ビジネスにおいて、さまざまな課題を解決するためにIT投資は非常に重要である。システム導入には知見が必要なため、コンサルティング会社の支援を受けることがあるだろう。
これまでのコンサルティング会社とは違うやり方で、顧客を支援している会社が存在する。今回は株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジーの坂本社長に、起業の経緯や他社との違い、今後の展望について話をうかがった。
挑戦と転機を繰り返し、試行錯誤の中、発見したコンサルティングへの道
ーー前職では、どのような業務をしていましたか。
坂本俊輔:
新卒で入社したのがNTTコムウェアでした。私が配属された公共事業向けの営業部署は、もともとNTTの親会社からの仕事をしていただけのところから、グループ外の仕事を取り始めようとしているタイミングでした。70人ほどが営業部に在籍していましたが、誰も営業について教えてくれるわけではなく、手探りで仕事をする日々を送っていました。
ある時、日本郵政グループの新規開拓を担当し、郵便貯金や介護保険のシステムの提案を担当しました。提案をするにも当時はニーズにマッチした営業支援システムパッケージがありませんでした。一方で一から作成すると「費用が高く、納得いただけない」という問題がありました。
「もっと自分の中にあるアイデアを形にしたい」と思って転職を決意し、サイワークスに転職しました。サイワークスはコンサルティング会社で、私は営業支援パッケージの事業責任者として携わりました。しかし、数件の導入が決まった時に、中心事業が業績不振に陥ったのです。
この危機を乗り越えるべく、まずはコンサルティング事業の立て直しに尽力しました。そして、立て直しに成功した後、功績が認められて役員に抜擢されました。当初、サイワークスは、依頼されると何でも引き受ける会社でしたが、サービスメニューを作成し、それに応じて仕事を受注するスタイルに変えました。ここで作成したメニューが弊社の事業の原点ですね。
CIOアウトソーシング業が導く新たなIT投資の道筋
ーー社長はなぜ起業を決意したのですか。
坂本俊輔:
前職でコンサルティング業をしていく中で、発注支援を行った際にやりがいを感じました。この経験から、「これは価値のあるものだ」と気付いたのです。
その当時、サイワークスは、発注支援事業にあまり力を入れていなかったため、私が事業を買いとる形で独立しました。
以前から、ITシステム開発の流れに対して違和感を抱いていました。提供される価値と金銭の流れがマッチしていないのです。たとえば、お客様の問題解決のために営業を行い、システム開発を進める場合、この時点ではほとんど利益は発生しません。システム運用が開始されて初めて運用保守費として回収が始まります。双方がこのモデルを理解していれば問題ありませんが、実際には説明なしにこの状況が発生する構図になっています。
ーーその矛盾をどのように解決しましたか。
坂本俊輔:
起業する前から、多くの企業でIT投資がうまくいっていないと感じていました。その背景には、システム開発・運用で売上をあげるためにコンサルティング会社が活動しているという現状がありました。知見を持った優秀なコンサルタントがユーザー企業のためではなくシステム会社のために活動しているような構図があるのです。そのために、ユーザー企業側の支援に特化して専門知見を活用することを目指しました。
また、コンサルティング会社がユーザー企業側で活動している場合であっても、コンサルティング会社はベンダーに圧力をかけて無理な要求をし、開発を進めさせるというスタイルが多く見られる問題もありました。しかし、無理強いをされたベンダーは、パフォーマンスが下がって良いシステムを生み出せないという悪循環に陥ることも珍しくありませんでした。
そこから私は、ユーザー企業側の支援に特化しながらも、ベンダーがスキルを最大限に発揮できる環境作りをすることが、ベンダーのパフォーマンス向上につながり、ひいてはユーザー企業側のメリットとして返ってくるということに重点を置くようになりました。
ーー貴社の業務内容と強みを教えてください。
坂本俊輔:
弊社にはコンサルティング会社がよく使う「上流工程」という概念はありません。すべての工程を発注者側の立場で遂行するというポリシーを持っています。私たちはユーザー企業のIT体制の支援を軸に活動しており、大きく2つのサービスを展開しています。
1つ目は、「ITガバナンスの構築・運用支援」というサービスです。これは、情報システムに関するルール・プロセスの整備や研修等を通じたIT人材育成を支援するもので、組織作りをゴールとするサービスです。
2つ目は、「IT調達支援」というサービスです。システムの企画から発注、開発管理、稼動後の実運用段階までをサポートし、システムの価値を最大限に引き出せるようにフォローアップして、システムのライフサイクル全体を支援します。事業に貢献するシステムの実現をゴールとするサービスです。
弊社ほど発注支援の業務に特化している会社は他にはないと自負しております。また、弊社は他社と違い、ユーザー企業のIT体制の強化を追求して業務を行っています。中期的には、弊社が介在しなくても適切にシステム運用ができる組織にしていくことを目指しています。
そして、社員一人ひとりが発注者支援の知見を蓄積していることも弊社の強みですね。さらに、IT調達のナレッジを可視化して、社員教育に力を入れています。きっちり言語化されたマニュアルを整備し、システム導入に伴うさまざまなリスクを事前に予見できるような仕組みを整備しているところも大きな強みです。
コンサルティング会社に頼らない社会を目指して
ーー会社を今後どのように発展させていきたいとお考えですか。
坂本俊輔:
これからはユーザー企業がコンサルティング会社を必要としない、発注者支援がいらない社会を目指したいと思っていますし、弊社自身もコンサルティング事業からの脱却に注力していきたいですね。そのために、弊社のIT調達ナレッジを積極的に公開し、人的サービスからナレッジ提供サービスにシフトしたいと考えています。
ーー最後に経営者として意識していることを教えてください。
坂本俊輔:
経営者として「会社が社会においてどのような価値を提供できるか」「自分たちが必要とされる存在になれるのか」ということを強く意識しています。その意識を強く持てば、目指しているモデルを実現することも可能でしょう。そのために、今後も挑戦を続けます。
編集後記
常に問題意識を持ち、発注者側の立場からマネジメントを行っている坂本社長。明確なビジョンを持ち、ゆるぎない信念のもと、ユーザー企業のIT体制強化を行っている。今までにないコンサルティングを模索し続ける株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジーに、今後も注目していきたい。
坂本俊輔/1979年生まれ、東京大学卒。NTTコムウェア株式会社でSI営業に従事した後、2006年に株式会社サイワークスに入社。取締役就任後、現職事業の母体となるIT調達支援サービスを立ち上げる。2010年に株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジーの代表取締役社長に就任。ユーザー企業のIT体制強化のためのコンサルティング事業やナレッジ提供事業を手掛ける。2017年以降は政府CIO補佐官や農林水産省ITテクニカルアドバイザーも務め、政府機関の情報システム体制の強化にも取り組んでいる。