※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

バルブ業界において、海外市場開拓と最新技術の導入で先駆的な役割を果たしてきた木田バルブ・ボール株式会社。1964年、街の鉄工所として創業して以来、バルブボール製造を中心に研究開発を続け、技術革新を進めている。近年は医療機器や半導体分野にも進出し、さらなる成長を遂げている。グローバルな視点と革新的な技術で業界の枠を超えた挑戦を続ける同社社長の木田浩史氏に話を聞いた。

海外経験が育んだ経営者としての視野

ーー学生時代の印象に残っている出来事を教えてください。

木田浩史:
高校2年生の夏休みに行ったカナダへのホームステイです。海外への興味が芽生える、とても印象的な経験でしたね。ホームステイのきっかけは、当時父親が経営する会社が貿易をしていて、カナダのお客さまが家族で日本に遊びに来たことでした。

この経験が、英語や異文化をより学びたいという思いにつながり、神戸国際大学へ入学することとなります。父が海外事業部の人たちと市場開拓をしていたので、その姿を見ていたことも私の海外への興味を深めたと思いますね。

ーー大学卒業後、すぐに家業を継がれたのでしょうか?

木田浩史:
大学卒業後は、先端の生産設備を導入していた別の会社に入社しました。大学卒業後の1年間は海外で放浪したいという思いもありましたが、ものづくりの現場で最新の技術や効率的な生産方法を学べたことは、本当に貴重な経験となりましたね。その後、物心ついたときから父の跡を継がなければならないという思いを抱いていたこともあり、1993年に家業である木田へ入社。2010年には、代表取締役に就任しました。

バルブボール技術が切り拓く医療業界への挑戦

ーーどのようなきっかけで、医療業界に進出しましたか?

木田浩史:
実は、私たちから売り込みに行ったわけではありません。ある日、弊社のホームページを見た人工関節を製作している医療機器メーカーから、「この球体を加工できませんか」という問い合わせがあったのです。

当時、その医療機器メーカーは切削と研磨を別々の会社に依頼していて、品質の安定性や納期のコントロールに課題があったそうです。私たちなら両方の工程ができると伝えました。結果的に、品質も納期も改善できたのです。

ーー自動化への取り組みについて聞かせてください。

木田浩史:
最近では、メカトロ事業部を立ち上げて、自動化にも力を入れています。もともと、長年弊社の専用機をつくっていた会社をM&Aしました。そのノウハウを活かして、専用機の開発やロボットを使った自動化の提案を行っています。

この自動化の動きは、特にコロナ禍で効果を発揮しました。コロナの影響でベトナム人実習生が入国できない時期があったのですが、そのときにロボットが大活躍したのです。人手不足の解消だけでなく、生産性の向上にもつながりました。この自動化のマシンやシステムのノウハウを提供することも考えています。

半導体産業への参入と働き方改革で最高益を更新

ーー半導体業界向け事業が好調だとうかがいました。

木田浩史:
半導体はスマホやパソコン、車の自動運転にも使われていて、今後も伸びていく産業です。大手企業の半導体製造プラントには、フッ化水素酸を流すラインがあり、そこでバルブが多く使われていて、消耗が激しく交換の頻度が高いんです。この2年間、半導体業界向けのバルブ製造が好調で、過去最高益を達成しました。

ーー働き方改革とオフィス環境づくりについて聞かせてください。

木田浩史:
年間休日が130日あって、残業もほとんどありません。これだけ休みが多く残業もなくて過去最高益を達成できたのです。今は昔よりも働く環境や時間を重視しますからね。働きやすい環境づくりが、結果的に会社の業績向上にもつながるんだと実感しています。

さらに、新しいオフィスビルを建設しました。事務所には、上質な木を使用した机に、イタリア製オールレザーの椅子を用意。カフェのようなオシャレな空間の食堂もつくりました。1人で考えたいときやWeb会議のときなど、自由に使えます。これは単なる環境改善ではなく、次世代への継承を見据えた取り組みだと思っています。

ーー今後、どのような事業展開をしていく予定ですか?

木田浩史:
海外市場も視野に入れています。今、半導体分野でも、海外の市場調査をしている段階です。40年前、父が築いた過去の貿易実績を活かしながら、ジェトロ(日本貿易振興機構)の海外展開ハンズオン支援を利用して、私たちの技術を世界に広めていきたいです。

編集後記

年間130日の休日と残業なしで過去最高益を達成し、新本社ではカフェのような空間でWeb会議ができる。製造業の概念を覆し続けてきた木田氏は、「海外への憧れはずっとありますから」と語る。17歳で経験した、カナダでのホームステイ。海外市場を攻めていくという夢は忘れられない。グローバルな視点、最先端の技術、そして働きやすい環境づくりを通じて、木田氏のバルブ業界の枠を超えた挑戦は続くだろう。

木田浩史/1967年大阪府生まれ、1989年神戸国際大学卒業。1989年株式会社タカコに入社し、1993年に木田バルブ・ボール株式会社へ転職。2010年に同社代表取締役に就任。新規事業であるメカトロ事業の事業を中心にトップセールスに注力。2024年に日刊工業新聞社が主催する「第42回優秀経営者顕彰」にて優秀経営者賞を受賞。