※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

テレワーク増加の影響もあり、疲れにくくデザイン性に優れた高性能シートの需要が好調だ。ブリッド株式会社は、カーレース用シートの製造販売を40年以上前に開始した。

フルオーダーのハンドメイドによって性能を追求し、国内外のトップレーサーから信頼を寄せられている。その知見をもとに一般ドライバー用シートやチャイルドシートも手がけ、最近ではテレワーク用、医療用、スタジアム用とさらにジャンルを広げている。

一代で同社を国内外トップクラスのスポーツシートメーカーに成長させた、ものづくりにとことんこだわる職人気質の高瀬社長に起業の経緯や事業内容、ビジョンについてうかがった。

起業は、自ら引き寄せた必然

ーーシート専業メーカー設立のきっかけは何でしょうか。

高瀬嶺生:
ディーラーでメカニック、サービスフロントとして経験を積んだ後、転職した自動車部品の卸売会社で出会った方とのご縁で、会社を設立し、シートづくりを始めました。

数あるパーツの中でも1つの分野を極めたいと思っていたことと、「社長になる」という中学生の頃からの夢が合致する形で叶いました。それは単なる偶然ではありません。全身全霊で取り組みたいことがあり、それに向けて努力を重ね、アンテナを張り巡らせていたから、運を引き寄せたのだと思います。

ーー貴社が世界的メーカーになるまでのプロセスを教えてください。

高瀬嶺生:
創業以来、ずっと持ち続けてきた揺るぎない信念は、高品質・高性能のシートを完全オーダーメイドで手づくりすることです。

当然、手間暇を要します。委託製造や量産型であれば、楽に今以上の利益が望めるでしょう。しかし、私はあえて厳しい道を選択し、進んでいます。自社製品、自社ブランドを育てるために絶対に譲れない条件は、シートづくりへのこだわりや、築き上げてきた技術といった弊社のDNAを残していくことです。

創業からしばらくはレーサーの信頼も得られず、思うように売れませんでした。今は一般にもスポーツシートが定着し、モータースポーツのトップドライバーからも支持を得られるようになったとはいえ、ニッチなマーケットではあるので、認知度向上には注力し続けています。

レーサーやレーシングチームのスポンサーへの告知、モーターイベントへの参加、メディアへの出演のほか、SNSやYouTubeもフル活用しています。ここまでして知ってもらい使ってほしいのは、シートに絶対的な自信があるからです。

目指すは全世界80億人の笑顔!シートが支える未来

ーー近年はモータースポーツ以外のジャンルにも進出していますね。

高瀬嶺生:
弊社では、シートの高い性能とブランドの確立に加えて、ご要望に応え、アフターケアも怠らないことを徹底しています。「BRIDE(ブリッド)のシートを使いたい、人に勧めたい」とユーザーから選ばれ、継続的に購入いただける仕組みが、他ジャンル展開の土台にもなっています。

まず、業界初のトラック専用シートを開発しました。長距離、長時間の運転でも負担が少ないと評価をいただいています。

2016年にはサッカーJリーグ、ガンバ大阪のホームである市立吹田サッカースタジアム(現Panasonic Stadium Suita)のシートに、チームからのご用命で採用されました。

レース用シートは安全が大前提ですが、トラック用シートであれば体への負担軽減、テレワークやゲーム用シートであれば快適さ。分野ごとにソリューションを積み重ねて製品を増やすことで、ジャンルもアイテムもますます拡大しています。地球上の人口は80億人。つまり、シートに座る人が80億人いるわけで、潜在的ニーズは無限大なのです。

そこで、創業40周年に「Make the sitting happy.」というビジョンを掲げました。すべての人がより安全に快適に座り、笑顔になるシートをつくり、届けていきたいという意味を込めています。

これまでもこれからも「中身」で勝負

ーービジョン達成に向けて、どんなことに注力していきますか。

高瀬嶺生:
弊社は今も創業した町の小さな工場が本社・製造拠点で、社員は20人に満たない少数精鋭。取引先やお客様には、よく驚かれます。私は、会社の規模を大きくするつもりは毛頭ありません。中身を大きくしていきます。

中身には「人」も重要です。私と同じく、弊社の社員はものづくりにこだわり、お客様に喜んでもらうことが何よりうれしいと口をそろえて言います。好きなことを仕事にして、人に感動を与えられるのは幸せなことです。

最近「未来が見えない」というネガティブな声を耳にしますが、現実を分析するだけでは未来が見えるわけがありません。未来は自らでつくるもの。分析ではなく空想し、実現にはどうすればいいかを思考します。すると、ポジティブにチャレンジしていくことができます。

企業も、守りに入ってはいけないのです。夢を掲げ、経営者自身がチャレンジしていくこと。こうした姿勢に社員は希望と可能性を感じ、力を発揮してくれます。今後も、弊社は攻める姿勢をもっていきます。

編集後記

「常に新しい」がキーワードだと言い、開発会議や商談などのスケジュールが、分刻みでびっしり。シートメーカーでありながら、仕事中に座ることはほぼないほど精力的に活動する高瀬社長。御年73歳ながら驚きのバイタリティで、80億人すべての人にとって「座る」ことを幸せにしてくれるはずだ。

高瀬嶺生/1951年愛知県生まれ。カーディーラーでの自動車整備、自動車部品商社の営業を経て、1981年にスポーツシート専業メーカー、ブリッド株式会社を設立。