新のデジタル技術を駆使する姿は、まさに「未来の町工場」だ。特に印象的だったのは、多様な業種に対応する柔軟性。この「多才ぶり」が、不確実な時代においても歩みを止めない強さになっているのだろう。
三橋進/2009年名古屋工業大学大学院工学研究科修了。森精機製作所(現DMG森精機)でソフトウェア開発に従事。2014年に家業の三共電機株式会社に入社。サラリーマン時代に学んだ、最先端技術と知識を基に「THE 町工場」だった三共電機の超デジタルを推進。