製造を効率化するには分業化が欠かせないが、その正反対を行く会社がある。1969年創立の金属プレス加工会社、シミズ精工株式会社だ。同社では金型の設計から製品の製造までをすべて内製しているという。
代表取締役社長の清水一郎氏いわく、製造工程のすべてを内製で行うことには、分業が抱える課題を解決する大きなメリットがあるという。そこで、シミズ精工の特徴や内製にこだわる理由などをうかがった。
祖父が創業した金属プレス加工会社を受け継ぐ3代目社長
ーー清水社長の経歴をお聞かせください。
清水一郎:
弊社は私の祖父が創業した会社なので、幼いころから「会社を継ぐように」導かれて育ちました。今思うと母から巧みにマネジメントされていたと感じます(笑)。
大学は同志社大学のエネルギー機械工学科へ行き、卒業後は弊社の主要取引先である光洋精工株式会社(現・株式会社ジェイテクト)で研修を受けました。光洋精工では(清水精工の後継者となるためには)現場に近いところで学ぶ必要があるといわれ、各部門に広く携わる製造技術部に配属されました。
その後、2010年に弊社に戻り、父の元で従業員として働き、2023年に後を継いで3代目社長に就任しました。
ーー社長に就任してから苦労したことは何ですか?
清水一郎:
これは現在も感じていることですが、社長を引き継ぐにあたって、残すべきことと変えるべきことをそれぞれ選択し、過去を参考にしつつ新しいものを取り入れるという判断が大変です。
社長を引き継ぐというのは、「よいもの」を活用し、そこに改善や新たなアイデアなどを注入して組織をブラッシュアップしていくことだと思います。私は「小粒でも日本一の会社になる」という創業時からの目標のために何をどうブラッシュアップしていけば良いのか、日々頭を悩ませています。
そのためにも、製造現場を第一に考え、連携と感謝を忘れない組織づくりに取り組んでいます。製造業とは一人では何もできない世界です。社員それぞれに会社に対する考えがあると思いますが、それらを良い形で吸い上げていき、弊社から「日本一」を発信できるようになりたいですね。
金型プレス加工を通じて社会を支える金属部品をつくる
ーー貴社の事業内容を教えてください。
清水一郎:
弊社の事業内容は金型プレス加工を用いた金属製品の製造です。製造の中心はベアリングリテーナー(※1)で、その他にも角型や円筒型のケース、テンショナープーリー(※2)、金属環など、製品の種類は多岐にわたります。
機械の内部に使われることが多いので目につきにくいのですが、車や航空機械、電車など軸が回るあらゆるところに使われています。いわば、金属部品で社会を支えている会社といえるでしょう。
(※1)ベアリングリテーナー:回転を滑らかにするベアリング内の玉を等間隔に保つ部品
(※2)テンショナープーリー:自動車のエンジンベルトの張力を適切に保つ部品
製造過程に関わるすべてを内製するメリットとは
ーー貴社独自の強みは何ですか?
清水一郎:
弊社の強みは金型の設計から製品の製造まで、すべての工程を自社でできる、自社完結型の生産体制です。これらは通常、別々の会社がつくるのですが、それを一社でまとめることで、リードタイムの短縮やコストカット、トラブルへの迅速な対応などを可能にしています。
自社ですべて対応している理由は、周辺に分業可能な企業がなく、自社で対応せざるをえなかったというシンプルなものです。それゆえに大変なことも多かったのですが、過去の苦労が実を結び、総合力のある会社へと成長できたと実感しています。
また、中小企業としてはかなり大きい600トンのプレス機械があるので、高張力鋼板(ガードレールに使うような硬い鋼材)の加工も可能です。自社の中に高い技術力と高性能な製造機械の両方があるので、広範な製造ニーズに対応できます。
「総合力」と「プレス技術」で価値を生み出し続ける会社を目指す
ーー今後、特に注力したいテーマは何ですか?
清水一郎:
やはり「小粒でも日本一になる」という目標をかなえるために、必要な努力を積み重ねる必要があると感じています。
しかし弊社には「全工程内製」という独自性に加えて、高い技術力や充実した設備が備わっています。これらを生かした新製品の開発や既存顧客の取引深耕に取り組めば、十分ポジションをつくれるでしょう。
これからの時代に必要になるのは、社員を第一に考えながら、今まで以上に利益を追求していく体質を実現することです。限られたリソースで何ができるのか。この一点を精査し、組織を変革していく投資を続けていきます。
ここには金型プレス加工のAからZまでを学べる環境がある
ーー貴社で働くメリットはどのようなことでしょうか。
清水一郎:
弊社には見込みさえあれば1年目から設計に携われる環境があります。しかも金型から製品の製造まで一貫して行うので、金型プレス加工全般の知識が身に付きます。
弊社に応募いただくにあたって、持っていてほしい知識は、製図の方法や機械の基礎知識といった基本的な部分です。専門的・実践的な知識は仕事をしながら覚えていくので安心してください。
また、自分がやりたいことがハッキリしている方はぜひ教えてください。弊社としても目的意識がある方や成長意欲がある方は全力でバックアップします。皆さんも日本中の機械をパーツで支える、縁の下の力持ちになってみませんか?
編集後記
都市部の大企業が注目されがちだが、地方にもシミズ精工のような、隠れた財宝ともいえる企業が存在している。多くを学べる環境と、総合力からくるポテンシャルの高さ。新たな技術者を育てる土壌は地方に眠っているのかもしれない。
清水一郎/1983年京都府生まれ、同志社大学機械工学科卒業。光洋精工株式会社(現:株式会社JTEKT)に入社し、製造技術を担当。工場の現場運営のノウハウを5年学ぶ。2010年にシミズ精工株式会社に入社、2023年に同社代表取締役社長に就任。