※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

1956年に創業した株式会社久斗鉄工所。金属の切削加工における高度な技術を駆使して、さまざまな部品づくりを行うメーカーだ。主要取引先は、大手重工業メーカーから歯車メーカーまで、実に多岐にわたる。そんな同社の3代目として、2025年4月より代表取締役社長に就任した久斗翔太氏に、入社後の取り組みや今後の展望をうかがった。

工作機械メーカーで修業したのち、創業70年を超える切削加工の老舗へ入社

ーー事業内容を教えてください。

久斗翔太:
金属の切削加工を行う会社として、幅広い分野の部品づくりに携わっています。各種歯車のほか、建設機器・産業用ロボット・自動二輪・物流機器など、対応している業種は多種多様です。また、近年は新しい柱として、配管をつなぐフランジのメーカーともお取引があります。

最大の強みは、創業以来70年近くにわたり培ってきた部品製造のノウハウです。中でも、旋盤加工・マシニング加工を得意とし、加工に用いる治具の設計・製作も自社で行っています。

ーー貴社に入社した経緯や、それまでのご経験をお話しいただけますか?

久斗翔太:
弊社は祖父が創業し、2025年3月までは父が社長を務めていた会社です。幼いころから家業を継ぐ未来を意識していました。大学卒業後は、修業という形で弊社の主要お取引先である工作機械メーカーのオークマ様へ入社し、2年ほど勉強させていただきました。

製造業における安全第一の精神は、修業時代に叩き込まれ、職人さんに説かれた「頭を使って体で覚える」という言葉も強く印象に残っています。マシニングセンタ(工作機械)部門に在籍し、興味を持ったことを機に、弊社に入ってからも独学で大型機械の知見を深めました。

「現場の声」に応えて工場移転と業務の効率化に注力

ーー入社後の取り組みについてお聞かせください。

久斗翔太:
社員たちからは、私は「大手メーカーのノウハウを持ち帰った3代目」に見えていたことでしょう。2年間でいろいろな部署を広く浅く経験しただけの身なのに、その期待に応えなければと苦労していました。みんなに認めてもらうために、存在感を出そうと必死でしたね。

2022年に専務となり、最初に取り組んだことは本社工場の移転です。実は建築直前の2008年にリーマン・ショックが来てしまい、移転先の土地を保有した状態で計画がストップしていたのです。私は1年ほど工場に勤務し、現場の要望を聞いた上で移転計画を再始動させました。

2023年に姫路市の香寺町から夢前町へ移った本社工場は、2つの拠点を一カ所にまとめた形なので、シンプルに生産性が上がりました。設備を置くスペースや通路の拡大により、大きな動きが必要な仕事もやりやすくなったと言えます。広くなった事務所や休憩室に社員たちが集まり、コミュニケーションが盛んになった点もうれしい変化でした。

ーー現場の声を聞いて改善したことは他にもありますか?

久斗翔太:
残業時間をなるべく減らせるように、業務効率化に恒常的に取り組むようになりました。たとえば、現場の判断で「機械の刃先を変えたら作業時間が短縮した」といった改善点があれば、積極的に報告してもらい、内容を評価した上で賞金授与や年間表彰をしています。

また、部品加工の図面を電子化したことで、データの検索と管理がしやすくなりました。図面と手順書もデータ上で紐づけた結果、現場のスタッフが手順書をいつでも確認できるようになり、現場主体で活用してもらえるようになりました。これにより、問題発生の防止に備えることもできます。また、後輩への指導や教育もマニュアル化できる環境になり、新人の技術上達や製品不良率の低下にもつながっています。

後継者として会社の歴史・理念を守りつつ、新しい柱づくりに挑戦

ーー2025年4月に代表取締役社長に就任されましたが、意気込みをうかがえますか?

久斗翔太:
私が30歳になるタイミングで代表を交代するにあたって、何よりも大事にしたいのは会社の歴史です。歴代社長が続けてきたことを95%の範囲で継続しつつ、残りの5%で外部環境や時代の変化に適応していくイメージを持っています。

歴史を守るためには、企業理念の一つである「誠実さ」を絶え間なく社員に浸透させなければいけません。どんなにルールや仕組みを整えても、運用するのは「人」ですから、「ミスを隠さない」「問題は報告する」といった報連相の徹底に行き着くでしょう。

事業の方針としては、今までお付き合いしてきたお客様を大切にすることを大前提に、新しい柱も増やしていきたいと思います。ゆくゆくは、基本的に先方から支給していただいている原材料を自社で手配できるようにするなど、一貫生産できる企業力をつけていければいいと考えています。

先進的な技術開発は、中小企業にとってはリスクにもなり得ます。だからこそ、私たちは業界内で一歩先を行くのではなく、半歩先ぐらいの場所で正しい仕事を続けていきたいですね。

ーーいっしょに働きたい人に向けてメッセージをお願いします。

久斗翔太:
根が真面目で、何事にも一生懸命な人といっしょに働けるとうれしいですね。弊社は2026年から新卒採用を強化し、技術者を育てていく方針です。年間で2名採用し、10年後には現在の1.5倍となる60人規模の会社を目指しています。

弊社の魅力は、みんなでアイデアを出し合える風通しの良さと、明確な働きがいです。先代から続く「利益の半分をボーナス支給にあてる」という理想も大切にしていきたいので、仕事のモチベーションを高められる環境で活躍したいと思う方はぜひ弊社にお越しください。

編集後記

バブル崩壊やリーマン・ショックなど、十年に一度ぐらいは企業にとって大きな困難が訪れるもの。しかし、久斗鉄工所はどんな状況でも人材を切り捨てることはなかったそうだ。仲間と取引先を大切にする企業風土を誇りに、新しい歴史を築いていく3代目。「正しく誠実であること」を、リーダーとしても会社としても、よりいっそう大切にしていきたいと力強く語った言葉が印象的だった。

久斗翔太/1995年生まれ。甲南大学を卒業。株式会社オークマで2年間の修業期間を経て、2020年に株式会社久斗鉄工所へ入社。2022年、専務取締役に就任。2025年4月、代表取締役社長に就任。