自動車を支える部品は多数あるが、その中でも電子装置や電子機器に電力・信号を伝えるためにワイヤーハーネスという部品は、安全な走行に欠かせないものである。
愛知県に本社を置く日幸ライト工業株式会社は、ワイヤーハーネス用部品を製造し、日本の自動車産業を支えている会社の一つだ。代表取締役社長である藤井章良氏にこれまでの同社の歩みと今後の展望、そして会社の将来を担う人材に期待することをうかがった。
品質と人材育成を大切にしながら、自動車のプラスチック部品、電機機器を製造し続けて70年
ーー貴社の事業内容について教えてください。
藤井章良:
弊社は自動車のプラスチック部品を製造している会社です。主にコネクタという電線を接続する役割を担うハーネス用部品をつくっています。1953年の創業当時は、プラスチックが徐々に普及した時期であり、熱を加えることで固くなる熱硬化性樹脂を扱い、ガラスビンのフタに始まり高圧電力用部品を製造していました。
ーー藤井社長は、若い頃から会社を引き継いでいこうと考えていたのですか?
藤井章良:
子どもの頃は「科学者になりたい」という夢を持ちつつ、一方で「いつかは父と同じ道を進むのかな」という思いもありました。
新卒で東海電線(現:住友電装)さんに就職し、ハーネスの管理部署で生産管理を学びました。東海電線に在籍している間に、学んだことを父の会社に生かそうと、日幸ライトに入社し、経営を学びました。前職で業務効率化のための仕組みづくりに携わった経験は、今でも大いに役に立っています。
ーー経営で大切にしていることを教えてください。
藤井章良:
まずは品質ですね。自動車関連は不良が発生すると事故につながる恐れがあるため、シビアな品質が求められます。弊社では、ISO9001に始まりIATF16949も取得し、自動車メーカーから求められる品質規格の認証を取得しています。
次に人材育成ですね。新入社員研修を始めてとして新卒者への教育を充実させ、また階層別教育を取り入れ、経営層や管理職、管理監督職などの階層別に毎年スケジュールを立て、社内勉強会や外部の講師を招いた研修などを開いて皆がスキルアップできるよう目指しています。
毎年、入社式では「日幸ライトでしか働けない社員にはなってほしくない」と話しています。私としては、社員がどこでも通用できるようなスキルを磨きつつ、「日幸ライトが好きで働き続けたい」という思いをもってくれたら、うれしいですね。
のびのびと働ける環境と助け合いの社風
ーー貴社は入社3年後の定着率が90%と高いですが、その理由はどこにあると捉えていますか?
藤井章良:
のびのびと働ける環境と、お互いに助け合う風土だと思います。弊社は、困ったときはみんなで補ってやっていきましょうというスタンスです。
ーー社員の良いところを伸ばすために、取り組んでいることはありますか?
藤井章良:
弊社では、自分で考えて、自分で行動できるという点を重視し、「工夫改善表彰制度」という制度を導入しています。
全従業員から安全対策、仕事の効率改善、資源の節約など、職場が良くなるようなアイデアを受け付け、報奨金を支給しています。
創業100周年に向けて、新たな歴史を創造する
ーー社長として、うれしかったエピソードはありますか?
藤井章良:
工場を新設できたことです。私が入社した当時工場は2つでしたが、今では海外を含め5工場にまで増えました。そして何よりも毎月社員に給料を払える瞬間が一番うれしいですね。1カ月が終わり、支払いの手続きが完了した瞬間に、社長として一番大切な仕事ができたという実感を得られます。
ーー今後の夢や展望をお聞かせください。
藤井章良:
昨年70周年を迎え、社史を発行しました。この会社を100年以上存続させていきたいですね。そのためにも「2025年ビジョン」というものもつくりました。時代ごとに必要とされる物事は変わっていきます。柔軟に対応するためにも今後はより採用や人材育成を強化していきたいと考えています。
日幸ライトの「日幸」には「毎日ささやかな幸せが続きますように」という思いが込められています。これからも、これを会社のカラーとして、社員全員と力を合わせて会社を成長させていきたいと考えております。
編集後記
「一番うれしい瞬間は社員に給料を支払うとき」という言葉に、藤井社長の社員に対する思いが集約されていると感じた。社員がのびのびと働けてスキルアップを目指せる環境があり、社員はお互いを補い合うという社風が、日幸ライト工業の70年という歴史を創り上げてきたのだと実感させられた。これから100周年に向かってさらに飛躍を続けていくに違いない。
藤井章良/1957年愛知県生まれ。高崎経済大学卒業後、東海電線株式会社(現:住友電装株式会社)に入社し、1985年に日幸ライト工業株式会社に入社。1997年に同社代表取締役社長に就任。