食品、雑貨、ギフトや工業製品まで、紙製パッケージは私たちの生活のあらゆる分野に関わっている。株式会社クラウン・パッケージは、そんな紙製パッケージを1962年から製造し続けている愛知県の老舗企業だ。
代表取締役社長の佐光恵藏氏は、パッケージを通じてSDGsに取り組み、さらには人々の快適な生活に少しでも寄与しようと努力している。そして、その背景には相手の立場に立って課題を解決しようとするホスピタリティ精神が常にある。
佐光社長はパッケージを通じてどのような活動に取り組んでいるのか。事業の強みや社内環境の整備について、注力していることをうかがった。
2代目として副社長時代から組織改革に取り組む
ーー社長の経歴をお聞かせください。
佐光恵藏:
私は創業者の息子で、子ども時代から会社を継ぐことを父親から言われていました。大学を卒業後に4年間の海外留学を経て、1989年に弊社に入社。製造現場や営業を経て2006年に社長に就任しました。
社長を継ぐ意識が一層高まったのが副社長時代です。社長になったら人材から土地建物、設備まで、さまざまな要素を活かして事業を回していかねばなりません。そこで人とハードを使いこなす社員の力を発揮できるソフトの仕組みづくりに取り組みました。
この仕組みは社長に就任した後社員がソフト力をつけ、少しずつ実を付けていきました。そのおかげで、毎年売上高が伸び、2023年度には過去最高額の538億円を記録しました。
ーー組織を成長させるために力を入れて取り組んだことは何でしょうか。
佐光恵藏:
特に力を入れたのが優秀な若者の発掘です。
当時、弊社は全国に7つの拠点があったのですが、拠点同士がエリアのニーズを取り合うライバル関係になってしまっていました。この状態では製造技術のノウハウの共有や向上が見込めず、人材育成にも悪影響を及ぼします。
そこで、各拠点から製造部門の若手ホープを集め、各拠点持ち回りで技術のプレゼン大会を製造部署会議の中で実施することにしました。
そうすることで拠点間に交流が生まれるほか、お互いに刺激し合うことで良い意味でのライバル意識が芽生えます。必要なノウハウは共有し、成果を出すために切磋琢磨する環境が生まれたわけです。
人材育成の鍵は成長のチャンスを与えるフィードバック
ーー組織をけん引するにあたって、社長が大切にしていることを教えてください。
佐光恵藏:
部署を問わず部下に対して「絶対に人前で怒らずフィードバックに徹すること」です。特に若手に対しては気を使っています。
私は営業に同行することが割とあるのですが、部下のミスをその場で怒ることは避けています。もちろん顧客に失礼があった場合はその場で注意をしますが、責め立てることはしません。
同行中に問題があった場合は穏やかに注意して、帰社後に営業統括や関係者に共有して対策を講じます。ここで気を付けているのは「良い話も共有する」ということです。良い話と悪い話を両方共有することで、フラットな「フィードバック」として働きかけができるからです。
大手をもしのぐ「マイクロフルート」の技術
ーー貴社独自の強みは何でしょうか。
佐光恵藏:
「マイクロフルート(※1)」という段ボール製品の製造が得意なことです。マイクロフルートは昔から弊社が得意とするところで、マイクロフルートが着目され始めたころから、大手をしのぐ技術と製造効率を有していました。
さらに弊社は、大手メーカーが請け負わない細かい仕様の案件も受注しており、顧客のニーズにきめ細かな対応ができます。今やサンプル帳の材料だけで約2,000種類をラインナップするまでになり、初めての取引でも幅広い提案が可能です。
また、マイクロフルートは紙製品ならではの環境に優しい特徴も兼ね備えています。SDGsが叫ばれるようになり、今後さらに注目度は上がっていくでしょう。
(※1)段の高さが0.5〜0.6mmと極めて薄い段ボール。薄くかさばらないため応用幅が広く、通販箱や食品容器など幅広いジャンルで活用できる。
農業廃棄物を活用したパルプモウルドでSDGsに貢献
ーーSDGsに寄与するためにどのような取り組みを行っていますか?
佐光恵藏:
マレーシアに合弁企業を立ち上げ、農業廃棄物である油をとった後のヤシの空果房(ヤシカサ)だけで作ったパルプモウルド(※2)づくりに取り組んでいます。
農業廃棄物を使うことでゴミを減らせるのはもちろん、ヤシの実が腐る過程で起こるCO2やメタンガスの放出を削減することにもつながります。また、木材パルプを節約することで森林保護にも寄与できます。
この仕組みはほかの原料でも流用可能で、カカオの皮や茶殻を使った事例や、国内では捨てるに捨てられない寄贈された千羽鶴を混抄(こんしょう)した社会貢献的なオリジナル素材もあります。
(※2)段ボールや古紙を原料につくられる成形品。卵のパックやお弁当の容器などの食品容器から工業製品の包装、緩衝材まで幅広い分野で使われている。
製品改良を重ねてホスピタリティを表現できるレベルへ
ーー今後の展望をお聞かせください。
佐光恵藏:
すでに環境に優しいことやSDGsに寄与できることはあたり前になっています。弊社はそれらの条件をクリアしたうえで、さらに高いレベルを目指します。
弊社の製品に100%の「完成品」と呼べるものは一つもありません。つねに改良を続け、パッケージからホスピタリティを感じるようなレベルにまで昇華できればと思います。
顧客が困っていることがあれば、そこにビジネスチャンスが眠っています。その課題に真摯に対応し、良い関係を築きながら社会にも貢献できれば、これほど喜ばしいことはありません。
こんな時代だからこそ若者がのびのびと働ける環境を
ーー若手の採用を強化しているとうかがいました。
佐光恵藏:
新卒採用に力を入れており、今年も新卒を約60名採用しました。今後も積極的に採用していく予定です。
入社後の配属ですが、まず製造部署でものづくりの基本を覚えてから、改めて配属部署を決める流れです。ものづくりの基本を覚えると顧客のやりとりからオペレーターとの相談まで、さまざまな場面のコミュニケーションが上手く回ります。
また、若者が働きやすい環境づくりにも力を入れています。弊社では、とにかく若者に続けてもらえる環境を目指しています。取り組みの例を挙げると、「最大250万円までの奨学金の代理返済」などがあります。若者を取り巻く環境は年々厳しくなっているので、彼らが抱える悩みを少しでも肩代わりし、のびのびと働いてもらいたいと思っています。
編集後記
社会に優しく、人に優しく。目標を掲げるのは簡単だが、達成するには自ら、そして組織の変革が不可欠だ。これらを長期間徹底している佐光社長の行動原理には、徹底したホスピタリティ精神がある。佐光社長のマインドが会社に、そして若手たちに継承されていけば、社会は少しずつ良いものへと変革していくだろう。
佐光恵藏/1963年、愛知県生まれ。1985年に名古屋商科大学を卒業後、米国ネバダ州立大学リノ校に入学。4年間の留学後、1989年に株式会社クラウン・パッケージに入社。2006年に代表取締役社長に就任。マイクロフルート活用によるSDGs貢献活動に注力している。