※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

大阪府八尾市に本社を置く株式会社三笠鉄工所は、1955年の創業以来長きにわたって自動車部品の製造・加工を担ってきた企業だ。創業69年目を迎え、同社は自動車部品だけでなく新たな分野の開拓を進めているという。

7代目社長の三笠剛氏が大切にするのは、従業員が未来を見据えて働ける会社づくりだ。変革期にある同社の今後の展望や、従業員を中心に考えた組織形成、そして目下注力している採用活動についてうかがった。

ロールモデル不在の中、試行錯誤で取り組んだ日々

ーー社長に就任された経緯を教えてください。

三笠剛:
もともと高校時代に叔父に誘われて弊社の現場でアルバイトをしていたこともあり、大学時代には会社を継ぐことを考えていました。新卒で3年間、別の企業で勉強させていただいた後、2012年に27歳で三笠鉄工所に入社し、翌年に社長に就任しました。

ーー社長になられてから苦労したことはありますか。

三笠剛:
経営を教えてくれる方や学べる相手がいなかった点でしょうか。私が社長に就任した当時は、唯一経営を知っている前社長が退職した後でした。役員の方はいましたが、元々役職に就くために入社した方々ではありません。ロールモデルがいない中で自分自身の頭を使い、さまざまな経験を通して今日まで経営を行ってきました。その過程はなかなか苦労しましたね。

ーー社長就任後に取り組まれたのはどのようなことですか。

三笠剛:
私で社長は7代目なのですが、それまで短期間で社長が入れ替わる時期もあり、会社の方向性があやふやになっていると感じていました。そこでまず注力したのは、経営理念から就業規則まですべて見直し、会社の方向性を明確にすることです。

同時に、必要な部分に資金と人材を投入しながら売上を増やすことを目指しました。各部署に管理監督者を設置し、「町工場」から「会社」への脱却を図ったともいえます。そうした取り組みを、3年間は続けたでしょうか。社長就任前、売上は10億ほどで4期連続の赤字でした。現在の売上は18〜19億円まで上がりました。2023年度は6000万円ほどの黒字となっています。

自動車部品に限らず幅広い分野を開拓中

ーーあらためて、貴社の事業内容や強みについて教えてください。

三笠剛:
弊社は、自動車部品を中心とした製造・加工を行っています。弊社の強みは小物から中物、大物まで、さまざまな大きさ・形状の部品加工に対応できる点です。また費用面でも、中ロットから大ロットの量産物であれば、低コストで生産できます。

ーー今後注力していきたい分野はありますか。

三笠剛:
現在弊社が注力しているのは、新規の取引先開拓です。小物から中物、大物と取り扱いを増やしているのも、加工できる製品群の大きさや形状といった幅を広げたいという背景があります。製品群の間口を広げていくうえで、現在は船舶関係の魚群探知機のアルミカバーの製造・加工を行っています。

また、今後はロボット産業にも参入していきたいと考えています。技術は十分ありますし、ロボットは弊社が製造・加工できるジョイント部分の製品も多く使用されています。どう参入していくかはまだ試行錯誤の段階です。

ーー自動車部品にプラスして、新しい分野も開拓中ということですね。

三笠剛:
そうですね。これまでは会社を大きくする必要がなかったため、経営のベースにあるのは「現状維持」でした。しかし今は、お客さまのニーズに積極的にアプローチできる提案型の企業になりたいと考えています。しっかりと営業活動を行っていくことが大切だと思い、そのため数年前に営業部を立ち上げました。

従業員が主役と考え、採用活動にも注力する

ーー貴社は人材育成にも力を入れているとうかがいました。

三笠剛:
僕は、社長1人がどれだけ意気込んで動いても会社は立ちいかないと考えています。会社を支えているのは、間違いなく従業員一人ひとりの存在です。従業員の方々が一生懸命働いてくれて、初めてそれが形になるのです。従業員が主役で、社長は縁の下の力持ちぐらいでいいのではないかと思っています。

また、同族経営にこだわるつもりもありません。従業員の方から「社長になりたい」と手が上がるような会社にできれば、それは会社自体が良くなっているということだと思うのです。同族以外の従業員の方からそういった声が上がるような会社をつくるというのは、個人的な目標でもあります。

ーー今後は採用も積極的に行うのでしょうか。

三笠剛:
中途採用はこれまでも行っていましたが、今後は新卒採用にも注力していきます。そのために現在、工業高校や専門学校にも働きかけています。実際に新卒の方が入社するのは再来年になる見込みですが、それまでに工場の環境をもっと整えて従業員の満足度を高める必要があるでしょう。

皆が満足できる環境でないと、「入りたい」と思ってもらえませんし、離職にもつながります。社内環境の充実が目下の課題ですね。

ーーどんな方に入社してほしいとお考えですか。

三笠剛:
前向きに取り組める方、真面目な方、そして「自分1人で生きているわけではない」と理解できる方です。日常で実感することはあまりないかもしれませんが、人は皆、必ず誰かに助けられて生きています。誰かに必要とされるから仕事があり、人が必要だからお金がもらえるわけです。周りに対する感謝の気持ちを持って生きると、周囲も助けてくれますし、支えてくれます。

「周りの人がいるから自分がいるんだ」と理解し、周囲への感謝を忘れず仕事を行える方に来ていただけたら嬉しいです。

「持続可能な4K」を目指し従業員が活躍できる企業をつくる

ーー今後の展望についてお聞かせください。

三笠剛:
現在ビジョンとして掲げているのは「持続可能な4K」という、製造業の3Kを新たな4Kにする取り組みです。一般的にいわれる3Kとは「きつい・汚い・危険」ですよね。そこを弊社は「高効率・高収入・高環境・高待遇」の4Kにしたいと考えています。

従業員の方々が自分の価値を高めつつ、会社にしっかりと認められ、きちんと対価をもらい、世の中に必要とされる人材となる。そのような人材が集まる会社になれば、企業としての価値も高まっていくのではないでしょうか。従業員同士で相乗効果を生み出せる会社を目指していきたいと考えています。

ーーあくまでも中心は従業員の方々なのですね。

三笠剛:
そうです。会社の主役は従業員の方々です。僕自身も、「製造業だから」「昔からこれをやっているから」と現状維持に甘んじる環境はあまり好ましいと思いません。ですので、従業員一人ひとりが与えられた仕事だけでなく、自分で考えた仕事ができる環境づくりを意識していけたらと思っています。従業員の方々そしてこれから入社する方が自身の成長や、自分がやりたいことを実現できる企業を目指して頑張っていきたいです。

編集後記

「会社の中心は従業員」と語る三笠社長からは、会社への大きな愛情を感じた。従業員を大切にする企業は、これからどんどん躍進していくのではないだろうか。ロボット産業をはじめ今後フィールドを広げていく方針の三笠鉄工所から目が離せない。

三笠剛/1985年大阪府生まれ。近畿大学理工学部卒業後、2009年に株式会社ジェイテクトへ入社。2012年三笠鉄工所へ入社。2013年に同社代表取締役社長に就任。