
1948年創業の株式会社イシダテックは、食品・医薬品業界向けの省力化機械を、オーダーメイドで開発・設計・実装を行うメーカーだ。近年ではハードウェアのみならず、機械を動かすソフトウェア開発にも意欲的に取り組んでおり、2023年4月期には大幅増収を実現している。
三代目代表取締役として社内外で新たな取り組みを続ける石田尚氏に、これまでの経緯や今後の展望などについて話をうかがった。
現在につながる「世の中に必要とされるモノをつくりたい」という思い
ーーモノづくりに興味を持ったタイミングについてお聞かせください。
石田尚:
幼い頃、弊社の創業者である祖父の家に、よく遊びに行っていました。幼稚園の頃から祖父の家にあるプレハブ建ての工房のようなところでさまざまなモノを触り、その頃にモノづくりへの興味が芽生えたように思います。幼稚園や小学校では絶対に触らせてもらえないような工具を使って、モノ(ガラクタ)が何か別のモノ(やはりガラクタ)に変化していくのが面白かったように記憶しています。
ーー大学卒業後、イシダテックに入社することは考えていなかったのですか。
石田尚:
高校生の頃「世の中に必要とされているものを知るために、目の前で起きていることを科学的・工学的に理解できるようになりたい。」と考え、大学1年生から経営工学を学ぶことができる筑波大学の社会工学類へ進学しました。
新卒で就職活動をする時も「さまざまな人がいる中で、どんな環境でも生きていける力を養っていきたい」という想いを抱き、株式会社LTSというコンサルティングファームに入社しました。
LTSは当時、社員数が60名ほどの規模の会社で、「会社がこれから成長していく真っ最中にあり、会社創りにも大いに携われそう。他ではできない経験ができる」と感じたことも、入社を決めた理由のひとつです。
ーーコンサルティングファームではどのようなことを経験したのでしょうか。
石田尚:
業務の見える化やコンサルティング手法といったテクニカルな部分もさることながら、人を巻き込んだ戦略や計画の実現方法などについて経験を通じて学びました。これは、イシダテックの代表取締役となった今でも活きている考え方です。また、LTSでの「誠実に徹し、お客様の成長のために必要なことをやり遂げる」という姿勢も今に活かされていると感じています。
三代目社長となり気付いた自社の弱点。「見える化」を進めて新たなニーズも発見

ーーLTSを経てイシダテックに入社し、気づいたことを教えてください。
石田尚:
LTSに入社して3年8ヶ月経った時に、当時代表取締役をしていた父の体調が芳しくない状況を鑑みて、イシダテックに入社しました。
LTSではお客様の課題発掘・解決を行っていたため、その観点を持ちイシダテックを見渡したところ、「業務の見える化」が進んでいないことに気づきました。経験豊富な職人気質の社員が多く活躍していましたが、社内の業務はもとより、弊社の製品がどのような業界で活用されていて、どの工程で問題が起こっているかなどの情報共有がされていない状況だったのです。
これまでお客様に提供してきた業務の見える化を進めることで、まずは会社の理解を進めることができると感じ、業務の可視化を進めたのが、私のイシダテックでの最初の取り組みです。
さらに、紙ベースでのやり取りが多く、大量の紙を社員が個々に管理していた点などが気になりました。情報を社員全員で共有できるシステムがなかったため、誰が何をしているのか・どこまで進めたのかを可視化できるシステムも、私がイシダテックに入社してから導入しました。
ーー特に印象に残っている出来事をお聞かせください。
石田尚:
2018年にスイスの研究開発型の企業とともに、ジョイントベンチャー(JV)を立ち上げたときのことです。当時、弊社には研究開発機能が明確にはありませんでした。そのため、、すでに知見を持つ方々と組んで研究開発を進めようと思ったことがプロジェクト発足のきっかけです。
私は「うちには経験豊富な人材がたくさんいるから、なんとかなるだろう」と高をくくっていましたが、技術面では問題ないことも、コミュニケーションの取り方を含めた文化的な背景がボトルネックになり、全く進めまないことだらけでした。プロジェクトを立ち上げてから1年半ほどは目立った成果もあげられず、たいへん苦しかった記憶があります。
このままではいけないと思い、適切なマインドとスキルを持つ新たな人材を採用し愚直にチーム作りをすることで、やっと成果の芽を出すことができました。
また、そのような中でも経験豊富な社員が賛同してくれたことは幸せに感じています。祖父の代から会社の発展に貢献してくれている社員もおり、入社前から知ってくれている方がいて、挑戦を後押ししてくれたことが本当に心強かったですね。
ーー現在のイシダテックの強みについて教えてください。
石田尚:
弊社の強みは、ハードウェアとAIなどを含めたソフトウェアを一拠点・一貫生産で手がけていることです。機械本体をつくるだけでなく、機械が動くシステムも弊社でつくることができるため、お客様のニーズに応えることができています。
見えづらい強みなのですが、弊社は「プロセス品質」が高い傾向があります。一特に納品後、きちんと稼働するかまで見届けることを大切にしています。機械をクライアントの工場に送って終わりではなく、現場で機械が動いているところまで面倒を見ていることが強みです。私がLTSで学んだ「逃げない姿勢」や、社員の「それぞれの担当業務を責任を持ちやり遂げる」といった思いが表れているポイントです。
AI技術を活用した新たな挑戦と未来への思い

ーー今後の事業展開について教えてください。
石田尚:
現在弊社では、データの価値化に挑戦しています。これで集めるのが不可能だったようなデータを収集し、それらを生産ラインやサプライチェーンにとって付加価値がある形にすることです。
データ活用から生まれる新プロジェクトも今後発足する可能性が大いにあります。お客様の現場の声を吸い上げて新たな事業をつくるなど、世の中にとって与えるインパクトを大きくしていきたいと思っています。
ーー具体的にはどのような製品ができているのでしょうか。
石田尚:
現在は、農水産物の種類やサイズなどを自動で識別するAIシステムの製品化を進めています。具体的なリリースは順次行っていきますので、どうぞご期待ください。
ーー事業拡大・事業展開を進めるために、どのような人材を採用したいですか。
石田尚:
弊社は全職種で採用活動を行っていますが、「製造・組み立ての中核を担うフィールドメンバー」「ソリューション営業」「AIエンジニア」を求めています。
先にプロセス品質と申しましたが、特に機械を組み立てて、お客様の現場で稼働するようになるまでを担うアンカーのようなフィールドメンバーは力を入れて採用しています。
弊社には、社員一人ひとりの業務を見える化できる仕組みもありますし、職種や担当業務などが違う場合も、貢献度を現実に則した形で数値化できる組織行動論に基づいたユニークな制度があります。どのような職種の方でも正当に評価される仕組みが整っているので、「裁量を持つことにやりがいを感じ、自由に行動できる方」に入社していただき、クライアントにとって必要だと思ったことをどんどん実現していってほしいです。
技術を大切にする方にとって、面白い会社でありたいと思っています。共に、誰もやっていないことに取り組み、世の中を変えていくことができると嬉しいです。
編集後記
「モノづくりへの興味」がきっかけで、「必要とされるモノをつくりたい」という夢を実現させてきた石田氏。コンサルティングファームでの経験も活かしながら「課題を見える化し、解決していく」というPDCAサイクルを回しながら新たな製品開発へのアイディアを得ていく姿勢が印象的だった。現在順調に事業拡大を続ける同社は、今後ますます成長していくことだろう。

石田尚/1986年静岡県生まれ。筑波大学大学院修了。株式会社LTSを経て、2015年12月にイシダテックに入社。2020年に同社代表取締役に就任。2024年から筑波大学の非常勤講師として教鞭をとる。