新富士バーナー株式会社は、工業用バーナーの製造から始まり、今やアウトドア用品にもその革新的な製品展開を広げている。この企業の真髄は「炎をデザインする」という理念にあり、多くの分野で確かな信頼を築いてきた。2代目の代表取締役社長である山本晃氏に会社のこれまでの道のりと革新に対する情熱、そして未来のビジョンについてうかがった。
工業用からアウトドアまで!新富士バーナーの幅広い製品展開
ーー貴社の事業についてご紹介ください。
山本晃:
新富士バーナーという社名のとおり、弊社ではバーナーの製造販売を中心に行っています。近年は「炎をデザインする」というキャッチコピーとともに、炎に関連する製品を多数開発しています。
たとえば、非常に軽量なカセットガス式のバーナー「トライトレイル」という商品を今年の4月に発売しました。同時に発売した、雪山でも使用できるハイスペックなカセットボンベ(通称タフ缶)とともに、おかげさまで多くの方に魅力を感じて購入していただき、現在は品切れの状態です。
弊社では、BtoB、BtoCの両方で取引があり、昔はホームセンターの工具コーナーが主な販路でしたが、最近ではインターネット通販や自社ECでの流通も増えています。現在は、EC販路での流通がおよそ25%を占めています。
ーー社長に就任する前は、どのような業務をしていましたか。
山本晃:
入社当時は営業や開発に携わっており、会社の歴史もまだ浅かったため、どの仕事も基盤ができていない状態でした。商品は工業用のバーナーしかない状況で、新しい製品を開発する余力もなく、とにかくこの業界で生き残るために必死でした。
当時の社長は、「なんとか新しいものをつくりたい」という意識があったので、雑草を焼くために使う農業用のバーナーやアウトドア商品の展開を試みました。なかでも、開発に携わっていた当時に手がけた「ポケトーチ」はかなり印象深かったですね。
「ポケトーチ」は100円ライターをバーナーとして使用できるようにしたグッズで、最初は遊び心から開発されました。DIYなどのロウ付け作業で使用されることを想定していたのですが、これがアウトドアなどのさまざまな場面で活用されたのです。
この商品がきっかけでアウトドア商品を多数手がけるようになりました。これは弊社にとってターニングポイントとなった製品のひとつですね。新しいことへのチャレンジとして、ひとつの成功例と言えます。
苦労した経験が成功へと導く、新富士バーナーの革新とオリンピック聖火リレーへの道
ーー他にはどのようなチャレンジをしましたか。
山本晃:
22年ほど前になるのですが、プラチナ発光のランタンを製作しました。ランタンにはマントルという発光体が必要なのですが、そのマントルはとてももろいのです。壊れないマントルがあればという思いから金属製のマントルになるプラチナを採用しました。
しかし、現実はそう甘くありませんでした。プラチナは、それほど明るいわけでもないのに価格は従来のランタンの倍以上するため、まったく売れませんでした。その経験は、私にとってとても悔しい思い出ですね。しかし、そのような事情もありながら、このプラチナ発光の技術は唯一弊社だけがランタンへ採用し今まで続けてきました。
そして、東京2020オリンピックの際に、このプラチナ発光の技術が注目され、風に強く、多少の水滴も弾き返すため非常に消えにくいという長所が雨風の多い日本の気候に耐えられる炎として非常に高い評価を受け、聖火リレートーチの燃焼機構に採用されました。
開発した当初はあまり日の目を浴びなかった当製品ですが、それも無駄ではなかったということですね。「過去の経験が積み重なり、別の場所で花が開く」という経験ができたことは非常にうれしいことです。
「炎で新たな価値を創造する」企業の挑戦と未来へのビジョン
ーー貴社のバーナーは、他にはどのような業態で使用されていますか?
山本晃:
意外なところでは、お寿司屋さんですね。具体的には、「炙りネタ」を握る際のバーナーとしてご利用いただいています。また、厨房でのご使用に添うようにデザイン性を工夫したり、食品を扱うという特性から、抗菌素材を使用したりして、業態にあわせて提供しています。
このように、火を起点にさまざまな事業に展開できることは弊社の強みであると考えています。アウトドア業界を例に挙げても、靴やウェアなどのグッズは競争が激しいですが、火の領域に関しては私たちの専売特許です。工業系バーナーの業界の常識がアウトドア業界では「革新的だ」と言われることもあり、業界の垣根を越えて事業を展開できることで、独創性を提供し続けることができています。
火が持つ全体の熱量や、高温・低温などの温度状況、さらには火の明るさ、少し変わったところで言えば火が持つ癒し効果など、火にはさまざまな付加価値があります。これらをブレンドして、より安心安全な火を提供することが重要であると考えています。
ーー火の価値向上のために、取り組んでいることはありますか?
山本晃:
弊社では「火育(ひいく)」に取り組んでいます。火をむやみに怖がるのではなく、火との付き合い方を知り、利用できるようにすることで、自然災害時に役に立ちます。そのような観点からも、普段使いできるアウトドア製品の開発にも力を入れています。自然災害の多い日本だからこそ、火を主に扱う弊社にとって、「火育」活動に力を入れることは使命のひとつだと考えています。
ーー最後に、経営者として大切にしている考えを教えてください。
山本晃:
「多数決に流されるな」という考えです。多数派の意見というのは、逆に言うと平凡であることも多いのです。特に弊社のような開発提案型企業では他社と同じことをやっていても勝てません。少数派でも自分自身の考えを貫くことで、意外なヒットにつながることもあります。若手社員によく伝えているのですが、「社風は若者がつくるものである」と私は考えています。若い世代には独自性を持つことを大事にしてほしいですね。
編集後記
「炎をデザインする」ことを突き詰め世界的行事を支えた新富士バーナーは、まさにバーナー業界の、いや「炎」業界のトップアスリートと言えるだろう。また、「火育」によって持続可能な社会づくりに貢献するその姿は、これからの企業に求められるものではないだろうか。新富士バーナーの炎は、まだまだ勢いを増すばかりだ。
山本晃/1957年、愛知県生まれ、愛知工業大学卒業後、新富士バーナー株式会社に入社。2007年に代表取締役社長に就任。防災と火育の活動にも注力している。