※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

1958年に設立された株式会社さん・おいけ。京都生まれの老舗水引メーカーとして業界をけん引してきた。現在はモノづくりの会社として、水引のみならず各種紙加工品の企画・製造やノベルティ作成まで手がけている。5代目代表取締役の尾池幸治氏に、企業の魅力や今後の展開についてうかがった。

老舗水引メーカーを継ぐまで

ーー尾池社長のご経歴を教えていただけますか。

尾池幸治:
次男ということで家業を継ぐ予定はなく、大学卒業後は経営コンサルタントを目指して税理士事務所に入社しました。約2年で退職しましたが、いろいろな社長のお話を聞けて勉強になった期間でした。

就任当時は、スタッフやお得意様に認めてもらえるか不安でした。5代目として信頼を得るために、がむしゃらに働いていました。売上実績を確保するべく、2年にわたって営業をかけた結果、大手コンビニに金封を採用していただけました。当時は「そんなに大きな仕事を本当に取れるのか」と疑心暗鬼になるスタッフもいましたが、実現したことでみんなの心をがっちりつかめたのではないでしょうか。

事業の変化――OEMメインからオリジナルへ移行

ーー事業の変化もあったのでしょうか?

尾池幸治:
自社ブランドを伸ばしたことにより、売り上げの9割を占めていたOEMを3割に減らすことができました。OEMは在庫を抱える心配がないので精神的に楽ですが、「社内の人間がものを考えなくなる」という懸念がありました。

ベーシックな金封は、地域によって用途が異なる奥が深いものです。自社商品の開発にあたり、地域差について改めて勉強する必要がありました。オリジナル製品を手がけた当初は、しばらく注文がありませんでしたが、少しずつドラッグストアやホームセンターとお取引できるようになりました。現在は専門店向けと量販店向けに会社を分けて運営しています。

ーー貴社の強みをお聞かせください。

尾池幸治:
技術力の高さが大きな強みです。弊社の水引はキラキラしていて、他社様の製品と比べて輝きが違います。水引の素材の特長としては、しっかりとしたコシを重要視します。しかし、加工する場合は、柔らかさが必要となります。当社独自の技術を用いることでお客様に喜ばれる水引を生産しています。

ーー商品のラインナップも豊富ですね。

尾池幸治:
飽きられることを前提に、特殊水引など新しいものを考えなくてはいけません。紙の加工技術を活かした製品に関しても、ここまで多彩に展開している会社は他にないと思います。たとえば、ペット用棺はダンボール製がほとんどですが、ドライアイスによって変形するデメリットがあるため、弊社では紙製の棺を開発しました。絵馬をはじめ、オリジナルの紙製お神札も製造しています。

エコに向き合う企業として――機能的な紙製品と海外展開

ーー海外に展開したきっかけは何でしょうか?

尾池幸治:
たとえば、一般的な化粧品のコンパクトは主に樹脂製ですが、弊社は紙の製品を提案して、ヨーロッパなどの「脱プラスチック」を掲げる化粧品メーカーに提案中です。やはり、海外はエコロジーに対する考え方が進んでいると感じます。お酒の木箱に代わる紙製の貼り箱も、日本では「紙だと安っぽく見える」と感じる方が多いため、海外展開に向けて酒造メーカーに提案している最中です。紙は追求するほど面白く、大きな可能性を秘めていますよ。

ーー今後の展望をお聞かせください。

尾池幸治:
「紙の面白さや可能性」については、お客様から教えていただきました。水引き一本でやってきた弊社にとって、ひとつの大きな財産となっています。何事にもチャレンジすることが、会社や社員の成長につながると考えています。

これからも失敗を恐れずチャレンジしていける集団でありたいと思います。また、職人の高齢化にともない技術継承が難しくなってきたため、デジタル化による生産性向上にも力を入れていきます。

編集後記

今から23年前、大きな不安を抱えたまま家業を継いだ尾池社長。社員と切磋琢磨を繰り返し、斬新なアイデアを具現化していく会社を作り上げた。水引メーカーという枠にとらわれない「さん・おいけ」が、国内外に展開していく様子を今後も追っていきたい。

尾池幸治/1971年、京都府生まれ。長野大学産業社会学科を卒業後、税理士事務所へ入社。決算・経営コンサルなどを学び、1997年に株式会社さん・おいけに入社。副社長を経て、2001年に同社の代表取締役に就任。紙の可能性を探求中。