ディーラーが顧客と商品の間に介在することで付与できる価値とはなんだろうか?そんな疑問に社会貢献の切り口から向き合ってきた会社がある。東京都台東区で機械工具商を営む山田マシンツール株式会社だ。
2代目に当たる代表取締役社長の山田雅英氏は、父の「社会貢献」という信念を継承し、豊富な知識量で、メーカーとユーザーをつなぐソリューションを提供している。
ディーラーが果たすべきこと、そして目指すべきビジョンとは何か。そのあるべき姿について山田社長にうかがった。
父の遺志を継ぎ、機械工具商の世界で生きる2代目社長
ーー山田社長の経歴をお聞かせください。
山田雅英:
弊社は父が創業した会社で、私は2代目にあたります。父は昔から会社を継がせる気で、日頃から「お前は長男なんだから会社を継ぐんだ」と言われ続けていました。
社会人のキャリアは、大阪のカツヤマキカイ株式会社での修業から始まります。配属先は管理部門で、業務内容は経理と他の業務をそれぞれ2年ずつ担当し、合計4年間の修業を行いました。大阪は機械工具の大手企業が多く、社長も心から尊敬できる方で、とても多くのことを学ばせていただきました。
弊社に戻って来たのは1985年のことです。父がまだ現役でしたので、しばらくは社員として働き、2006年に世代交代で代表取締役に就任しました。
ーー修業時代に印象に残っているエピソードは何ですか?
山田雅英:
社長からの「1日4回飯を食え」という言葉が印象的でした。ここでいう食事とは、食べ物ではなく「活字」のことを指します。3食と同じように活字を毎日摂取する習慣を付けろと言われ、目からうろこが落ちたような経験でした。以降、毎日の読書が習慣になり、今でも続けています。
また、入社時に言われた「あなたは育ててもいなくなるから、入社させるのは正直マイナスだ。しかし、最終的には業界のためになるから責任をもって育てる」という言葉は、今でも度々思い出します。
所属する組合の理事長を引き受けた時も、この言葉が背中を押してくれて「よしやるか」という気持ちになりました。
機械工具商と刻印機メーカーというアイデンティティをあわせ持つ
ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。
山田雅英:
弊社は1947年に父が創業した機械工具商をルーツに持つ会社で、今でもそれを主な事業にしています。取り扱っている商材は、工作機械や切削工具、測定工具、工作用機器、輸入工具など多岐にわたります。
弊社のミッションは、ユーザーとメーカーを直接つなげ、最適なソリューションを提供することです。この考えは、まだ戦争が終結して間もないころに父が抱いた「社会貢献のためにユーザーとメーカーの橋渡し役になりたい」という決意から来ており、今でも会社の芯として受け継がれています。
このミッションを成し遂げるために、弊社の営業は商品を売るだけではなく、顧客に工具の使い方を詳しく指導できるほどの知識を備えています。そのため、工具のコンサルタントとして顧客に接することができます。
弊社は利益よりも顧客に最適なソリューションを提供することを優先しています。会社の成長に不利になる場合もありますが、これが弊社の生きる道であり、この道を選んだからこそ今の弊社があると考えています。
また、刻印機メーカーとしての一面も持っています。扱っているのはハンディタイプの刻印機やレーザーマーカー、ナンバリングヘッドなどで、大手自動車メーカーにも納品しています。
先の見えない時代を乗り越えるキーワードは「クリエイティビティ」
ーー今後、特に注力したいテーマは何ですか?
山田雅英:
人材育成や経営幹部育成に取り組み、会社全体の自律性向上を目指します。
時代の先が読めなくなってきている現代、会社にはクリエイティビティ(創造力)によって課題を乗り越える力が求められています。そのためには個々が臨機応変に動きつつ、組織としての団結力もあわせ持ち、意思を持った集団になるということを意味しています。。
それと並行して、新世代の育成にも取り組んでいきます。弊社の営業には顧客に最適なソリューションを提案できる知識量が求められるので、計画的な採用が必要です。
これからの時代、チャンスをつかむセンスやスピード感だけでは乗り越えられない大波が訪れることもあるでしょう。そうなったときに頼れるのは自らの泳ぐ力です。クリエイティビティのある社員の力を合わせて、次の時代へと進んでいける会社でありたいですね。
社員と支え合い、誰よりも皆の家族のために貢献し続けたい
ーー最後に、社長が大切にしている考えを教えてください。
山田雅英:
弊社は経営理念に「まずは家族から」を掲げています。
社会のグローバル化はビジネスを始めとした人間活動の可能性を広げましたが、その一方でコミュニティの断絶を引き起こしてしまいました。だからこそ弊社は、人間にとって一番身近で大切な「家族」のコミュニティを最優先にしたいのです。
この理念を実現するには、会社が健全であり続けねばなりません。継続的な新卒採用や研究開発などを行い、企業に進化と代謝をもたらし続けることが求められます。私は社員たちの家族を守るために、この課題に常に真摯に向き合っていく所存です。
会社、そして社長とは、社員なしでは成り立ちません。多くの成功者は、成功した理由を「運が良かった」と言いますが、その言葉の裏には「さまざまな人の支えを得られた」という意味が隠れています。
人は一人では生きられない生き物です。私は社長として、社員たちの力を結集できる存在であり続けたいと考えています。そして、束ねた力で社会貢献をしていくために、皆さんの力を貸していただければと思います。
編集後記
会社を大きくするよりも、顧客の悩みに向き合うことを優先すべきと考える山田社長の考えは、仕事の根本的な価値観を思い出させてくれるものだ。お金が生活の資本を支える現代だからこそ、この優先順位を誤ってはならない。この信念を胸に、クリエイティビティを発揮して切り開く未来は明るいものになるだろう。
山田雅英/1956年生まれ。日本大学経済学部卒業。大阪のカツヤマキカイ株式会社に入社、経理業務など4年間の修業期間を経て、1985年に山田マシンツール株式会社に入社。2006年、代表取締役社長に就任。2018年、一般社団法人日本工作機器工業会の監事に就任。2021年、東京都機械工具商業協同組合の理事長に就任。