
ハイスピードカメラを中心とした計測機器分野で存在感を放っている株式会社フォトロン。同社の手がけるカメラは「1秒間に数千〜数万コマ」という驚異的な撮影機能で、自動車の衝突実験からインクジェットプリンターのノズル開発まで、肉眼で捉えられない現象の可視化を実現している。ニッチな市場で確固たる地位を築く同社の代表取締役社長、瀧水隆氏に話を聞いた。
海外駐在が教えてくれた仲間の大切さ
ーー貴社に入社した経緯を教えてください。
瀧水隆:
私は、1983年に株式会社大沢商会へ入社したのですが、わずか1年で会社が倒産してしまいました。ちょうどそのころ、私は大沢商会の一部門として設立された弊社に出向しており、倒産の話を聞いてとても衝撃を受けました。「会社はこんなにも簡単になくなってしまうのか」と驚いたことを覚えています。
当時の弊社は社員30人ほどの小さな会社でしたが、居心地も良かったので、そのまま残ることを決めました。加えて、NECの「PC-9800シリーズ」というパソコンが出てきた時期で、斬新な機械に触れられることも残る決断につながりましたね。
ーーその後はどのような経験をしましたか?
瀧水隆:
大阪や東京で営業を経験した後、32歳のときに海外駐在の話がありました。一人だけの駐在事務所で勤務することに不安もありましたが、妻の後押しもあって渡米を決めました。インターネットがない時代だったので、子どもの学校の手続きから住居の準備に至るまで全て自分でやらなければならず、とても苦労しましたね。
また、海外の事務所には相談できる相手もおらず、お問い合わせに対して知識が足りずに対応できないこともありました。出張で日本に戻ったときは「みんなには仲間がいて羨ましいな」と感じていましたね。
それと同時に「競うべきは外であって社内ではない」と考えるようになりました。競合は外にいるのですから、仲間とともにそちらに目を向けるべきだという意識に変わりました。
ニッチだからこそ存在感を放つビジネス

ーー貴社の事業内容をお聞かせください。
瀧水隆:
弊社の事業は大きく二つあります。一つはハイスピードカメラを中心とした計測分野での製品開発とその海外展開です。もう一つは、海外から輸入した映像関連製品をワークフローとともに提案する事業で、こちらは大手企業に編集システムやバーチャルシステムを納品した実績もあります。メーカーと商社の両方の機能を持っているのが、弊社の特徴といえるでしょう。競合他社があまり多くないニッチな分野ですが、だからこそ存在感があり、製品も高単価で利益を確保できています。
ハイスピードカメラは一般の方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、車の衝突試験に使われるもの、というとイメージしやすいかと思います。他には、インクジェットプリンターのノズルから出るインクの一滴がどう着弾するかといった研究開発にも使われていますね。弊社が扱っているのは肉眼で捉えられないものを見えるようにする製品で、企業の研究開発に欠かせないものとなっています。
ーー貴社ならではの人材活用について教えてください。
瀧水隆:
製品の専門性を考慮して、営業職にも理系出身者を積極的に配置しています。お客様は研究者やエンジニアが多いので、同じ目線で会話できることが強みになります。文系出身でも理系的な感覚を身につければ対応できますが、理系出身の方がより自身の強みを発揮しやすいでしょう。
また、海外での事業展開も盛んなので、語学力を活かして活躍できる機会も豊富ですね。中学生レベルの英語で十分コミュニケーションはとれるので、語学に自信がない社員も積極性を持って取り組み、活躍しています。
グローバル展開を加速し、300億円企業を目指す
ーー人材育成において、どのようなことを大切にしていますか?
瀧水隆:
社員には、基本をしっかりと学んだ上で応用を考えてほしいと思っています。ビジネスマナーや製品知識、お客様との会話など、まずは基礎を固めることが重要です。加えて、何事にも好奇心を持つことも大切です。社内で成長している人は、「これは面白い」と楽しみながら仕事をする姿勢を持っている人が多いですね。
弊社は上層部との距離が近く、若手でも「こういうことをやってみたい」などの提案がしやすい環境が整っています。自分の意見が反映され、権限も与えられる環境で、挑戦を楽しめる方にぜひ来てほしいですね。同じ一生を過ごすなら、楽しみながら取り組まないともったいないと思います。
ーー最後に今後の展望についてお聞かせください。
瀧水隆:
現在は売上200億円、利益は20億円ほどですが、これを300億円の売上と30億円の利益にしたいと考えています。過去に倒産した会社にいた経験から「赤字は絶対にだめだ」という強い思いがあります。利益があってこそ、社員や事業への投資ができるのです。
今後の成長分野として期待しているのが、ハイスピードカメラの技術を活かしたスポーツテック領域です。すでにJリーグ・Bリーグの映像やアーカイブ配信を始めていますが、これをさらに拡大していきたいと思っています。また、事業のグローバル展開も重要な課題です。現在、欧米や中国などに拠点がありますが、次はインドや東南アジアへ進出し、現地の技術発展に貢献していきたいですね。
編集後記
「一人でできることには限界がある」という瀧水社長の言葉が心に残った。親会社の倒産から始まり、海外駐在の孤独を経験した末に到達した真理は、ビジネスだけでなく人生の本質を突いている。仲間と協力し、好奇心を持って新しいことに挑戦し続ける社風こそが、フォトロンの強さを支えているのだと感じた。

瀧水隆/1960年、広島県生まれ。1983年に立命館大学文学部を卒業後、株式会社大沢商会に入社。1984年、大沢商会の一部門を母体として設立された株式会社フォトロンに入社。以後、PHOTRON USA, Inc取締役社長、PHOTRON EUROPE Ltd.取締役社長、PHOTRON(SHANGHAI)LIMITED董事長、株式会社フォトロン取締役兼常務執行役員などを経て、2019年に代表取締役社長へ就任。