※本ページ内の情報は2026年4月時点のものです。

1970年代から血液浄化事業をスタートし、その分野で国内トップクラスのシェアを誇る旭化成メディカル株式会社。2025年、旭化成グループから独立し、専業メーカーとして新たなスタートを切った。同社を率いるのは、研究職からキャリアをスタートし、ドイツやアメリカでの海外駐在、ドイツ現地法人社長などを経てグローバルな経営視座を持つ代表取締役社長の稲留秀一郎だ。独立の背景にある医療への深いコミットと海外展開への強い意志、そして「第二創業期」を迎えた組織づくりの展望についてうかがった。

研究職から始まったキャリアとグローバルでの経験

ーーまずはこれまでのご経歴からお聞かせください。

稲留秀一郎:
九州大学で生物学を学んだ後、旭化成工業株式会社(現・旭化成株式会社)に入社しました。当初は営業職での採用と聞いていたのですが、配属されたのは大分の研究所でした。そこで9年ほど、輸血用の血液製剤から白血球を取り除くフィルターの研究開発に携わりました。その後、ヨーロッパへの事業展開のためにドイツ・フランクフルトに5年ほど駐在し、帰国後、日本での業務を経てアメリカ・シカゴでの拠点立ち上げも経験しました。

ーードイツやアメリカでのご経験は今の経営にどう活きているのでしょうか。

稲留秀一郎:
大きく影響しています。欧州は時間をかけて信頼を築く確実性を重視する文化な一方で、アメリカは自己主張で存在を示さないと物事が動かない環境でした。また、アメリカ駐在時はちょうどリーマンショックの時期とも重なるなど、異なる文化や厳しい経済状況の中で仕事の進め方を学べたことは大きな財産です。

また、2015年からは4年間、ドイツの現地法人の社長を務めました。それまでは研究開発の視点が中心でしたが、輸入から販売、資金回収に至るまでバリューチェーンの全体を見る経験ができたことで、経営者としての視座が養われたと感じています。

独立を機に医療へのコミットを深め海外展開を加速

ーー貴社の事業の強みを教えてください。

稲留秀一郎:
弊社のコア技術は「中空糸」という、ナノレベルの穴が開いたストロー状の繊維です。これを用いて、体から尿毒素や不要な物質を取り除く血液浄化のフィルターを製造しています。国内の透析分野で高いシェアを持つだけでなく、もう一つの主力であるアフェレーシス分野では、フィルターと装置、回路を組み合わせて一つのシステムとして提供できる点が大きな強みです。

ーー独立された背景や狙いをお聞かせください。

稲留秀一郎:
旭化成グループの中では、ヘルスケア領域における投資がより高収益な海外の医薬分野にシフトしつつありました。そのなかで、弊社が大切にしてきた「日本でのものづくりを起点に日本をはじめ世界に事業を拡げる」という事業方針が領域のねらいから外れてきたという背景があったと思います。

今回、医療機器専業として独立したことで、これまでの大きなブランドを守るためにリスクを回避するという姿勢から、自分たちでリスクを取りながら海外に積極的に展開し、かつ集中治療など事業の領域を拡げていけるようになりました。また、以前は「旭化成という会社に貢献する」という意識で働いていた人も多かったと思いますが、独立を機に「直接、医療の現場に貢献しているんだ」という誇りやモチベーションをより強く感じて仕事に取り組んでほしいと考えています。

第二創業期 外とつながり新たな歴史をつくる仲間へ

ーー今後の事業展望や目標についてお話いただけますか。

稲留秀一郎:
日本のヘルスケア市場は長期的な成長が見込みにくいため、事業を成長させるためには海外での展開が不可欠です。現在、売上高の約半分が海外ですが、2030年には海外比率を6割に引き上げる目標を掲げています。アジアや中東での展開に加え、最大の市場であるアメリカへの進出も進めていきます。海外にはフレゼニウス社など強力な競合他社も存在しますが、弊社ならではのシステム技術力と付加価値の高い製品群でグローバル競争に勝ち残り、持続的な成長を実現します。

ーー新しい組織づくりに向けてどのような取り組みをされているのですか。

稲留秀一郎:
現在は「第二創業期」と言える過渡期です。新しい会社としてのパーパスやミッション、ビジョン、バリューを経営層から下ろすのではなく、有志の従業員たちと一緒に考えてつくる活動を進めています。

また、2027年4月には新しい社名に変更する予定です。これからは自社内だけで完結するのではなく、社外のさまざまなパートナーとつながっていくことが重要になります。たとえば弊社が新たな事業軸として注力している集中治療の領域などで、世の中の優れた研究を医療現場に実装するお手伝いも積極的に行っていきます。

ゼロからの起業とは違い、これまで培ってきた強みを活用しながら新しい会社をつくっていける、非常に稀有な環境にあります。この環境を利用して自分の力を試し、外とつながりながら新しい歴史を一緒につくっていきたいという方に、ぜひ仲間になっていただきたいですね。

編集後記

大企業の安定から離れ、自らリスクを取って独立の道を選んだ同社。稲留氏の言葉の端々からは医療現場への強い使命感と培ってきた技術への絶対的な自信がうかがえた。長年培った確固たる基盤を持ちながらベンチャーのように挑戦できる「第二創業期」というフェーズは、自らの力を試したいビジネスパーソンにとって非常に魅力的な環境だろう。2027年の新社名への移行に向け、グローバル市場でどのような新しい歴史を刻んでいくのか、今後の展開から目が離せない。

稲留秀一郎/1966年、宮崎県出身。1989年九州大学理学部生物学科卒業後、旭化成工業に入社。旭化成メディカル血液浄化事業部 製品戦略・開発本部長、旭化成メディカル執行役員 血液浄化事業部長などを経て、2025年4月、代表取締役社長に就任。