※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

ものづくりの課題に対する解決策の一つに「ファブレス」という自社で生産設備を持たない開発手法がある。オーセンテック株式会社はこのファブレスの強みを生かし、ニーズベースの課題解決に注力している。では、実際にどのような課題にどれほどのインパクトを与えられたのか。代表取締役社長の髙田全氏に、同社が開発した代表的な機械を通じてその実力を聞いた。

社長になるという「夢」を叶え、組織改革という「現実」に向き合う

ーー髙田社長の経歴をお聞かせください。

髙田全:
2003年に大学を卒業してから、エプソン販売株式会社で約10年間働き、その後単身渡米してドイツのハイテク企業・TRUMPF(トルンプ)の現地法人であるTRUMPF USA Incで約2年間働きました。

なお、TRUMPF USA Incでは主に現地日本法人への営業を行いました。私は英語が苦手だったので、逆に「日本語が話せる」という強みを活かして、アメリカでのポジション確立にとり組んだわけです。

弊社に入社したのは2014年のことです。弊社は私が社会人になってから父が創業した会社で、父の下で経験を積んだのちに2018年に社長に就任しました。私は昔から「社長になる」という夢があったので、夢と親孝行を同時に実現できるこの道はまさに自分にとって天職のように感じました。

ーー社長に就任してから注力したことは何ですか?

髙田全:
会社の組織構造を個人の力の集合体から、知識や技術の共有によって成り立つ集団へ生まれ変わらせることに注力しました。以前はいわば「個人商店の集まり」のような状態で、個人の力への依存度が高い状態でした。この状態が続けば、社員が抜けるたびに大きな損失を被ることになるので、組織にノウハウを蓄積して属人性から脱却する道を選んだわけです。

この変革によりノウハウの見える化と共有が可能な環境構築に成功し、従業員全体のスキルアップと仕事の効率向上に成功しました。

「ファブレス」だからこそできる、現場の課題にフィットした工業用機械開発

ーーオーセンテックの事業内容を教えてください。

髙田全:
工業用機械の開発や販売、メンテナンスなどを行っています。代表的な機械には金属を加工した際に発生する意図しない突起である「バリ」を除去する「バリ取り機」や、金属に付着した汚れを除去する「洗浄機」などがあります。

バリ取り機は「スーパー3K作業」とさえいえる手作業でのバリ取りを自動化するための機械です。その効果は絶大で、ある現場では1,530時間かかっていた作業を5時間まで短縮できました。

また洗浄機は、通常は有機溶剤を使用する金属の洗浄を水道水のみで行える画期的なものです。水には金属に付着した油や粉じんを落としにくい欠点があるのですが、弊社の場合はお湯を使って物理的に洗浄することで欠点を克服しています。

これにより排水による環境負荷が減らせますし、化学的な洗浄で考慮すべき温度や湿度などの外的要因を考慮する必要もなくなります。まさに一石二鳥の効果を発揮する機械です。

ーー貴社独自の強みは何でしょうか。

髙田全:
弊社の強みはファブレスという生産ラインを持たない体制を敷いていることです。弊社で試作機を作成したのちに、協力企業に量産化をお願いしているので、製品開発において自社の設備やリソースを気にする必要がありません。

弊社はもともとメンテナンス会社としてスタートした経緯があるので、生産設備はないものの、現場で見聞きした課題やノウハウが蓄積されています。ファブレスの手法を用いることで、これらのアイデアを具体化できるので、自社設備がなくても顧客のニーズを前提にした製品開発が可能となるのです。

おかげで顧客満足度調査ではかなり良い数字をいただいており、弊社のお客様アンケートでは「とても満足62.5%、満足22.5%、普通10%」と、非常にうれしい結果となりました。

ーー会社として社会貢献活動にも力を入れているとお聞きしました。

髙田全:
社会貢献の一環として、相模原市の「こどもの未来応援スポンサー」活動をしています。これは、企業が夢を追う子どもたちのチャレンジを一緒に応援するもので、地域のスポーツクラブを主に活動費用面から支援しています。子どもたちの活力は地域の活力につながっていくものですので、可能なかぎり応援していきたい所存です。

なお、SDGsにも力を入れており「かながわSDGsパートナー」及び「さがみはらSDGsパートナー」にも選定いただいています。また、近年問題視されることが多い「クマ」の問題解決のために、一般財団法人日本熊森協会にも協力しています。

組織としての強さを追求し、一人ひとりが幸せを感じられる会社へ

ーー今後、会社の成長のために注力したいことは何ですか?

髙田全:
今後も個人ではなく組織全体を育てることを前提として、社員の能力向上に努めます。組織全体の強さが顧客満足度を高める源泉だと思っていますので、現状に甘えずに研鑽を続けていきます。

組織の強化で特に注力すべきと理解しているのが、手本となる人材の育成です。良い後輩は良い先輩あってこそ育つもので、手本となる先輩のレベルが高ければ、それを普通だと思って育った後輩も高いレベルを維持できます。こうして社員同士の良い連鎖が続けば、社内に良い文化が醸成されていくでしょう。

そして、優秀な社員のモチベーションを保つための待遇も必要です。良い待遇なしに良いサービスを引き出すことはできません。教育と待遇を両輪にして、新たな時代を築ける人材育成を行っていきます。

ーーこの記事の読者にメッセージをお願いします。

髙田全:
皆さんにはぜひ他責思考を捨て、自責思考を持ってほしいです。社会にはたくさんの理不尽な失敗がありますが、自分が関わっていることであれば積極的な介入により、その失敗を回避できる可能性があります。失敗を既定の事実とせずに、異なる結果を生み出すために努力してほしいのです。自責思考が身に付くと多くのことを「自分事」と受け止められるようになり、自分に秘められた可能性にも気づき始めるでしょう。

私の夢は、弊社を従業員が「自分の子どもを働かせたい」と思える会社にすることです。社員たちの人生に責任を持つことも社長の仕事なので、自責思考をしっかり持って、皆さんと一緒に幸せになれればと思います。

編集後記

ファブレスの可能性を引きだすのは、会社が持つ「目」と「アイデア」次第だ。オーセンテックにはその両方があり、そして髙田社長には組織としての素質を資産へと変える能力がある。これから5年、10年後に同社がどこまで成長しているのか、私たちはいずれ可能性の木が育った姿を目にすることだろう。

髙田全/2003年神奈川大学卒。同年にエプソン販売株式会社入社。2012年TRUMPF USA Incに入社。2014年オーセンテック株式会社入社。2018年同社社長就任。