※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

1929年創業の油研工業株式会社。油圧機器専業メーカーとしてさまざまな油圧製品を開発するだけではなく、油圧のシステム化や環境保護への対応など、時代の変化に合わせて事業の幅を広げてきた。今回は同社の代表取締役社長である永久秀治氏に、経営の課題や企業としての強み、今後の展望をうかがった。

元銀行員が「景気変動に敏感な油圧メーカー」の社長へ

ーー前職での経験や入社当時の思いをお話しいただけますか。

永久秀治:
日本興業銀行(現みずほ銀行)に27年ほど勤めていました。法人向けの営業から、人事部・経営企画部・秘書室といった本部業務まで幅広い経験をした中でも、特に印象深いのは融資先企業の「経営」をサポートするコンサルティング業務です。

私はあらゆる企業の経営手法を見てきたつもりでしたが、50代で油研工業に出向し、初めて「ものづくり」の仕組みを理解したといえます。銀行のように巨大な組織ではなく、資本関係も独立した自由度が新鮮な一方で、景気の影響をとても受けやすいことに驚きました。

私が入社した2005年頃の油研工業は、バブル崩壊後の大規模な「企業再構築計画」が完了し、売上アップを目指す段階だったのです。国内の景気も上向く中で、経営に携わるための勉強や準備に専念できましたが、どんな状況下でも多品種を製造する企業として、「技術力」と「信用度」で他社と差別化する重要性も感じていました。

ーー景気に左右された事例が多数あったのでしょうか?

永久秀治:
入社から現在に至るまで、3つの大きな出来事がありました。2008年のリーマン・ショックでは翌年度の売上がリーマン・ショック前の3割減少し、唯一赤字が出た年となりました。2011年に発生した東日本大震災によって、サプライチェーンが崩壊しかけたこともあります。各部長が毎朝集合し、調達ルートを念入りに確認する作業が数ヶ月続きました。

コロナ禍に突入した2020年は売上が激減し、7億円規模の経費削減を実施したこともあります。あの頃は、コロナ特需により中国市場が一気に回復したと思えば、2022年にはゼロコロナ政策によって再び売上が急減する。そのような混乱がしばらく続きました。

弊社が「国内唯一」の大手油圧機器専業メーカーだからこそ、「変化」を受けた時のインパクトが分散されない面があると考えます。「Living with Hydraulics(油圧と共に生きる)」という経営理念を守り、時代や環境の変化に対応していくことが創業時からのテーマです。

日本企業の技術力を吸収した中国の地場メーカーが台頭し、価格競争に巻き込まれつつある中で、今後は中国一辺倒ではない「真のグローバル企業」を目指す必要があるでしょう。

「専業」を強みに油圧機器・システムを多数開発

ーー事業の特徴や強みを教えてください。

永久秀治:
弊社はバルブやポンプといった油圧機器をはじめ、機器を組み合わせた油圧システム、ペットボトル減容器・生ゴミ圧縮分別機などの環境機械を開発・提供しています。油圧機器の代表的な用途は「動力源」であることから、射出成形機、製鉄機械、工作機械などを扱う大手母機メーカーが主なお取引先です。

弊社は、重く・厚く・長く・大きい製品を扱う「重厚長大産業」の一員として、日本の高度成長を支えてきました。海外展開にも業界内でいち早く取り組み、1969年に台湾、1976年にインド、1978年には香港へ進出しています。

新製品を生み出し続ける「業界のパイオニア」という位置づけや、「専業メーカー」というブランド力・技術力・開発力の高さは大きな強みですね。安定した品質と納期の柔軟性においても高い評価をいただいています。また、アットホームな雰囲気と、一つのテーマやトラブルに対して全社一丸となって対応する力は弊社の強みだと感じています。

ーー注力している開発テーマもうかがえればと思います。

永久秀治:
油圧機器のデジタル化を進める上で、ドイツの油圧機器メーカー・HYDAC社と業務提携し、技術交流を図っています。「つながる油圧」というコンセプトを基に、バルブにセンサーを付けて携帯、パソコンで遠隔操作し予知保全対応を実施する通信技術開発を進めています。

また、脱炭素ニーズが強まる中、最高レベルの省エネ製品開発に注力しています。例えば、消費電力・発熱・騒音低減の製品開発や、風力発電普及に伴う油圧技術の応用、産学共同によるトライボロジー技術(※)の開発などです。

(※)作動油の油膜との抵抗を最小化する技術

また、油圧機器は、早く作動するほど異物の混入を防ぎやすいことから「応答性が高い製品」を開発してきました。現在は、油圧系統を制御する「サーボ弁」にリニアモータを採用し、1/1000秒単位という世界最速クラスの実装を成し遂げています。

海外進出&社会貢献で「油研工業」をブランド化

ーー今後の展望をお聞かせください。

永久秀治:
2022年度から2030年度までの中・長期計画のもと、Step1では国内外の生産拠点のグループ・シナジー発揮のための体制整備と、そのための積極的な設備投資を行ってきました。現在、弊社の子会社は国内に1社、海外に10社、生産拠点は国内外に5カ所あります。弊社程の企業規模で海外に工場を3カ所有するメーカーは稀かもしれませんが、国内外生産拠点の最適生産分担化により、グループ総合力による生産能力の引き上げを図り、競争力を高めてまいりたいと考えております。

Step1の他社と差別化するための事業投資と体制づくりを経て、2025年度からのStep2は「成長戦略を実践し、売上と利益の成果を出す期間」と位置づけし、2027年度には売上350億円達成を目指します。2030年度に向かうStep3は、たとえば油圧ロボットや航空事業など、新たな市場、新たな事業に挑戦し業容を拡大していくステージです。

「真のグローバル企業」を目指すからには、世界に認知される「ブランド力」を築かなくてはいけません。それを実現するのは社員であり、そのためにも、国内外の多様な人材が生き生きと働ける風土をつくり、人材が集まる魅力ある企業を目指してまいりたいと思います。

編集後記

「国内唯一の大手専業メーカー」というポジションを強みに、高品質かつ用途の広い油圧製品を手がけてきた油研工業。同社を取り巻く事業環境が、技術開発、品質、環境、生産性の大競争時代に入っていく中、「油研工業ならでは」をブランド力とし、大きな差別化を図っていく。「真のグローバル企業」を目指す同社の挑戦はこれからも続く。

永久秀治/1955年、東京都生まれ。一橋大学商学部卒業。1978年、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。部店営業、総合企画部・秘書室・人事部等本部業務、経営コンサルティング業務を経て、2005年に油研工業株式会社に入社。営業副本部長、取締役経営企画室長、常務取締役管理本部長などを経て、2017年に代表取締役社長に就任。